goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ハリー・マックイーン監督「スーパーノヴァ」

2021-07-02 18:39:18 | 映画

ハリー・マックイーン監督「スーパーノヴァ」(★)(2021年07月01日、キノシネマ天神、スクリーン2)

監督 ハリー・マックイーン 出演 コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ

 いま映画界は「認知症ブーム」である。現実の問題が大きくなってきて、それが映画に反映しているということだろう。この映画では、認知症そのものの問題は、途中で二回、スタンリー・トゥッチが愛犬とともに徘徊してしまうシーンと、パーティーで読むべきスピーチ原稿が読めなくなるシーンでのみ描かれる。「ファーザー」に比べると、とてもおとなしい。スピーチ原稿が読めなくなり、コリン・ファースが代読するシーンは、感動を盛り上げる「演出」のようで、あざとい感じがする。
 男性同士のパートナーというところが、この映画の新しさなのだが、周囲が寛容すぎて現実の問題が見えてこないのは、かなり物足りない。兄弟や友人たちが、二人をあたたかく見守りすぎる。唯一の問題は、コリン・ファースには、以前、スタンリー・トゥッチではない男の恋人がいた、というくらいだが、その彼もパーティーにやってきていて、「和気あいあい」とまではいかないが、落ち着いて交流している。
 唯一の問題は、スタンリー・トゥッチが症状が進む前に自殺したいと願っていること。そのことに対してコリン・ファースはどう向き合えばいいのか、ということ。これは当人にとっては大変な問題だと思うのだが、なんというか、映画になっていない。映画として成立する作品になっていない。
 コリン・ファースもスタンリー・トゥッチも一生懸命演技しているのかもしれないが、すべてが「ことば」で語られてしまうため、映画ではなく芝居を見ている感じ。さすがイギリス、なんでも「ことば」で説明してしまわないと気がすまないんだなあ、感心するか、あるいは、これではラジオドラマを聞いているみたいだなあとがっかりするか。私は感心しながら、がっかりした。
 わたしはやっぱり映画は、目で感じ取りたい。苦悩をことばではなく、表情、肉体の動きで、スクリーンで見たい。スクリーンから目が離せない、という興奮を味わいたい。
 先に書いたスピーチ代読など、その典型。なんだ、これは、と怒りだしたくなる。文字が読めなくなる、あるいは簡単な単語なのに別の単語とし読んでしまう、というようなことが克明に描かれない。アイリス・マードックだったか、認知症になったとき「GOD」を「DOG」と読み、夫か「検査をやめてくれ」と叫ぶ映画があったが、そういう「リアリティー」があればいいのだが、そういうものがまったくない。ジュディ・デンチが、「私、何か読み違えた?」というような顔をして夫をみつめるシーンなんか、映画の醍醐味の頂点。本人はわからない。けれど、周囲はみんなわかる。その「断絶」がすごい。「問題」が深刻化する前に、「認知症」が引き起こす本人と他者の断絶が明るみに出る前に、コリン・ファースが代読を申し出るなどというのは、あまりに味気ない。
 「スーパーノヴァ」というタイトルが示しているように、遠いところで起きた破滅を美しく眺めている感じ。これではねえ……。
 でも、前の列にいた高齢者の三人組、夫婦と妹(女友だち?)の、真ん中に座っていた女性は「いい映画だったわ。涙が止まらない」と実際にハンカチで涙を拭きながら席を立って行ったから、感動するひとは感動するのかもしれない。私は、まさかそんな感想を聴くとは想像もしていなかったので、とてもびっくりした。

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年5月号を発売中です。
137ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

<a href="https://www.seichoku.com/item/DS2001411">https://www.seichoku.com/item/DS2001411</a>


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自民党憲法改正草案再読(3)

2021-07-02 11:12:58 |  自民党改憲草案再読

自民党憲法改正草案再読(3)

