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どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム109 『カラタチに別れを告げた日』

2021-12-04 00:06:35 | ポエム
 カラタチの花  (ウェブ画像)より   学校へは人力車で送り迎えされた 成人してからもお嬢さん育ち丸出しだった 美貌ではあったが生涯スキだらけだった   最初の結婚で人生の厳しさを知った 理由はあったが姑に離婚させられた こどもを取り上げられ死ぬまで面会できなかった   その女性の死は悲しい出来事だったが 病室にはいっときぼうっとした空気が滞 . . . 本文を読む
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ポエム306 『高田松原に埋めた恋』

2021-11-29 05:31:35 | ポエム
高田松原に隠しておいた思い出は いまも陸前高田の海を漂っているだろうか 青春の甘くしょっぱい思い出は・・・・   松林をなぎ倒し大地を震わせた大津波 奇跡的に生き残った一本の松は 多くの人の思いをつなぎとめたが   ついに力尽きてモニュメントになった 青い嘆きと灰色の苦汁をまつわりつかせ いまも復興のシンボルと目されているが   三つ編みの黒髪 . . . 本文を読む
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ポエム(305)『注射針』

2021-11-21 00:13:55 | ポエム
注射針というやつは  付き合ってみると なかなか面白いもんだぞ   いつも尖っているので 食えないやつかと思われがちだが なかなか人懐っこいのだよ   ためしに太ももを出して 注射器をそっと置いてみようか 細い針がスーッと吸い込まれていくぞ   だって腕に刺す皮下注射は痛いじゃないか 筋肉注射は圧迫感もけっこうあるし そうそうワクチン注射を . . . 本文を読む
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ポエム(302)『ジュリアン・ソレルと彼岸花』

2021-09-27 17:07:39 | ポエム
     (画像はブログ『黒ラブのいる生活』ベルさん提供)   不倫という恋があるわけではない 死につながる純愛があるだけだ ジュリアン・ソレルよ あなたは それを体現した   十九世紀の半ば フランスの小説家スタンダールが 後世に残る名作『赤と黒』を発表した 野心に満ちた青年を主人公にして   美貌で聡明なジュリアン・ソレルは ナポレオ . . . 本文を読む
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ポエム(301) 『彼岸花の会話』

2021-09-18 00:55:05 | ポエム
  彼岸花の芽  〈ウェブ画像〉より   そろそろ外の様子を見てみようか 彼岸花の鱗茎が囁いた うん、もう9月だしな 隣の仲間がうなずいた   よし、出るぞ! そろって首を伸ばす 隣どころか隣り組だ 白い仲間がグングンと   頭上でなにやら人の声 なに、これアスパラ? バカ、彼岸花だよ うっかり食べたら死ぬぞ   . . . 本文を読む
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自薦ポエム95 『チロリアン・ランプが照らす』

2021-09-06 00:34:10 | ポエム
庭木が越境しているなどと 測量士の職業柄いうのはもっともだ 図面には描けないから 隣地との境界線を楕円の線で囲い 注意を喚起するのは測量図の基本らしい   人間のチマチマしたこだわりには頓着なく もみじもイチョウも大手を広げる 困惑したって塀の近くに俺らを植えた以上 こうなるのは目に見えているはず いまさら切るなんて殺生とも見える   お隣さんと越えたり . . . 本文を読む
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自薦ポエム92 『聡明なパームツリーよ』

2021-08-24 00:34:39 | ポエム
ハリケーンが立て続けにやってきて 楽園を謳歌していた人びとも安泰ではなくなった カリブ海の島々を打ちのめした余勢を駆って フロリダの灯りを黒く塗りつぶした   「彼らは雑草を食べてでも目的を達しようとするだろう」 ハリケーンのさなかに突然プーチンの言葉が甦る 呼応するかのようにマイアミが騒ぎ出す 皮肉にも惨禍の跡がトゲとなって世界を引っ掻くのだ   毛嫌いし . . . 本文を読む
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自薦ポエム89 『エゴノキの花に見守られて』

2021-08-11 00:03:51 | ポエム
武蔵野の雑木林を切りひらいた一角に ふた棟のアパートが並んでいた メゾネットタイプの部屋には新婚夫婦が住み 朝50分かけて都心の職場へ向かう夫を 妻は戸口でぼんやりと見送った   祝福されることもなく結婚して 人目を避けるようにひそむことを望んだのは 恋愛に傷つき疲れ果てた妻のほうだった 夫はそうした経緯を知っていたが 林の中で妻の傷が癒えるのを待つ気持ちだった & . . . 本文を読む
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自薦ポエム88 『さよならハンカチの木』

