5 サルペードーンの葬儀
池澤の注釈は、要約するとそうなる。固有名詞への注釈が多いのだが、私は、注釈がついていない次の部分が好きだ。
若い男の姿が、若い男の姿のまま見える。それが誰であるかを忘れる。
「年のころは二十五か二十六というところ」はいかにもカヴァフィスの表現だ。大雑把なようで、細かい。とても関心があるのに、関心を隠すために「大雑把」を装っている。これは「恋」の表現である。
その若い男に注目している。目が離せない。でも、関心がないように装っている。
知っているのに、知らないふり。
「名誉ある賞を得て戻って/休息している」も、とてもおもしろい。
この「休息している」は「死んでいる」の暗喩なのだが、私は、死んでいることを無視して読んでしまう。
「若い王」の方も、見られていることを意識している。みんなにみられているのではなく、「ひとり」にみられていることを意識している。みんなに見られていると意識しているなら「休息」などしない。手を振って、歓声に答えているだろう。
『イーリアス』を下敷きにしているのではなく、カヴァフィスは「恋」の瞬間を『イーリアス』のなかに隠しているのだと、私は「誤読」する。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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『イーリアス』の一情景をそのまま一篇にしたてている。
池澤の注釈は、要約するとそうなる。固有名詞への注釈が多いのだが、私は、注釈がついていない次の部分が好きだ。
今や彼は戦車を乗りこなす若い王のように見えた--
年のころは二十五か二十六というところ--
最も速い馬の引く黄金造りの戦車で
競走に出馬し、名誉ある賞を得て戻って
休息しているといったありさま。
若い男の姿が、若い男の姿のまま見える。それが誰であるかを忘れる。
「年のころは二十五か二十六というところ」はいかにもカヴァフィスの表現だ。大雑把なようで、細かい。とても関心があるのに、関心を隠すために「大雑把」を装っている。これは「恋」の表現である。
その若い男に注目している。目が離せない。でも、関心がないように装っている。
知っているのに、知らないふり。
「名誉ある賞を得て戻って/休息している」も、とてもおもしろい。
この「休息している」は「死んでいる」の暗喩なのだが、私は、死んでいることを無視して読んでしまう。
「若い王」の方も、見られていることを意識している。みんなにみられているのではなく、「ひとり」にみられていることを意識している。みんなに見られていると意識しているなら「休息」などしない。手を振って、歓声に答えているだろう。
『イーリアス』を下敷きにしているのではなく、カヴァフィスは「恋」の瞬間を『イーリアス』のなかに隠しているのだと、私は「誤読」する。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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