君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」十六話(Bilrost) 終 

2011-07-08 02:41:54 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です

<用語>
木星軌道上の衛星メティス キースとジョミーがいる太陽系拠点
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム


  「君がいる幸せ」

   一章「黄昏の海」 終

  十六話(Bilrost) 現在
 月から戻ったらまた忙しい日々が待っていた。
 ずっと引っかかっていたブルーの死を受け入れたからか、少しずつ過去の話をするようになったジョミー。
 キースはブルーの最後の話をした。
 思念で傍で見ていたジョミーにも分かっていた事だったが、キースの視点で聞くのはまた違っていた。
「こんなに時間が経っているのに…ね」
「月からもう一か月だが、まだトォニィに月の事を教えていないのか?もう『メサイア』も大丈夫だろう?何故、知らせないんだ」
「僕はブルーを見た時の感情のままに動こうと思っていた。だから、壊すつもりだった。でも、それは僕の一存で壊す事は出来ない事に気が付いたんだ…。そうする事は仲間達に対する裏切りになる…僕があの時した事をずっと教えられなかった。そして、今もまだ言えないでいるのは、それは、多分、僕の我がままなんだろうな。いつか時が来たらトォニィに教えるつもりだよ。彼には全てを知る資格と権利がある…」

 ミュウに対する裏切り、それはブルーを助けられなかった事、その存在を教えなかった事の両方。
 花も木も愛せるかのような、今のジョミーが聖人みたいな考えになっているのは、戦争中に助けられる命まで見捨ててきたことへの反動だと俺は感じていた。あれは、戦争なのだからと、そう割り切れてないのだと…。
「償いができるのならなんでもしたい」とジョミーは言うが、そんな事は自分たちではなく、未来が決める事だと、未来で俺もお前も犯罪者と呼ばれるのならそれは仕方がない事とだとキースは思っていた。
 二人は同じような傷を持っている。
 唐突にキースが言い出した。
「お前は俺を好きになればいい」
「!!」
 そ、それはどういう…?とあたふたするジョミー。
「人を好きになってみようと思っているんじゃないのか?」
「あ、えーと…」
 あぁ、キースは純粋培養だったんだ。
 それはフィシスにも近いイメージがある。
 恋愛にうといまま大人になっているような…いや、恋愛のもっと上をいっているような…。
「あの、キース。それは人を…僕が誰かを好きになるって意味じゃなくて危険を承知で出産をするミュウのことで…」と説明をしてみたものの…僕が悩んでいたのはソレだけじゃないのは見透かされているようだった。この男はへんな所は勘が良い…。
 常識・非常識で考えるとキースの言う事が人として常識なのか…?でも…。と考える間にも、じっとこっちを見つめるキース。
「何を見てるんだ…?」とジョミー。
「いや、髪がきれいだなと思って」
「……」
(あうっ……)
 こういうセリフがサラっと言えちゃうとこが、キースっぽいと思うけど…。
「そういうのは女性に言うもので…男に言われても嬉しくない」
「そう思ったから言ったまでだが、今までちゃんと見た事が無かったからな」
「それで、好きになれってのが変なんだよ」
「好きになれは、変か?難しいな」
 政治的な話をさせるとあんなに堅物なのに、人間的な話になると、とたんにこうだ。
 これまでにこの男のそういう部分にまで入ろうとしたのは、サムとシロエとマツカとあと一人…モリス。
 キースはそのすべてを失ってきている。

 でもだからって、ここで。
「お友達からはじめましょう」とはいかなかった。



  一章「黄昏の海」終

   続く

『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」十五話(Moon)

2011-07-07 01:08:34 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です

<用語>
木星軌道上の衛星メティス キースとジョミーがいる太陽系拠点
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム


