ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 146ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-23 20:36:15 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【146ページ】


「和さん、アジミーの3本のワインのテイスティングを見て、その評価を聞かせていただけませんか?」

「深川博士が自慢するだけあって、すばらしいテイスティング力ですね?」


和音が一言評価を述べた後、しばらく沈黙が続いた。


「それだけですか?」


沈黙を破って、深川博士が訊いた。


「最近のニュースで放射線量計に鉛を被せて、数値の隠蔽をおこなったことが話題になっていましたね?」

「ええ。」


深川博士は、和音のワインとはかけ離れた話題に戸惑いながらも返事を返した。


「コンピューターで、作業員が受けた放射線量を管理しているとすると、捏造されたデータによって

コンピューターの判断が誤る可能性がありますね?」


和音は、捏造されたデータの部分を強調して言った。

その言葉によって、深川博士と専属ソムリエの味川はドキッとさせられた。


「ええ。」


深川博士の声が少し震えていた。


「そ、それがアジミーのテイスティング評価と関係あるのですか?」

「深川博士はまだ気づきませんか?」

「私には、和さんの言っていることが・・・・・。」


和音は、にこやかな表情で、深川博士と味川を見つめた。

二人は、3本目のワインに対する仕掛けが見破られたと観念した。

アジミーは、深川博士からの指示がないので、3人のやりとりをただ見ているだけであった。

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 145ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-22 20:31:29 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【145ページ】


「はい!」


とアジミーが返事して、グラスを手に取った。

アジミーは、色と香りを確認した後、最高の分析能力を誇るテイスティングをおこなった。


「このワインのブドウ品種の比率は、カベルネ・ソーヴィニヨン55%、メルロ40%、カベルネ・フラン5%です。

マルゴー村のワインでメドック地区格付け3級の」

「ストップ! 和音さんにもテイスティングをしてもらいましょう。ワイン名はその後で答えなさい!」


深川博士は、和音のテイスティングコメントを聞きたいと思ったので、アジミーにそう命じた。


「承知しました。」


和音は、ワイングラスを手に取ると、一口ワインを飲んで、グラスを眺めた。


「これはメドックの中でも美しいシャトーだ!このシャトーの広大な敷地には森と人工湖がある。

このワインを眺めているとそんな光景が浮かぶようだ。」


「さすが、トップソムリエも敵わないと言われる和さんのテイスティング力ですね? ワイン名がわかったようですね?」


深川博士は、アジミーの方に向き直った。


「アジミーワイン名とヴィンテージを答えなさい。」

「ワイン名は、シャトー・ジスクールです。 そしてヴィンテージは1980年です。」

「和さん、アジミーの答えは正しいでしょうか?」

「アジミーの答えは正しいと思います。」

「それでは、ワイン名とヴィンテージを見てみましょう。」


そう言って、深川博士はワインを覆っている紙を取り払った。

そこに現れたラベルのワイン名とヴィンテージは?

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 144ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-20 21:13:09 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【144ページ】


「おっそうだ! 和さんに、先にヴィンテージを聞くのを忘れていました。

アジミーが答えた2002年のヴィンテージでよろしいですか?」

「ええ」


和音がうなずいた。


専属ソムリエの味川は、和音がすでにヴィンテージの暗示の言葉を言っていたのでは?と思った。

彼の言った言葉を反芻していて、「あっ!」と心の中で叫んだ。


深川博士は、和音がヴィンテージを答えなかったのは、自信がなかったのでは?と推測した。

3本目のテイスティングで和音に勝つことができると確信した。


「それでは、ワインを覆っている紙を取り払います。」


紙を取り払われたワインのラベルには、シャトー・ローザン・セグラ 2002年と記載されていた。


「さすが和さんですね! ワイン名をずばり言い当てています。」

「アジミーのテイスティング力もすばらしいですよ! ワイン名とヴィンテージを言い当てています。」

「最後の3本目のテイスティングです。これはアジミーに先にテイスティングさせ、ワイン名とヴィンテージを

答えさせます。和さんは、その答えが正しいかどうかチェックしてください。」

「ええ、わかりました。」

「味川さん、3本目のワインを入れて頂けますか?」


 味川は、3本目にはこのワインが残るようにワインを選んでいた。

3本目のワインには、深川博士を打ち合わせをして細工をしていたのである。

味川は、3本目のワインを抜栓し、二つのワイングラスに注いだ。


「アジミー、ワイングラスを一つ取り、テイスティングをして、ワイン名とヴィンテージを答えなさい!」




ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 143ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-18 21:38:48 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【143ページ】


「マルゴー村のメドック格付け第2級でオーナーがシャネルのワインはひとつしかありません。

次にアジミーにテイスティングさせます。」


深川博士は、アジミーに向かって、指示を出した。


「テーブルに置かれたワインの入ったグラスを手に取り、テイスティングをして

ワイン名とヴィンテージを答えなさい!」


「承知しました。」


アジミーは、グラスを手に取ると、色を確認し、香りを嗅ぎ、口に含んだ。


「このワインのブドウ品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン61%、メルロ35%、カベルネフラン2%、プティ・ヴェルド2%

の比率です。メドックのワインの中では、メルロの比率の高いワインになります。」


「アジミーのテイスティングは、成分分析から入るのですね?」


和音がアジミーのテイスティングに対する感想を述べた。


「それが人のソムリエよりも優れているところ・・・・・・・。」


和音はその後の言葉をにごした。


「そうですよ! アジミーは人間のソムリエには絶対に負けません!」


深川博士は、和音の言葉を褒め言葉と勘違いして、自信満々に言った。


「さあ、アジミー、ワイン名は?」

「色、香り、舌に感じるしなやかな味わい、深みのある果実味、そしてブドウ比率から総合的に判断して

ワイン名は、シャトー・ローザン・セグラです。ヴィンテージは2002年です。」


「そしてアジミーは成分分析の能力が優れているだけではないのも判っていただけましたか?」


和音は、にこやかにうなずいた。






ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 142ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-16 21:10:59 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【142ページ】


「アジミー、このワインのヴィンテージを答えなさい!」


深川博士がアジミーに指示した。


「承知しました。シャトー・パルメのヴィンテージは1988年です。」

「和さん、アジミーの答えは正解でしょうか?」

「さすが深川博士が開発したソムリエロボットだ! 答えを出すのが早い! 」

「早い、ハヤい、88年で正解ということですね?」


深川博士が訊ねると、和音は笑ってうなずいた。


「味川さん、ワインを覆っている紙を取り払ってください!」


専属ソムリエの味川が、ワインの紙を取り払うと、シャトー・パルメ1988年のラベルが出てきた。


「1本目のワイン名とヴィンテージのアジミーの答えは正解でした。

次に、2本目を開けます。和さんの答えを先にお聞きしてもよろしいですか?

アジミーは、和さんの答えを聞いても、自分の分析結果を替えることがありません。」

「いいですよ!」


味川は、残り2本から1本を選び、抜栓し二つのグラスに注いだ。

和音は、グラスを手に取り、しばらくワインを見つめた。

そしてワインを一口飲んだ。


「豊かで華やかな味わいは、まるでファッションショーのようである。」


和音は、このワインのオーナーがシャネルであることを遠回しに表現した。


「かつては、2級格付けにふさわしくない低品質と評されていたが、

お荷物ワインから脱却して、2級の中でもスーパーセカンドと言われるエリートになりました。」