詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ネタばれ、その2

2024-08-03 21:55:06 | 考える日記

 映画、あるいは芝居において、監督+出演者と観客とは、どう違うのか。何が違うのか。
 いちばんの違いは、監督+出演者は「結末」を知っている。(ネタばれ、を承知である。)一方、観客は「結末」を知らない。
 しかし、「結末」を知らなくても、対外の場合は「予測」がつくし、こんな奇妙な例もある。男と女が恋に陥る。ふたりはほんとうは兄弟なのだが、幼いときに生き別れになっていて、それを知らない。しかし、観客は、それを知っている。そして、ふたりはいつ自分たちが兄弟であると知るのだろう、とはらはらしながら見守るということもある。
 で、ここで問題。
 兄弟であることを知らない男女という設定でも、役者は(そして監督は)脚本を読んでその事実を知っている。だから、ほんとうに大事なのは、役者や監督が「結末」を知っているにもかかわらず、まるで知らない、初めての「できごと」を体験しているという具合に演じ、演出しなければならないということである。
 いい映画、いい芝居というのは、それが演じられる瞬間において、それを演じる役者(演出する監督)が「結末を知らない」と感じさせるものなのだ。観客は、すべてを知っている。しかし、役者、監督は何も知らない。その「結末」がどうなるか知らない(いましか存在しない)と感じさせなければならない。
 観客が「結末」を知っているのだけれど、もしかしたら、それとは違う「結末」があらわれるかもしれないと感じさせる、あるいは「結末」を忘れさせる演技、シーンが、いちばんいい演技であり、シーンなのだ。観客の知っている「結末」を忘れさせてしまうような「現在」を噴出させる演技、芝居がいい演技、いいシーンというものなのだ。
 こういうことは、非常にむずかしい。だからこそ、ある何人かの監督は、脚本なしに、即興であるシーンを撮ることがある。何が起きるか、だれもわからない。その瞬間、その「いま」がとてもリアルになるからだ。

 ちまたでよく言われている「ネタばれ禁止」問題というのは、結局のところ、役者が下手くそになった(魅力的ではなくなった)、監督が下手くそになったという「証拠」にすぎない。
 また観客の多くが、役者の演技を見なくなったという「証拠」にすぎない。
 だからなのだと思うが、いわゆる「完璧な脚本」の映画が、ただ、それだけでいい映画として評価される傾向が生まれてきている。そんなものは、映画にせずに、ただ「脚本」として発表すればいいのではないのか。映画である以上、あるいは芝居である以上「脚本のでき具合、結末」を忘れさせる充実した「いま」が必要なのである。
 役者や監督に「ネタばれ」を叩き壊してみせる「肉体」の力がなくなったからこそ、「ネタばれ禁止」などということが言われるのだろう。

 具体例なしで書いてきたので、わかりにくいかもしれない。最後に、いい役者の具体例を書いておこう。「さゆり」という映画。役所広司が、たしか足の悪い男を演じていた。彼は、もてない。しかし、渡辺謙に近づきたい女がいて、役所を出汁につかおうとする。ちょっかいを出す。それを役所は、女が自分に気があると勘違いする。そして、その女にとても親切にする。つまり、すこし恋仲の男が見せるようなコビをふる。そのシーンを見た瞬間、ほんとうに役所が振られるかどうか知らないはずなのに、私は「おいおい、役所、お前は振られるんだぞ。出汁につかわれてるんだぞ。脚本を読んでいないのか」と、笑いだしてしまった。役所は、「パーフェクトデイズ」でも、おもしろかった。トイレ掃除のとき、三目並べの紙をみつける。いったん、それを捨てる。しかし、もういちどそれを最初にあった壁の隙間に戻す。それがどうなるか知っているはずなのに、まるで何も知らない。ただ、もしかしたら誰かが三目並べのつづきを書き込むかもしれないと、ふっと予想する感じで肉体が動く。それが、とてもよかった。きっと三目並べをはじめた誰かが書く。役所が期待してるとわかるから。一度もスクリーンに登場しない人間の感じている「見なくても(あわなくても)わかる」という意識の動きさえ引き出して見せる演技だった。 

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小松宏佳『崖』

2024-08-03 20:45:42 | 詩集

小松宏佳『崖』(紫陽社、2024年09月01日発行)

 小松宏佳『崖』の表題作「崖」の最後の部分。

それら経験の底には
崖の機嫌が横たわっている
うふふ、をやっていこう
冬だから怖いのよと言いながら
大股で近づいてくるのは
崖から見ても
わくわくするものだ

 「うふふ」と「わくわくするものだ」の呼応がおもしろい。「わくわくする」ではなく「わくわくするものだ」と「ものだ」をつけくわえているのが、ちょっとさめていて、それもいいかもしれない。
 ことばの動きが、荒川洋治っぽいなあ、と思った。こういうのは「印象」にすぎなくて、だからどうなんだといわれたら、別に何かを言いたくて言ったわけでもないので、説明のしようがない。
 ほかの詩にもそういうものはあるかなあ、と思い、ぱらぱらと読んだが、ぱらぱらがいけなかったのか、みつからなかった。
 でも、この詩集のなかでいちばん魅力的なのは、私が引用した数行だろうなあ。そういう数行、あるいは一行でもいいが、それがあれば詩集は詩集として成り立つと思う。

 

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