goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(11)

2023-04-01 20:38:48 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(11)

 「足音」はネロが、母殺しの「復讐」をされる前の一瞬を描いている。ネロは眠っている。そこに足音が近づいてくる。でも、何の足音? それが、突然、わかる。

いよいよ復讐の神の足音なのを。

 とても「座り」の悪い一行である。直前の行は「小さな神には分かった、あの音が何かを。」で、この「何かを」を受けて「足音なのを」というのだけれど、その意味がわかっても、まだ何か「座りが悪い」感じがする。
 そして、これが大事なのだが。
 この「座りの悪さ」が詩である。「座りのいい」論理的な一行にできない。論理的にしてしまうと、「理解」が完全になりすぎる。
 わかる、けれど、うまくことばにできない。この、もどかしさというか、逆だな。「論理」(理解)を超えて、「事実」があらわれてしまう。「事実」の前では「論理(意味)」には何の価値もない。「論理」は「事実」のあとで、つくりあげられる説明にすぎない。そういうことを教えてくれる、非常に「強い」座りの悪い一行である。こういう「強い」行、「強い」ことばが中井の翻訳の魅力だ。

 

 

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(10)

2023-03-14 21:37:00 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(10)

 「単調」とは何か。

何が来るか、ほぼ見通し済み。

 「ほぼ」が不思議だ。「ほぼ」がなければ、どうなるか。たぶん、「単調」ということを書いてみようとは思わない。「ほぼ」がある、何かが少し違う。違うけれど、その違いが「おなじ」ものにのみこまれていく。このときの喪失感のようなものが、「単調」という印象を強くする。
 おなじことばが繰り返されるこの詩のなかで、この「ほぼ」は繰り返しを拒んでいる。だから、それは、詩のなかでは「単調ではないことば」なのだが、「単調ではないことば」であることによって、逆説的に「単調」の「重力」のようなものを感じさせる。

 

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(9)

2023-03-13 18:17:53 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(9)

 「デメトリオス王」は、俳優が芝居の衣を脱ぎ捨てるように、王の衣を脱ぎ捨てて逃げたと言われている。誰もが知っていることを、カヴァフィスは、再び詩にしている。それをどう訳すか。

ありきたりの王の振る舞いをみせなかった

 「ありきたり」がおもしろい。ふつうに会話しているときは無意識につかうが、無意識だからだと思うが、書きことばではなかなかつかわない。
 具体的な行動は、この一行のあとに書かれるだが、すでに「ありきたり」に「俗」が含まれていて、とてもおもしろい。「うわさ」は、この「俗」のなかを広がってゆき、王を追い越して「事実」になってしまう。
 中井久夫は、逃げ出した王にではなく、庶民に「チューニング・イン」してことばを書いている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(8)

2023-02-20 21:16:52 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(8)

 「声」は「死者の声」をテーマにしている。「私を捨てた人」だかけれど、私は思い出す。「ことば」ではなく、「声」を。そしてその「声」には「音調」がある。その「声/音調/音楽」を聞く瞬間を中井久夫は、こう訳している。

わが人生の最初の詩から帰ってくる。

 もちろん訳詩なのだから、そのことばはカヴァフィスが書いたものがもとになっているのだが、この一行は、訳詩の「間接性」を感じさせない。つまり、完全にカヴァフィスになって「声」を発している。
 それを印象づけるのが「わが人生の最初の詩」。
 この「わが人生の最初の詩」とは、いつ書いたものか。「私を捨てた人」に出会う前か、「私を捨てた人」に出会ったときか。出会う前にいくつも詩を書いていたとしても、出会ったあとに書いた詩が「わが人生の最初の詩」である。「私を捨てた人」に出会うことで、カヴァフィスの「人生」ははじまったのだ。
 中井久夫の「訳詩」、詩の翻訳者としての人生は、カヴァフィスの詩を訳すことではじまったと私は感じている。
 「帰ってくる」ということばも、とても強い。カヴァフィスが「思い出す」のではなく、「思い出す」という意識を超えて、「帰ってくる」。それは、詩人には制御できない何かである。ちょうどインスピレーションのように。詩のように。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(7)

