ハリー・マックイーン監督「スーパーノヴァ」(★)(2021年07月01日、キノシネマ天神、スクリーン2)
監督 ハリー・マックイーン 出演 コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ
いま映画界は「認知症ブーム」である。現実の問題が大きくなってきて、それが映画に反映しているということだろう。この映画では、認知症そのものの問題は、途中で二回、スタンリー・トゥッチが愛犬とともに徘徊してしまうシーンと、パーティーで読むべきスピーチ原稿が読めなくなるシーンでのみ描かれる。「ファーザー」に比べると、とてもおとなしい。スピーチ原稿が読めなくなり、コリン・ファースが代読するシーンは、感動を盛り上げる「演出」のようで、あざとい感じがする。
男性同士のパートナーというところが、この映画の新しさなのだが、周囲が寛容すぎて現実の問題が見えてこないのは、かなり物足りない。兄弟や友人たちが、二人をあたたかく見守りすぎる。唯一の問題は、コリン・ファースには、以前、スタンリー・トゥッチではない男の恋人がいた、というくらいだが、その彼もパーティーにやってきていて、「和気あいあい」とまではいかないが、落ち着いて交流している。
唯一の問題は、スタンリー・トゥッチが症状が進む前に自殺したいと願っていること。そのことに対してコリン・ファースはどう向き合えばいいのか、ということ。これは当人にとっては大変な問題だと思うのだが、なんというか、映画になっていない。映画として成立する作品になっていない。
コリン・ファースもスタンリー・トゥッチも一生懸命演技しているのかもしれないが、すべてが「ことば」で語られてしまうため、映画ではなく芝居を見ている感じ。さすがイギリス、なんでも「ことば」で説明してしまわないと気がすまないんだなあ、感心するか、あるいは、これではラジオドラマを聞いているみたいだなあとがっかりするか。私は感心しながら、がっかりした。
わたしはやっぱり映画は、目で感じ取りたい。苦悩をことばではなく、表情、肉体の動きで、スクリーンで見たい。スクリーンから目が離せない、という興奮を味わいたい。
先に書いたスピーチ代読など、その典型。なんだ、これは、と怒りだしたくなる。文字が読めなくなる、あるいは簡単な単語なのに別の単語とし読んでしまう、というようなことが克明に描かれない。アイリス・マードックだったか、認知症になったとき「GOD」を「DOG」と読み、夫か「検査をやめてくれ」と叫ぶ映画があったが、そういう「リアリティー」があればいいのだが、そういうものがまったくない。ジュディ・デンチが、「私、何か読み違えた?」というような顔をして夫をみつめるシーンなんか、映画の醍醐味の頂点。本人はわからない。けれど、周囲はみんなわかる。その「断絶」がすごい。「問題」が深刻化する前に、「認知症」が引き起こす本人と他者の断絶が明るみに出る前に、コリン・ファースが代読を申し出るなどというのは、あまりに味気ない。
「スーパーノヴァ」というタイトルが示しているように、遠いところで起きた破滅を美しく眺めている感じ。これではねえ……。
でも、前の列にいた高齢者の三人組、夫婦と妹(女友だち?)の、真ん中に座っていた女性は「いい映画だったわ。涙が止まらない」と実際にハンカチで涙を拭きながら席を立って行ったから、感動するひとは感動するのかもしれない。私は、まさかそんな感想を聴くとは想像もしていなかったので、とてもびっくりした。
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