   「君がいる幸せ」

   一章「黄昏の海」

  十五話(Moon)現在
 磁気嵐の無い時間を待って二人は戦艦との合流地点まで移動を開始した。
 ブルーの眠る「黄昏の海」が遠ざかってゆく。
 ゆっくりと進むバギーの助手席で、ぼうっと淡く青く光り続けているジョミー。
 話しかけると普通に受け答えている。キースは危惧していたような事態にならなかった事に少し安心していた。
 ジョミーは片足を上げて、その膝を抱えて座っていた。
 一時間程が過ぎ、合流地点が近づいた頃、今まで何も変化しなかった景色が揺らいで見えた。その時、ふいに思いついたように、急にジョミーが話し出した。
「キース、本当は僕は壊すつもりだった…。もう眠らせてあげようと。でもね、出来なかった…」
 その声はとても静かで、どこかへ誘われている気がした。
「本気で壊そうとしたのか?」
 キースが二年間見てきたジョミーなら、壊す事や、死を選ぶ事はしないだろうと信じ、ここを教えた。教える事に不安はあった。二年しか知らない。それ以前のジョミーは資料でしか知らなかった。心がざわつくのを感じた。それは、自分が未だミュウを敵として見るからなのか、もっと別の感情なのか、キースにはわからなかった。
 その考えが終わるのを待つかのように、ジョミーはキースを見つめていた。
「ちょっと止めて」
 そう言うとジョミーはドアを開ける事なくフロントガラスをすりぬけて外に出る。
 そして、キースのいるバギーの左側に立った。
 瞬時に移動するテレポートなら何度か見てきたキースだったが、物体を身体ごと通り抜けるのは見ていて気持ちの良いものでは無かった。
「ねえ、見て。あの赤い星を」
 通信を通さずにジョミーの声が聞こえてくる。
 外に出てきたキースの腕を取ると、二人はふわりと上へと浮かんだ。
 ジョミーが遠くを指をさす、赤い地球が見えた。
「あれじゃぁ、かわいそうだよね?」
 と静かに囁いた。
 この時のジョミーはミュウとも違うもっとずっと恐ろしく、人外なモノのような雰囲気をかもし出していて…キースは今まで感じた事の無い恐怖を感じた。
 これはブルーが作り出した怪物。
 あいつは、なんて物を残していったんだ。
 これを押さえていくのが俺の役目だと言うのか?
 そして、シロエがジョミーをピーターパンだと言ったのを想いだし、それが少し理解できた気がした。
 もしかしたら命令通りに動く『機械の申し子』であった方がずっと楽だったのかもしれないとさえ思えてくる。
 人間の感情とは変な物だなと思ってしまう。
 だが、これが、こんなに矛盾だらけなのが本当に人として生きるという事なのだろうなと思うキースだった。

 ブルーの眠る「黄昏の海」が遠ざかってゆく。
 二人は月を後にした。


   続く


『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」十三話・十四話(Moon) 

2011-07-06 01:01:41 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です

<主な舞台設定>
木星軌道上の衛星メティス キースとジョミーがいる太陽系拠点
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム


  「君がいる幸せ」

   一章「黄昏の海」

  十三話(Moon) 現在
「黄昏の海」は月の地軸が近い場所のため磁気嵐が吹き荒れる場所だった。
 宇宙空間には赤い地球が見える。
 キースとジョミーを乗せたバギーは「黄昏の海」の古い施設に向かっていた。
 入り口を開き搬入口にバギーを止め扉を開けて中に入る。
 中には人口的な重力はかろうじてあったが、空気が薄い為キースは宇宙服を着用したままだった。
 宇宙服の腕に付いたパネルに地図を出して進んでいた。ジョミーはソルジャー服だった。シールドを作ってキースの後に続いた
 施設は人を感知して照明が自動に点く。
 慎重に進むキースがいくつかのブロックを過ぎ、あるドアの前で止まって数字キーを打ち込み始める。
 小さなピーと言う音がしてから、時間を置いてカギが解除された。
 キースは念の為、銃を構えてドアを押し開けた。音もなく、ドアの下から冷気が流れて出てきた。
 部屋の中はがらんとしていて、広かった。薄暗い非常灯の明かりがいろいろ装置なを浮かび上がらせていた。
 その中心に白い棺があった。
 キースは部屋に入った所で止まり配電盤を探りながら、ジョミーに一人で行くようにと合図した。