2023-02-17 21:26:05 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「憧れ」は、死んだ男を見ている。「贅を凝らした廟」に収められた男を。簡潔に、その贅が描写されたあと、

それはそっくり--、

 この口語の一行が、体の奥を揺さぶってくる。ことばを整える(ことばの外観を整える)ひまがない。その「時間のなさ」が、主人公と死んだ男の「距離のなさ」を強調する。
 最近では、人が死ぬと、だれに対しても「亡くなった」ということばをつかう人が多い。「母が亡くなった」とか。私は「亡くなった」ということばは、「儀礼」というか、「距離を置いたことば」だと思う。つまり、知らない人に対してつかうことばだと思っている。でも、親しい人、肉親なら「距離」を置きたくない。だから、私は「母が死んだ、父が死んだ」と言う。
 中井久夫を、私は「知っている」と言えるほど知っているわけではないが、非常に影響を受けている。だから、やっぱり「亡くなった」とは言えない。どうしても「死んだ」ということばが出てくる。中井久夫が死んだ、と書かずにはいられない。
 これは、いま中井久夫と「敬語」をつけずに書いたこととも関係している。中井久夫は、私の「認識」とは関係なく「事実」として存在した人物である。それを「事実」として受けとめたいから、敬称をつけない。手放したくない。

 「憧れ」とは手の届かないものを指して言うが、やはり「手放したくない」ものだと思う。その「手放したくない」という生々しい欲望が「それはそっくり」という素早い口語のなかに動いている。「それはそっくり」ということばを挟んで、客観的な描写が、主観があふれる描写にかわっていく。そのことさえ予感させる、とてもすばらしい一行だ。

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(6)

2023-02-14 20:50:28 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「野蛮人を待つ」。いつの時代か。正字が頽廃している。だからこそ、敵が攻めてくる。それを待っているのだが、やって来ない。

「さあ、野蛮人抜きで わしらはどうなる?

 「野蛮人」だから、そこには蔑視が含まれている。しかし、憧れもある。野蛮な力は、破壊する力である。
 その野蛮人と対比される「わしら」。
 「わし」には何か自己卑下の響きがある。そして、それにつながる「ら」にと、十把一絡げの響きがある。
 「私たちはどうなる?」「我々はどうなる?」では、群衆(市民)の印象が違ってくる。
 「わしら」が「無力」をくっきりと浮かび上がらせる。それは「帝国」の無力ともつながる。「帝国」が無力なのか、「国民」が無力なのか。両方である。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(5)

2023-01-28 18:51:05 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「テルモピュレ」。戦争での「正義」がテーマ。「連中は正義でひたむき」ということばが前半に出てくるが、後半に次の一行がある。

けっきょくエフィアルテスのたぐいが出てきて、

 「たぐい」ということばが、とてもおもしろい。「そんなヤツとは同類ではない」という侮蔑、怒りのようなものが噴出している。
 もし彼が裏切り者ではないときは、「たぐい」ということばは不要だ。
 「正義」には「たぐい」というものはない。それは、「ひとつ」なのだ。それが「ひたむき」という意味でもある。
 だから「ひたむき」が「たぐい」の伏線にもなっている(予感させる)のだが、この呼応のなかには戦士との「一体感」がある。中井(カヴァフィス)は、歴史家ではなく、この詩のなかでひとりの戦士になっている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(4)

2023-01-22 10:47:09 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(4)

 「窓」。幽閉されている。投獄されているのかもしれない。窓がないかと探し回る。

一つ開いていたらすごい救いだ。

 「すごい」ということばをこういう具合につかいはじめたのはいつのころからだろう。私はいまでもどうにもなじめないのだが、中井は「すごく」ではなく「すごい」とつかっている。そこに「文法の破れ」というか、「口語」の卑近さを感じるのは私だけかどうかはわからないが、この「すごい」によって、投獄されている人が「生々しく」見えてくる。気取った人間、私とは別世界の人間という感じではなくなる。
 この詩の真骨頂は、このあとの意識の変化のスピードにある。今回の連載では、詩から引用するのは一行だけと決めているので、その急展開のおもしろさを紹介できないのだが、その「急」を予感させる(想像させる)のが「すごい」という粗野なというか、品を欠いた口語である。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(3)

