詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(49)

2019-02-06 08:01:27 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
49 彼は誓う

彼はいつも誓う よりよき暮らしを送ると。
しかし夜がやってきて 忠告をささやき
妥協をちらつかせ 約束をほのめかすと、
夜がやってきて 懇願しまた慫慂し
肉体の力をもって迫ると、彼は負け
運命的な快楽へと戻ってゆく。

 私はカヴァフィスの、こうした短い詩が好きだ。
 短いけれど、そのなかに「夜がやってきて」が二回繰り返されている。この音楽が、「快楽」そのもの。最終行の「快楽へと戻ってゆく」を、そのまま暗示している。というより、先取りして言ってしまっている。繰り返すしか、ほかに方法はないのだ。

 この詩の主人公は「彼」になっているが、カヴァフィス自身だろう。自分のことを「彼」ということばで、「客観的」に繰り返す。「客観的」が繰り返され「事実」になる。そして、その事実というのは……、私のことばで言いなおせば「主観的事実」。主観の声、欲望の声だ。
 客観と主観が交錯する。
 たぶん、詩とは、そういう錯乱の瞬間に生まれる。

 「48 カフェの入口にて」と同じように、この詩でもことばは「抽象的」だ。ことばのなかで詩人はさまよう。

 池澤は、「運命的な」ということばに註釈をつけている。

 運命によってあらかじめ定められ、避けがたいということ。














カヴァフィス全詩
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