 ジョミーはゆっくりと中心に向かって歩きだした。
 ここに眠っているのは誰なのか。
 それは、もうわかっている。
 あの時、僕は傍に居た。
 あの時、ナスカをメギドが襲い。第二波を止めに行った彼を、僕は地表に降りて仲間を避難をさせながら思念を彼と同行させていた。
 彼の死の瞬間に僕の思念がその体を護ろうとはじけて彼を包みこんだ。
 船をワープさせてしまった為、彼を確認する事無くその場を後にした。
 あの後、彼を人類軍が見つける事は容易だっただろう。

 人類に収容されたのか、どうなったのかわからないまま月日が過ぎた。
 停戦・終結となり月になにかあると気づいたのは一年くらい前、キースの側にいたのはこの事もあったから…。
 単身で探りに来る事も考えた。けれど、その行為は人類を裏切っているような気がして、どうしても出来なかった…。
 いや…そうじゃないな。僕はここに来るのが怖かったんだ。来て確認するのが嫌だった。

 静かにうなり続ける機械、立ち込める霧状の冷気、やがて小さな音と共に棺の上のライトが点いた。
 一歩一歩と近くなる棺。
 あと少しまで来た所でジョミーは止まり目を閉じた。そしてゆっくりと目を開けると、振り向かずにキースに声をかけた。
「ここの事は前から知っていた?」
「知っていた」とキースは短く答えた。
「…そう…」
 そして、目を開き棺を見据えた。
「キース、そこを動かないで」

「僕はまだ答えを」と言いながら1歩。
「出せてないから」とまた1歩。
「どうなるのか」と1歩
「わからないんだ」と1歩
「でも、もうここで終わりにする」カツンと最後の1歩。

 ジョミーは棺の前に着いた。
 中を見つめて確認をする。
 ジョミーは諦めたような悲しいような、そして少し泣きそうな顔になった。そして、

「来るのが遅くなりました。おかえりなさい。ソルジャーブルー」と言った。




 「君がいる幸せ」

  一章「黄昏の海」  

  十四話(Moon) 現在
 それだけひと言言ったまま、冷気が漂う中でただ見つめ続けるジョミー。
 コールドスリープ装置で眠るブルー。
 機械はずっと静かに唸り続けていた。
 ブルーが死んでしまったのは見ていたし、その存在がどこにも無い事は感じていた。
 けれど、僕はその姿を見ていなかった。
 だから心のどこかで希望を捨てていなかった事をあらためて思い知らされていた。
 僕はずっと生きていると信じていたのか?有り得ないのに!
 視たじゃないか。彼が死ぬ所を…。
 だけど…。
 それでも。
 この機械は、生命維持装置にはなっていない。
 これではただの冷凍保存だ。
 なんでこんな事に、こんな所でこんな酷い事に…。
 ジョミーは涙が零れそうになり上を向いて目を閉じた。
 さまざまな記憶が心に蘇った。
「…ブルー」
 胸が苦しい…。
 僕がいけないんだ…。
「本当に」
 目を開けると、堪えていた涙が頬を伝って流れた。
「ごめんなさい」
 ジョミーはブルーの顔を見た。今にも起き上がりそうに見える。
「ブルー。視えますか?貴方が何百年も恋焦がれた青い地球は、あんな色で貴方の目の前にある。貴方は死んでもなお、ここで…。地球の見えるここで。青い地球に行き着けぬ夢を、見させられ続けるのか」
 駄目だ。
 ここは駄目だ…。
 ここは辛すぎる…。
 僕は、ここを…ここを破壊するべきだ!
 ジョミーは目を閉じ、力を解放始めた。
 青い青い輝きが円を描いて広がっていった。
 それを見てキースは前に進もうとするが、身体は動くのに入れなかった。
 そこは自分の立ち入れない世界なのだと感じていた。
 青い光が眩しくて手で影をつくり見守っていた。
 光の輪が大きくなり建物全体を覆い尽くした。

 やがてジョミーは「…できない…」絞り出すようにつぶやいた。
 彼のサイオンが静かな状態に戻っていった。
「……」
 ジョミーはもう一歩近づいて棺を見下ろし見つめる。
 もう涙は流れてはいなかった。
 自分の心がどこかへ遠くに行ったような…それでいてとても静かな…感じがしていた。
 棺に手をついていた指先が凍る感覚がする。
 ジョミーは電撃で装置のロックをはずした。
 青い電磁波と共に棺のガラスの蓋が上下にスライドしてゆく。いままでより強い勢いで流れ出す冷気。その風に髪がふわりと煽られる。
 棺の淵を握りなおしてゆっくりと近づき眠るブルーの顔を真上から見つめる。
 そして、その唇にそっと口づけをした。
 ぼうっと青く光るジョミー。
 急激に下がる気温。
 やがてジョミーの手や顔が音を立てて凍りはじめるが、そのまま動かなかった。
 ジョミーの感情があふれ出し、止まらない。
 いや、止めれなかった。

 ブルー。僕は貴方が好きです。
 貴方に会えて良かった。
 すべてが愛しい。
 貴方はあんなにも僕を大切に想ってくれたのに、僕は何も出来ないで逝かせてしまった。
 閉じた瞼から涙が流れてブルーの頬へと落ちた。

 ジョミーがさらに青く輝きだす。
 ピキピキと凍る音をさせながら、ジョミーをも巻き込み、ブルーの棺を中心にして恐ろしい勢いで凍りはじめる。あっと言う間に辺りが凍りつく。
 あちこちから大きな水晶のような氷が突き出したその中心に二人を包み込んだ大きな淡い水色の塊が部屋に拡がっていった。
 これはジョミーがやっている事だ。
「ジョミー!」
 強い冷気の風をうけながら、キースが叫んだ。
「ここで二人で逝く気なのか!ジョミー!」


 深い眠りに落ちたような感覚。
 とても深くて静かだ。
 ああ、許されるならこのまま眠りたい。
「死なないで、ブルー」
 出会った頃、僕が貴方を生かしたように僕が生き残ったのにも意味があるはず…。
 今は…、そう今はまだ生きよう。
 そして、貴方に心からの感謝を、そして安らぎを贈りたい。
 ブルー。貴方はここから地球が青く蘇っていくのを見ていてください。
 必ず僕たち「人間」が美しい地球に戻してみせます。

 やがてジョミーは、すぅっと抜けるように青い氷棺から出てきた。


「さようなら ソルジャーブルー」

「そして、ありがとうございました」



  続く


『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」十一話・十二話(Shangri-La)

2011-06-30 01:37:22 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です
<用語>
木星軌道上の衛星メティス キースとジョミーがいる太陽系拠点
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星

  「君がいる幸せ」

   一章「黄昏の海」

  十一話(Shangri-La)現在
 今は誰もいない老子たちの部屋の前を通り、この船の中心で、ブルーの部屋だった「青の間」へと向かうジョミー。
「ここは落ち着くな…」
 とてつもなく大きなモノに抱かれているような安心感。
 身体が浮き上がりそうな程の清浄な空気。
 広く広くとても静かだ。
 僕は一段一段噛み締めるように階段を上がった。
 ブルーのベッドの前に来ると、もうずっと考えていた事が蘇る。戦争中は何も考えずにただ突き進むだけだった。
「でも、今は…」
 考えてしまう時間があるからいけないのだろうか?
 何も考えられない程に自分の身体を酷使すれば、いいのだろうか?
 だが、今の僕にはそれは逃げでしかない。
 時間がもっと早ければ…苦しむ事もないのか?
 時間がもっと遅ければ…悩む事もないのか?
「この答えは出せそうにないな…」
 堂々巡りを始めてしまった考えを振り切るように階段を降りかけるが、今度いつ、この部屋に来れるかわからない。なら、今、言うべきなのだろう。
 僕は立ち止まり目を閉じた。
「さっき、トォニィに言われました。そう、僕が揺らいでるとしたら、それは貴方のせいだ。僕はまだ地球を想うように。僕は貴方を、ブルーを想っている。地球に着いたのに貴方は居なくて、僕の想いはどこに行けばいいのですか…」
 もう居ないのに。
 忘れればいいのに。
 もう会えないのに。
「僕も死んでしまえばよかったのですか?」
 人類とミュウを見守り続けるのが僕の役目なら、どうしてこんなに満たされないのですか?
 どこまで行けばいいのですか?
 全てを貴方の所為にして、貴方の中に逃げてしまいたい。
 貴方は何処にいるのですか?
 青の間の広い天井に向かって僕は叫んだ。

「ブルー。答えを下さい!」



 ミュウの「惑星メサイア」への旅立ちの日がやってきた。

 ここメティスに残るミュウ達が見送っている。
 ジョミーもトォニィから贈られた昔と同じソルジャー服を着て見送った。
 白く美しい船体、モビーディックと呼ばれた鯨がゆっくりと出てゆく。
 この別れは永遠ではないが、次に会えるのは何年先になるか誰にもわからない。
 もしかしたらまた戦争になって、もう二度と会えないかもしれない。
 見送るミュウ達は目的と意思を持って残る事を決めた者たちだったが、皆、泣いていた。
 見送られる方もきっと同じだろう。
 シャングリラはゆっくりと旋回して、そして離れてゆく。
 やがて星にまぎれて見えなくなった。
 ミュウとの出会いから、ナスカへ降りての生活とその悲劇。
 どこまでも続くように思われた戦争。そして、地球へ。
 いろいろな記憶が蘇ってくる。
 あの船を我らの墓標にしてでもと願った事。シャングリラは皆の希望であり夢だった。
 きっとこの先もそうあり続けるだろう。
「トォニィ、皆を、シャングリラを頼んだよ」
「僕は僕の決着をつけてくる」
 ジョミーは見送りの皆が帰った後、別のドッグから人類の戦艦に乗り込み「月」へと出港した。
 月には「黄昏の海」と呼ばれる場所があった。

「黄昏の海へ ジョミー…」





 「君がいる幸せ」

  一章「黄昏の海」

  十二話(Moon)現在
 月へ

 出港してすぐに主賓室へと案内されたジョミーはぼんやりと宇宙を眺めていた。
 しばらくしてキースが訪れた。
「極秘だから、戦艦しか用意できないのはわかるけど、こうしてこの服を着てここにいるのは、ちょっと緊張するね」
 とジョミーは苦笑いをした。
 こんな風に、オフでジョミーがジュピターとしてではなく、ミュウの前長としてキースの前にいる事、二人が一緒に動く事は今も出来なかった。
 わずか3年前、この船の軍人にとってはジョミーは敵の総大将だったのだからそのソルジャー服だと余計にだろうなとキースは思った。
 ジョミーは、これが二人にとって最後の「静かな時間に」なるのかもしれないと思っていると珍しくキースがコーヒーを入れて持ってきた。
 ジョミーに手渡すと自分は窓に向かい外を眺めていた。そして唐突に、
「どうして何も聞かない?」と言った。
 ビルレストでのあの襲撃があったすぐ後に、キースから「月」に行くようにと要請があった。コーヒーカップを両手で包むようにして、ジョミーはその黒い液体をじっと眺めた。
「聞くのが怖いんだ」
 そして、コーヒーをひと口飲んだ。
 そのコーヒーは苦く熱かったが、少し気持ちが落ち着いたような気がした。
「僕は、月に何が待っているのかは、薄々感じている。だけど、本当にそこに行っていいのかがわからない…。トォニィを突き放すように送りだしたのに僕はまだ迷っているんだ…卑怯だよね」
 と自分を責めるように笑った。
 キースは相変わらず振り向かないままだった。
 星さえも壊せる力を持つ彼が怖いと言うもの、それが…月にある。
「俺も出来れば(月へ)つれて行きたくはない」言いにくそうにキースは言った。
 多分、いつまでも隠しておく事が出来るものをそうしないで教えてくれたのはキースの優しさなのだろう。
 ジョミーは「大丈夫だから」と答えたかった。
 だが、言う事が出来ずに「ありがとう」と答えた。
 しばらくすると中距離ワープの連絡が入る。キースは艦橋に戻っていった。

 船は「月」を目指した。



   続く




『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」十話(Jupiter)※BLあり

2011-06-29 00:47:00 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です

  「君がいる幸せ」

   一章「黄昏の海」

  十話(Jupiter)現在
「トォニィ!」
「本気だよ」
 言葉と同時に戦艦も一撃してきたトォニィの攻撃がジョミーを襲う。
「……」
 強力な力だ。本気だと言うだけはある。
 袖や、あおられた裾の端が千切れて飛ぶ。幹部服でも防げない程の力が押し寄せた。
 だが、ジョミーは空気の圧力を変化させただけで攻撃全てを相殺し何事も無かったかのように消した。
 それを見て、青く光りだすトォニィ。
「一緒に来てくれないなら…」
「グランパをここから出さなきゃいいだけ!」
 連続的に攻撃を加えるトォニィ。
 攻撃の速さにトレーニングルームの機能が追い付かず、壁に亀裂がはしった。
 微かな振動を爆音が広がりシャングリラが揺れた。
「やり過ぎた…」
 そう呟くトォニィの目の前で、爆炎が回りながら集束していった。その中心に青く光るジョミーがいた。
 トレーニングルームごと吹き飛ぶかと思われた攻撃だったが、壊れたのは壁の表面だけで、内部は何も起きていなかった。
「また相殺された」とトォニィは思ったが、よく見るとシャングリラが壊れないように大きなシールドを二重にも三重にも張っているジョミーがいた。
 トォニィにすれば船が少々壊れても、たとえ怪我をさせてしまっても、ジョミーさえここに留めておけばそれで良いと思っていた。
「(そう)思っていたのに!ちゃんと戦ってもくれないなんて…」
 トォニィの怒りが思念波となって船内を突き抜けた。ミュウ達が顔を上げる。
 この事を知っていたかのように、艦橋からアナウンスが「心配しないで。これは外部からの攻撃ではありません」と流れた。
「……」
「……どうして…」
 そう言って座り込んでしまったトォニィをジョミーは抱きしめた。
「また…置いてゆくなんて出来ない。その為なら、ここに閉じ込めても…。船が壊れて移住出来なくなってしまっても…と…」
「僕に何をしても、僕の意思は変わらない。だけど、この船はミュウの希望だから。僕とブルーの大事な船なんだよ」
「でも、一人にしないでグランパ。本当に僕でいいのか…僕はまだ怖いんだ。僕一人では何も出来ない」
「トォニィ…。君は一人じゃない。沢山の仲間がいる。少し離れてしまうけど僕もいる。僕の事はもう心配しなくていい。僕は、待っている。人と共に、人類の目覚めの時を。だから、わかって欲しい。大丈夫だよ。今度はたどり着く場所の無い旅じゃない。安心して旅立ってほしい…」
「…うん。わかってる。だけど…」
 とトォニィは泣きだした。
 いつもはプライドで身を固めて護り、生意気な言動が多い彼が、僕と居ると素直な子供の彼に返る時があった。それは僕も心地よく。いつまでもそうしてあげたかった。
「また置いてゆくなんて出来ない」
「一人にしないで」
「ちゃんと戦ってもくれないなんて」
 トォニィの言葉が頭の中を巡ってゆく。ジョミーはある決心をしてこう言った。
「トォニィ、僕がどうして船を降りたか知ってるよね?」
 声音を強めた事で、トォニィには僕の言いたい事がすぐに伝わったようだった。
「あいつを…キースを守る為でしょ?」
「…それもあるけど、それだけじゃない」
「僕はあいつが嫌いだ」
 トォニィは僕を突き放し、少し距離を取った。
 これまでのいきさつを考えれば、トォニィには、キースはとても好きになれない相手だろう。そしてトォニィには超えなきゃならない物がある。そう思いながら僕もトォニィとの距離を取った。
「グランパ、僕が今また、あいつを殺しに行ったらどうする?」
「……」
「前みたいに見逃せる?あの時、僕が殺してたらマザーを壊して人類を力で抑えてしまおうと思っていたよね?」
 その問いにジョミーは少し考えてから答えた。
「キースの側には、マツカが居たから、どうなるかはわからなかった…だけどキースが死んだ場合も考えてはいた…」
 さあ、思い出せトォニィ。あの時の気持ちを。
「僕に同族殺しをさせたあいつをなんで!守るの?そうだ。あいつを殺せばいい。そして、グランパを連れて行く!」
 トォニィは感情的になってわめいた。そんな、トォニィをジョミーは静かに見つめた。
「今は殺せないだろう?」
「あんな人間!殺すくらい訳ない!」
「だから、今は僕が護っているから…お前は殺せない」
 この言葉は、トォニィをよりいっそう熱くするのを承知の上でジョミーは言った。
「…僕からあいつを守る為に…船を降りたと言うの?」
「お前からだけじゃないが…」
 冷たい眼差しでトォニィを見据えた。
「ジョミー」
「……」
 トォニィが無意識で、ジョミーと呼んでくる時は危険だ。だが、彼の高ぶる感情を受け止めてあげられるのは僕だけ…。僕にしか出来ない事だった。大人になれトォニィ。この先離れてしまうなら…今しかない。
「さっきのが僕の100%だと思ってないよね?」
「ああ…」
 返事をしながらジョミーは防御の体勢をとった。
「全部受けきれる?」
 空気が動いた瞬間、間髪入れずにトォニィからの連続攻撃がくる。
 一つ一つ相殺してゆくジョミー。
 まだジョミーの船を護るシールドは、はられていた。
「戦いたい。でも、戦いたくない。勝ちたいけど、勝ちたくない。僕はまだ超えたくない。まだイヤだ。ジョミーは…」
 そんな想いと共に、トォニィは泣きながら攻撃を加えてくる。
「ジョミーは僕のだ。好きだ。誰にも渡したくない!」
 これがトォニィの離れたくない本音だ。
 だが、それには答えられない。
「トォニィ…ごめん」
 と思った時に僕は真横からの攻撃を一つ見逃した。回避は出来ないので相殺するが間に合わずくらってしまった。
 壁に向かって吹っ飛ぶジョミー。部屋中がシステムダウンする。ジョミーのシールドが消えたのだ。
「ジョミー!」
 トォニィがあわてて駆け寄る。ジョミーは至近距離での相殺の反動で飛ばされただけだったが、細かい傷があちこちに出来ていた。
「ごめんなさい」
「謝らないで、これは僕が仕掛けた事。大丈夫だから、前より強くなったね」
 ジョミーは起き上がりトォニィの手を取ろうとするが、その手をはらわれる。目をそらしたままトォニィが言った。
「…さっきの僕の声、聴こえてたよね?」
「聴こえたよ」
 とジョミーは優しく微笑んだ。
 その答えに少し戸惑いながら、トォニィはジョミーを見つめた。そして、いつもとは反対にトォニィに抱きすくめられた。
「グランパを抱きたい」と静かに彼は言った。
「いいよ」
「……」
「僕もトォニィの気持ちに答えたいんだ」
「ジョミー」

 ぎこちないキスと抱擁。

 謝るのは僕だ。
 トォニィは、きっと僕がどんなに説得されても一緒に行かない事はわかっていた。
 わかっていても、心が欲するのは止められない。僕も君を求める。
 だから、僕がいたら成長できない気がした。僕がいない状況でないと、仲間達の理解も信頼も得られないと、ああ、違う。人類の行く末、キースを護る事、それは、僕の口実でしかない。
 そう、それだけじゃない…。
 僕は仲間達を裏切っている。
 だから僕は皆と一緒に居られないんだ。
 トォニィ…。
 今、君とこうして体を合わせていても僕は違う思いでいる。
 僕は醜く。汚いんだ。
 僕はまたこうして君を無理に大人にしてゆくのだろうか?
 いつも辛い目に遭わせてしまうね、トォニィ。
 もっと優しくして、もっと愛してあげたいのに…。
「でも君はきっとわかってくれる」
 僕は、横で眠るトォニィの長い髪を優しく触り、その頬にキスをした。


 罪つくりなソルジャー・シン

 罪つくりなソルジャー・ブルー

 繰り返す罪なき子供





  つづく