2023-01-08 12:20:37 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(3)

 「大いなる拒絶をなせし者……」は、自分の信条にしたがって、「拒絶」を貫いたひとのことを描いている。それは絶対的に正しかった。

しかし、この拒絶は下にひきおろし続ける、その者を、一生涯。

 「ひきおろし続ける」。「ひきおろす」がつづくわけではない。ある高みから低いところまで「ひきおろし続ける」のではなく、低いところに「ひきおろし」たあと、そこに留めおくのである。だれがひきおろされたのか。その「者」を見る。いつまで、その低いところにいるのか。「一生涯」である。「続ける」は「続く」にかわって、「一生涯続く」へとつながっていく。
 明確に書かれていない「続く」、それを隠した訳文が非常に強靱だ。これは「口語」ではなく、中井が持っている「文語」の強さと美しさである。
 この語順でなければならない。「この拒絶はその者を一生涯、下にひきおろし続ける」では「続く」が入り込む余地がない。主役は「ひきおろす」だれかになってしまう。「悲劇」が消え、「恨み」が表に出てしまう。カタストロフィー(浄化)がないから、だれも、その悲劇に涙を流さない。

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(2)

2023-01-04 17:14:17 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「祈り」は嵐に遭難した子供の帰りを待つ母を描いている。その最後の二行。

母の待つ子の永久に還らぬを知るイコンは
じっと聴いていた、哀しげに、荘重に--。

 「還らぬを知る」という引き締まった音が美しい。
 中井は、口語と文語をつかいわける。「還らぬを知る」は文語といえるかどうかはわからないが、少なくともいまの口語ではない。
 文語の特徴はスピードが速く、ことばの関係が緊密なことである。余分な思いがはいりこまない。「事実」が「真実」として浮かび上がる。ここでは「還らぬ」と「知る」のふたつの動詞が、絶対分離できないものとして動いている。
 その緊張のあとに、感情が、感覚が、解き放たれる。悲劇のカタルシス。最後の一行は、その直前のことばが「還らないことを知っている」という間延びした普通のことばだったら、痛切さが半減したと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(1)

2023-01-01 22:39:52 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』は1985年11月25日にみすず書房から発行されている。少しずつ読み返していく。
 最初に読むのは、カヴァフィス。中井には『カヴァフィス全詩集』がある。(私が持っているのは、第二版で1991年4月25日発行。中井は推敲を重ねるひとなので、比較すると異動があるのだが、それについては触れない。

 「壁」。

壁を作られた時に気づかなんだ私の迂闊さ。

 この一行に、中井の訳のおもしろさが凝縮している。「気づかなんだ」という素早い口語。「気がつかなかった」と比較するとわかるが、このスピードは、気づいたときの「瞬間」としか言いようのない時間を端的にあらわしている。「気づかなんだ」の前では、「瞬間」と呼んでさえ、まだ、まだるっこしいような感じがする。その口語と拮抗するかのような「迂闊さ」ということば。「迂闊」も、たしかに、口語でもつかうのだが、漢字で読むと何か「文語」に見える。中井は、この「口語」と「文語」をぶつけあう「文体」をカヴァフィスを訳すときにつかっている。それが、とても効果的に思える。
 「壁」の主人公(私)は、歴史上の人物だろう。(中井は註釈をたくさん書いているが、私は、それをあえて読まない。中井の訳出したことばの印象から人物を想像する。)それは「庶民」ではない。だから「私」という、そういう人物にふさわしい一人称をつかう。その「私」が、多くの市民と同じ「口語」をつかう。そのとき、歴史上の人物、遠い存在が、庶民の「私(読者)」と重なる。
 そこには二重のドラマがある。
 偉人が高い壁に閉じ込められる。それが一つ目のドラマ悲劇。彼が「気がつかなかった」ではなく「気づかなんだ」と叫ぶとき、その「声」は偉人と市民を結びつけてしまう。市民が偉人になって、彼の悲劇を体験する。それが二つ目のドラマである。
 この劇を、中井久夫は、瞬間的に実現する。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする