Saitolab 「なにもせんほうがええ」

婚しては妻に従い ボケては猫に従う

「カーブの向こう」あるいは「燃えつきた地図」

2010年07月08日 | 書籍・映画・音楽
安部公房作品の映画「燃えつきた地図」を観返しているうちにロケ地探訪の血が騒ぎ出した。リョウさんと徹底調査を約束しつつも少しだけ一人で下見検証。映画ではプロローグとエピローグに登場する「坂」であり「カーブ」なのだ。映画ではさらりと流されているが原作ではその場所の重みが違う。長編「燃えつきた地図」その作品の原型でありプロットが凝縮されている短編「カーブの向こう」でもここは結界のような位置づけとなる。団地への入り口であるこの坂はあやうい現実社会への入り口であり出口でもある。だからこそこの「坂」のロケ地だけは押さえておかねばならなかった。映画撮影当時から42年の歳月は過ぎていたが映画の坂はそのままに存在した。そして坂を登りつめたカーブの向こうの台地には確かに団地は存在した。1968年当時、植樹されて間も無いヒョロヒョロの桜並木は大きく成長し景色は大そう変わってしまった。映画では高台から望む下界(一部合成)社会も、今では近くに建ち並ぶ高層建築に囲まれこちらが現実社会となってしまったようだ。実際、団地は高齢化が進み浮世社会から取り残された感が強い。坂のきつい勾配は高齢の団地住人にはあまりに過酷な現実となってのしかかる。そして何より心配なのは老朽化ゆえ団地のひと区画がまるごと取り壊されていたことだ。団地の地図看板の一部は白く塗りつぶされ空白。原作の主人公がそうであるように、坂のうえカーブの向こうに団地などは存在せず、そして自分さえも見失っていく過程そのままに。
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2 コメント

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Unknown (リョウ)
2010-07-09 20:47:29
実地検証お疲れさまです。まだ、面影がそれなりに残っていたようで、いずれ行ってみたいところです。公団の建替事業はここ数年ペースが早まっているようですね。
「燃えつきた地図」のロケ地とは直接関係ないのですが、都営?の新宿戸山団地も建替事業が進行しているようで、見に行ってみたい気がしています。
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あなたはだあれ? (研究員)
2010-07-10 16:03:44
大規模な「団地」というスタイル自体がすでに昔のものになってしまいました。狭い間取り、低い天井や住騒音など昔はなんでもなかったことが、贅沢になった今となっては消滅を加速する要因になっているのでしょうね。
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