 「第一章 天皇」のなかに現行憲法にはない条項が新設されている。

第3条(国旗及び国歌)
1 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

 この条項で気になる点はふたつある。
①なぜ「国旗、国歌」が「天皇」の章に組み込まれているのか。しかも、その組み込まれている「位置」は天皇の「定義」の直後である。天皇の「権能」を制限した条項よりも前に、国旗と国歌が割り込んでいる。
 なぜなのか。
 国旗、国歌は、天皇と「同列」の存在なのか。国歌、国歌を日本国の「象徴」と考えると、「天皇=象徴=国旗及び国歌」という等式ができる。
 天皇については、「日本国民は、天皇を尊重しなければならない」という文言はなかった。「天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。」とある。改憲草案の文言でも、天皇がたとえ元首であろうと、それは「国民の総意に基づく」ものである、と定義されている。国民の総意が「いや」と言えば天皇は存在し得ない。国民の方が天皇よりも上位である。尊重する必要はない。尊敬する必要はない。尊重し、尊敬したい人がそうすればいいだけである。
 でも、国旗、国歌については、国民はそれを「尊重しなければならない」。これは、変だろう。
 私は、第一条に、「日本国民は、天皇を尊重しなければならない」と書いてしまうと、「国民主権」の意味がなくなるという批判を恐れて、そう書いていないのではないかと推測する。
 第一条で書けなかったから、第三条で、国旗、国歌を持ち出し、そこに「国民は、尊重しなければならない」をもぐりこませたのだ思う。「国旗、国歌を尊重しなければならないのは、天皇を尊重しなければならないのと同じである」「国旗、国歌を尊重しなければならないのだから、もちろん天皇を尊重しなければならない」という意味が含まれていると思う。
 次に気になるのは、
②「国旗及び国歌」ということばのつかい方である。
 「1 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。」は国旗と国歌が別々に書かれている。しかし「2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」はひとまとめにしている。
 「及び」ということばは、どうつかうのか。並列のものなら「と」で十分である。「及び」ということばは「及ぶ」から派生していると思う。そこにはなにかつながりがある。そして、そのつながりは、イコール(同等)と同じ意味になると思う。
 国旗と国歌は同等のものであり、それを尊重しなければならない。これは国旗のあるところ、国歌がついて回るということである。オリンピックで日本選手が金メダルをとると、国旗の掲揚と同時に君が代が流れる。同時に存在する。そういうものが「及び」なのだろう。
 そして、ここには書かれていないが「国民は、尊重しなければなさない」は、「及び」の力を借りて「国民は、天皇を尊重しなければならない」につながると思う。「天皇及び、国旗、国歌を尊重しなければならない」。「天皇=象徴(国旗=国歌)」という意識がここには隠されていると思う。
 先日書いたことの繰り返しになるが、改正草案前文の「行政及び司法」は「行政=司法」であるし、改正草案12条の「公益及び公の秩序」は「公益=公の秩序」である。改憲草案では「及び」を「=」という意味でつかっている。それは「天皇=象徴(国旗=国歌)」と書き直し見るとき、いっそう鮮明に見えてくる。
 さらに
③「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」の「しなければならない」に注目しなければならない。
 憲法は国民のものであり、それは権力者を拘束するための法律である。「天皇」もまた「権力者」である。それは現行憲法にしろ、改正草案にしろ、天皇の「権能」を限定しているところからもはっきりしている。「天皇は、これこれのことをしてはいけない」というのが「天皇」の章に書かれていることの中心である。
 ところが、「天皇は、これこれのことをしてはいけない」という前に、「国民は尊重しなければならない」と「国民の義務」が書かれている。これは、どうみてもおかしい。もし義務があるとしても、それは「国民」の章で書けばいいことであって、天皇の章で書く必要はない。
 さらに直接天皇ということばを出さずに「国旗及び国歌」という条項で国民の義務を明記している。「天皇及び国旗、国歌」である部分の「天皇」を隠して「国旗及び国歌」と書いている。
 こういう「罠」を見逃してはいけないと、私は思う。

 もうひとつ、新設されている条項がある。

第4条(元号)
 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。

 第4条は、厳密にはどうかわからないが、いまも行われていることを憲法にもりこんだということか。なぜ、わざわざもりこんだのか。
 思い出すのは、平成から令和にかけての「改元」のどたばたである。さらには平成の天皇の強制生前退位である。昭和から平成への改元は昭和天皇の死亡によって行われた。それまでも天皇が死んだとき(天皇が交代したとき)元号が変わっていた。「皇位の継承があったときに制定する」ときというのは、天皇が死んだとき制定するを言いなおしたものである。
 さて、ここからである。
 元号が以前のように、天皇が死んで、天皇が交代したときに変えられるものなら、それは天皇の死を前提としている。しかし、新設された条項には、天皇の死は明記されていない。つまり、天皇が死ななくても、天皇は交代しうる、ということをもりこんでいることになる。
 これは逆に言えば、政権が天皇を不都合な存在とみなし、交代させる可能性があるということも意味しないか。平成の天皇を強制的に退位させたように、令和の天皇、さらにその次の天皇も、政権が不都合だと判断すれば強制的に退位(交代)させ、改元できるということを意味しないか。
 改憲草案は2012年のものだから、平成の天皇を交代させるための「根拠(よりどころ)」になったとは言えないが、私は改憲草案の「先取り実施」だと思っている。権力者が天皇の交代と改元を、自分の都合にあわせて実施する。令和の改元が、1月1日(新年)でも、令和の天皇誕生日でも、日本人になじみのある「新年度」の4月1日でもなかったことが、それを証明している。安倍は、統一地方選を理由に「4月1日」を避けた。天皇の都合(天皇が死んだ)ではなく、政権が選挙に利用しやすい日を「改元」の日に制定した。
 安倍、菅のやっていることは、改憲草案の「先取り実施」であるということを見逃してはいけない。なし崩しに改憲草案が「現実」になっているのである。

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年5月号を発売中です。
137ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

<a href="https://www.seichoku.com/item/DS2001411">https://www.seichoku.com/item/DS2001411</a>


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする