南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

スマトラ沖地震・津波と神様の存在

2007-02-11 22:02:32 | アジア
橋廣治さんの「東南アジアにおける宗教事情」(近代文芸社)
という本を読みました。2004年12月に起きたスマトラ沖地震・
津波で20数万人の人々が亡くなったのですが、スマトラの
メダンで日本国総領事館総領事である著者の橋さんが、被災
の現場でアジア人々の宗教観に関して考えていく一冊です。

震源地となったバンダ・アチェ市は、スマトラ島の北の端に
あります。地図で見ると、バンダ・アチェは、シンガポール
からはずいぶん北にあるんですね。緯度でいくと、ペナン島
と同じくらいの緯度、またシンガポールからの距離は、プー
ケットに行くのと同じくらいの距離感覚です。

インドネシアというと、シンガポールよりも南のイメージが
あるのですが、スマトラ島の大半は、マレーシアに平行して
いるかのように存在しているのですね。地図で見ると、津波
被害の大きかったプーケットは確かに至近距離。また距離は
遠くても、スリランカや、インドまで、海で遮るものがない。

「この被災は偶然のものではなく、それは神のなせる業では
ないのだろうか」と、特定の宗教を持たない著者は、被災地
の現場で感じたと言います。逆に、キリスト教徒の人たちは
「こんな酷い事になるなんて、もしかしたら神はおられない
のではないのか」と考えたと言います。

バンダ・アチェは、ほとんどの人がイスラム教です。イスラ
ムの人は、この災害に直面して、「これは神様の思し召し。
死者は別の世界に行った」と考えていたそうです。一方、
バンダ・アチェより少し南の二アス島という島は、スマトラ
沖地震の3ヶ月後、地震が直撃し、相当な被害がでます。
この島は、ほとんどがキリスト教なのだそうです。宗教の
違いを超えて、天災はやってくるというのが証明されました。

インドネシアでは、津波を題材としたDVDが市販されている
そうです。それはこんな内容なのだそうです。
「何故、かの地に大災害が発生したのか。
この世の出来事は全て全知全能の神アッラーのされたもう業
アチェにおいては長く紛争が続き、軍人が多くの人々を殺した
プーケットでは麻薬、売春が行われている
モルディブは白人たちに売春しているので島ごと沈んだのだ
インド、スリランカはイスラム教徒を迫害している
ペナン島では麻薬があり性が乱れている
全知全能の神アッラーはお怒りなのだ」
この災害は神の仕業と言わなければ、何とも説明のしようの
ないことなのでしょう。

著者の橋さんは、イスラム教、キリスト教、仏教、ヒンズー教
など様々な宗教があるが、アッラー、イエス・キリスト、釈迦、
様々なヒンズーの神々などを通して、その先にある大きな神の
存在にたどり着き、結局それは宗教が違えど、同じようなもの
ではないのかという結論に到達していくのです。なんだか、
すごい深い内容の本でした。

私は、津波の被災地の一つとなった、プーケットにも、ピピ島
にも何度か行ったことがありました。2005年の1月も、プーケッ
トの旅行を予約していたのですが、ホテルが営業不能になった
ということで旅行代理店からキャンセルの通知が来ました。
もしも自分が、偶然にもその時期に、被災地のどこかに行って
いたかと思うと、恐ろしくなります。

プーケットでは、パトンビーチのビーチ側のバンガローによく
泊まっていたので、その時、そこに泊まっていたら、おそらく
朝寝坊をしていたでしょうから、気がついたら、何が何だか
わからないうちにあの世に行ってしまっていたのでしょう。

私は、橋さんのの本を読んだあと、この自然災害での死者の数と、
広島、長崎、およびその他の空襲で亡くなった日本の人たちの
数を比べてみようということを考えました。スマトラ沖地震・
津波で亡くなった人々は、行方不明者を含めて、22万6194人と
いう数でした。各国別の詳細はこちらです。
http://rescuenow.cocolog-nifty.com/sumatra_earthquake/

広島原爆と長崎原爆で亡くなった人の数を調べたら、びっくり
しました。何と、広島では、死者、行方不明者あわせて、
12万2338人、長崎では、7万3884人。被爆後5年の間に亡く
亡くなった方を含めれば、広島で20万人、長崎で14万人という
驚くべき数字でした。東京でも1945年3月10日の東京大空襲で
は、死者が8万3千人、日本のほとんどの都市が空襲被害を
受けているので、トータルではすごい数になります。
日本の空襲被害に関してはこちらを参照。

広島と長崎の二都市だけで、スマトラ沖地震・津波の被害者の
総数よりも多いです。この事実には言葉を失います。
スマトラ沖地震・津波の被害者はものすごい数だと思っていた
のですが、実は日本の空襲の悲劇もとんでもない規模だったの
ですね。自然災害は、神の怒りということであきらめもつくの
ですが、原爆や空襲はを落としたのは、神ではなく人間なんで
すよね。人間が神の代理をするということが許されるのでしょ
うか。罪もない人々が制裁を受けないといけないほど、日本は
とんでもない国だったのでしょうか。当然の報いとして、我々
はこの死を受け入れないといけなかったのでしょうか。絶対に
防ぐことはできなかったのでしょうか。

広島や長崎の被爆現場で、あるいは次々と空襲を受けて焼け
野原となっていった焼土で、人々はそこになにを感じていたの
でしょうか。

なんだか、こういうことを考えると、複雑な気持になります。
地震や津波と、戦争被害を同列に考えてはいけないのでしょう
か?神様教えて。