アメリカが世界の警察官の役割を担えないこと。国力の疲弊がその軍事力増強を許せなくしていることは誰もが理解することです。しかし、ずば抜けた軍事費に基づいた軍事力は他国を威圧していることも確かな事実です。
しかし、アメリカの政治経済、軍事力に依拠しようとする政治家、政党にとっては危機感を募らす事態です。自民党政権はだからこそ、集団的自衛権容認が必要だと唱えています。同時に、役割の一部を日本が、自衛隊が担うのだ。とする安倍、自民党政権の弱点は、時代の流れが見えていないこと。理解しようとしていないこと。一見勇ましいことを言うのが、他国との関係で、有利なのだと錯覚している点にあります。
戦争によって国土の割譲を迫ることなどは、21世紀において例外であり、国連を中心とした世界秩序との関係でも多数派、容認されることなどもありません。平和を守り、安定させるために、政治経済関係を相互に理解し、促進できる構造、仕組みの創造こそが主流になっていること。そのために、アメリカが、日本がどのような役割を担い、果たすのかが問われているのではないかと思います。
<北海道新聞社説>日米首脳会談 「力に力」では解決しない。
安倍晋三首相とオバマ米大統領がきのう会談し、日米の関係強化を目指すことで一致した。両首脳は沖縄県の尖閣諸島に関し、日米安全保障条約に基づく米国の防衛義務を確認した。大統領は日本の集団的自衛権の行使容認に支持を表明した。環太平洋連携協定(TPP)をめぐっては協議を継続し、早期妥結を目指すことで合意した。
中国の台頭をにらみ、日米が協力してアジア太平洋の秩序をつくる意思を示したと言える。だが根底にあるのは、力には力で対抗する発想だ。目の前にある問題への当面の対策を示したにすぎない。
必要なのは平和と安定に向けた長期的なビジョンだ。日米関係を複雑な国際関係の中にどう位置づけていくのか。大局的な視点が求められる。
■危機回避の策見えぬ
海洋進出を強める中国は、領土や主権に関わる「核心的利益」を追求し、軍事費の伸びも著しい。北朝鮮は核・ミサイル開発の手を緩めようとしない。日米連携の重要性は否定できない。
だが日米の合意内容は、軍事攻撃をあらかじめ想定し、軍事で対抗するものだ。さらなる緊張を招きかねない。そのとき、まず危険にさらされるのは日本国民だ。
危機回避の具体的構想がないまま、強い態度で相手を刺激するのは場当たり的で無責任だ。
日米は中国に対し国際社会に責任ある態度で参画するよう促してきた。北朝鮮には国連や6カ国協議を通じて核・ミサイル計画放棄を求めてきた。その外交努力を結実させる方策が見えない。米国は中国と個別に「新しい大国関係」を模索する。軍拡を警戒しつつ、巨大市場への関心は強い。日本をアジア太平洋の「礎石」と重視する一方で、自らの国益に従って行動する意図が見える。
一方で日中関係は冷え切っている。首相の靖国神社参拝や歴史認識の影響が大きい。米国を後ろ盾にして力で対抗する前に、二国間関係を改善し、対話できる体制を整えるのが先ではないのか。
■TPPは国益死守を
首相は大統領に「積極的平和主義」を説明し、地域の平和と繁栄に貢献する考えを強調した。
尖閣防衛に大統領の言質を得たことは首相の狙い通りである。日米防衛協力の重要性を印象づけ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に進む構えだ。
集団的自衛権の行使は必要最小限度の自衛権の範囲を超えるという長年の政府解釈を覆し、憲法の平和主義を根本から揺るがす。米軍と一体化して自衛隊の活動を世界に広げることにつながる。
首相の視線の先には9条を含む改憲がある。世論調査でも半数以上が反対している政治テーマを、「同盟強化」をテコに推進しようとする態度は許されない。
日米関係を内政に利用する姿勢は大統領も同じだ。TPPがもたらす輸出や雇用への好影響を国内向けに強調する。対決続きの議会をなだめ、自らの2期目の実績づくりを狙う態度が見て取れる。
TPPにはアジア太平洋地域の貿易や投資のルールを打ち立て、中国をけん制する狙いがある。そのために農業をはじめとする日本の産業が壊滅的打撃を受けるのでは本末転倒だ。
衆参両院の委員会は重要5農産物の関税維持を決議した。聖域を死守し、国益に資するのが筋だ。米国の安全保障協力を得るために譲歩することは認められない。
■価値観広げる構想を
米国は大義なきイラク戦争に各国を巻き込み、リーマン・ショックで世界経済を混乱させた。その反省もなく、今度は「リバランス(再均衡)」でアジアの繁栄に手を伸ばす。身勝手が過ぎないか。
日本は「同盟」の名の下に負担を強いられた。沖縄はその代表格だ。米軍普天間飛行場の辺野古移設は負担軽減につながらない。県外、国外への移設が、本来は首脳間で話し合うべき問題だった。
「世界の警察官」の座を降りた米国は同盟国への依存を強める。アジア回帰を掲げる一方で、ウクライナやシリアなどをめぐる問題で欧州、中東への関与を続けざるを得ない。力の衰えは隠せない。
日米連携が機能するために、民主主義、人権、法の支配などの価値観を共有する国際秩序は必要だ。その中に中国や北朝鮮を組み入れて軟着陸させる構想が大事だ。
首相はこれ以上中国、韓国との関係を悪化させてはならない。
靖国神社参拝には米国も失望を表明した。日中の争いに巻き込まれることを懸念する世論が背景にある。任期中は参拝しないことを内外に表明する必要があろう。
首相が胸を張るほど日米関係は良好とは言えない。信頼関係を築くには、近隣国との関係改善を行動で示さなければならない。