2021-08-06 00:24:39 | ポエム
裕ちゃんの歌う「赤いハンカチ」が 全国の横丁を流れていたのと前後して この白いハンカチを打ち振るような木は なんと小石川植物園に輸入されていたという   中国四川省あたりが原産地で そのハンカチに似た苞葉が目立つ高木は パンダを初めて世界に紹介した神父にちなんで  「植物のパンダ」とも呼ばれているそうだ   標高2000メートルの高地に自生する木を 湿潤な . . . 本文を読む
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自薦ポエム85 『スイカズラの咲く季節に』

2021-07-23 00:02:05 | ポエム
ハナカマキリのようなスイカズラが咲いた 冬の寒さに耐えて待っていた白い生き物が ムクムクと目を醒ましたのだ   この季節に逝ったひたむきな女性よ あなたの小説には忍冬が効果的に描かれていましたね 裏切に悩んだすえ朝早く夫の元を立ち去る物語でした   密やかな言葉を絹のように紡いでいた女性よ 同人雑誌の合評会ではいつも目を輝かせていましたね モデルはあなたかと . . . 本文を読む
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自薦ポエム83 『音楽教師・知らん先生』

2021-07-11 00:47:08 | ポエム
中田先生は担任を持たなかった 田舎の中学校で音楽だけを受け持っていた 飴色のフチが特徴のメガネをかけ レンズの奥から生徒たちに笑みを投げかけた   オルガンを弾くときは手元をしっかり見ていた タクトを振るときは大きな躯を揺すってスウィングした 腰から上は可動域いっぱいまで動いたが 大きな尻は微動だにせず二本の脚が錘となった   「先生、モーツアルトって本当に . . . 本文を読む
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自薦ポエム82 『花も歌舞伎も七変化』

2021-07-07 00:00:00 | ポエム
歌舞伎じゃないけど早変わり その名も妖しい七変化 山アジサイの隠しわざ   ピンク白あお黄に紅色 だいだい紫と咲きつづけ 初夏から晩秋まで一人芝居   都万太夫座の女形なら水木辰之助 犬、業平、老人、小童、六方、藤壷、猩々と つぎつぎ役柄を変えて歌舞伎踊り   元禄、宝暦、文久と江戸でも変化は大はやり 四変化、五変化と変幻し清元、長唄にも引っ . . . 本文を読む
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自薦ポエム77 『カタクリは宇宙の鏡』

2021-06-16 00:01:21 | ポエム
カタクリは地上のスティーヴン・ホーキング 天窓をみつめて宇宙の夢を見つづける 夜が明けると周りは緑の渦に囲まれ 彼を支える家族や友人が漂流しはじめるのだ   カタクリの葉のまだらは星雲の妖しさ 始まりも終わりも見定められない時間の概念に ホーキングは時空の特異点をピン留めした あらゆる真理は卓越した仮説によって覆される   カタクリの花は内気そうに下を向いて . . . 本文を読む
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自薦ポエム76 『永遠のフジバカマ』

2021-06-12 00:06:31 | ポエム
藤色のトッパーをまとったキミコの姿は いまでも僕の胸腺を熱くする 風が冷たくなった夕暮れの道端で あなたはフジバカマのように微笑んでくれた   肩にまわした僕の手のひらに ふんわりと温もりを返してよこした貴い人よ 安物のコートを着ていたかもしれないが 月の出を待ちわびる秋草のように愛しかった   まぢかに感じた息のかぐわしさも ひんやりとした夜気に匂い立つ . . . 本文を読む
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自薦ポエム73 『ポピーと女性事務員』

2021-05-31 00:00:15 | ポエム
駅に通じる商店街の歩道を行くと ガラスの扉を開けて女性が出てくる 彼女の手には白いタオルが握られ おもむろにショーウインドウを拭き始める   ぼくが出勤する時刻とかさなるのか おなじ光景にときどきぶつかる 彼女は街の不動産会社の事務員で ちょっぴり背の高いベテラン社員なのだ   彼女の視線の先には店内の物件情報が並ぶ よく見えるようにガラスを拭くのはそのせ . . . 本文を読む
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