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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

西脇順三郎の一行(4)

2013-11-21 00:00:00 | 西脇の一行
西脇順三郎の一行(4)


 「太陽」

カルモヂインの田舎は大理石の産地で

 私は「カルモヂイン」がどこにあるか知らない。知らないけれど「田舎」はわかる。田舎というのは、たぶんどの国へいってもおなじようなものだろう。日本の田舎がどこでも似ているように。「田舎」ということばが知らない国の、知らない地名を「肉体」に近づける。それはまた「田舎」ということばに何らかの「肉体」があるためだ。そこに暮らしている人の「肉体」とことばの「肉体」がひとつになっている。
 カルモ「ヂ」イン、「だ」いりせき、さん「ち」の「た(だ)行」。これに「田」舎という「田」がくわわるおかしさ。「カ」ルモヂイン、いな「か」の「か行」。あかるい「あ」の母音の響き。--それも楽しい。
西脇順三郎詩集 (岩波文庫)
西脇 順三郎
岩波書店
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西脇順三郎の一行(3)

2013-11-20 00:00:00 | 西脇の一行
西脇順三郎の一行(3)

 「雨」

青銅をぬらした、噴水をぬらした、

 引用しながら、1行目の「南風は柔い女神をもたらした。」にすればよかったかなあ、「南風(なんぷう)」という音が、そのまま「柔い」という用言と結びつく。「南風は柔い」でひとつのイメージになりながら音も美しい。書き直そうかなあ、と迷っているのだが。
 でも……。
 昔を振り返ってみると、私は「噴水をぬらした、」に驚いた。噴水は水。ぬれている。なぜ、ぬれるのか。雨にぬれる前に、噴水自体の水にぬれている。わざわざ、「ぬれる」という必要がない。
 当然のことだが、そのころ私はギリシャを知らない。しかし、ギリシャが地中海の明るい国と思っている。そして、この雨は、太陽が輝きながらふる「晴れ雨」のようなものだと感じた。
 矛盾--それが驚きとなってあらわれる。
 「青銅」と「噴水」の音の対比は、「南風」ほどの驚きはないのだが。
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西脇順三郎の一行(2)

2013-11-19 00:00:00 | 西脇の一行
西脇順三郎の一行(2)

 「カプリの牧人」

我がシヽリヤのパイプは秋の音がする。

 なぜ「シシリヤ」なのか。わからないけれど、その「清音」のつながり、シの繰り返しが「我が」の「が」の音によっていっそう透明なものになる。同じ濁音でも「ぼくの」では違うなあ。「私の」でも違う。何か「間のび」してしまう。「我が」は音が短く、すばやい。そのすばやさが「シシリヤ」を加速させる。
 ところで、「パイプの音」というのはどういうものなのか。私は煙草(パイプ)を吸わないので知らない。
 知らないので、よけいに抽象的な、透明な「音」を聞いてしまう。「シシリヤ」のように子音と母音が最小限で構成された「サ行」の音を思い浮かべる。
西脇順三郎詩集 (現代詩文庫 第 2期16)
西脇 順三郎
思潮社
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西脇順三郎の一行(1)

2013-11-17 23:53:22 | 西脇の一行
 詩のなかの一行--それについてだけ書いてみたい。ある詩のなかで一行だけ選ぶとするとどの行を選ぶか。なぜその行が好きなのか。
 現代詩文庫「西脇順三郎詩集」をテキストにする。全集でこそやってみたいが、まず予行演習ということろ。(「誰も書かなかった西脇順三郎」の続きを書くためのリハビリを兼ねています。)
 全行引用して感想を書いた方がわかりやすいのかもしれないけれど、あえて引用を少なくして書く。



 「天気」

何人か戸口にて誰かとさゝやく

 書き出しの「(覆された宝石)のやうな朝」が有名だが、私は、この2行目が好き。「何人(なんぴと)」と「誰か」ということばの向き合い方、音の豊富さが気に入っている。
 「何人」も「誰か」も、特定された人物ではない。でも、戸口でことばをかわしているのなら、それはおおよそ見当がつく。聞き覚えのある声の可能性が高い。それをわざと「わからない」ふりをして書いている。そのことによって抽象的な明るさがぐんと増える。具体的なひとが出てくると、きっと重くなる。「意味」がくわわって、「何を」ささやいているのかが気になってしまう。かわされている「意味」を排除して、そこに「ささやく」という行為だけを存在させる。そうすると、そこに「ささやき」の音が軽く響く。
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