磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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88.男として

2005年09月08日 | 【作成中】小説・メリー!地蔵盆



七、学園紛争と秘密基地

88.男として




 何もおこらないので、市電が走っている道の方まで、何か起きてないか見学しに行くことにした。しかし何も起きていなかった。

「火炎瓶投げてくれへんかな。せっかく見物しにきたのにつまらんのう」
「ほんまや。これじゃ、家で遊んでいた方が楽しいよ」
「ほんまやな」

 ふたりは退屈で仕方がない。

「おっ! 香取ちゃんやないけ!」
 それは、細い目をした利発そうな体格のいい男の子だった。

「おお、花田!」
 池山も花田のことを知っていた。昨年のある出来事で知りあったのである。

「どないしたんや」
「買い物でも、行ってきたんか」
 花田は茶色の大きな紙袋を持っていた。

「まあ、そういうわけや。……。しっ! ここじゃ、まずい。おまえらに、男としての頼みがあるねん」

「男としての頼み?」
 池山は眉間に皺をつくった。

「ぼくにか」
 雄二はへらへら笑って頭をかいた。男としてなんて……あまりにも格好よすぎるじゃないか。こんな言葉を平気で口にできるのが、花田だった。

「なんやねん」
 雄二はうれしくってたまらない。

「ここじゃ、あかん」
 慎重な花田。

 三人は電車道に出て、左におれた。市電はいつも通り走っている。ふだんと何もかわらない。
「あのな。わしは今、学生運動に参加しているわけや」

 耳を疑った。
「何やて?」

「学生運動やがな」
 気楽にいう花田、だからまた質問してしまった。

「学生運動!」
 池山が大きな声を出した。

「大きい声だすなよ!」
「あのなー。学生運動していても、腹が減るというわけや」

「減るんかいな」
「そら、そうやろ」

「武士は食わねど高楊枝」
「そんなこと無理やろ」
「そら、そうやろ」

 雄二らは緊張した。学生運動に参加している小学四年生。新聞に載ったら有名人になるのじゃないか。花田、こんなことを気楽に口にしていいのだろうか。でも、男として言われたのだから、雄二らは黙っているしかない。そう、花田は馬鹿じゃない。むしろ、頭のいいやつだ。

「ええか、わしは食料調達係というわけや」
「それで」

「おまえらにも手伝って欲しいというわけや」
 気楽に笑っていう花田。

「うん、ええで、面白そうやな」
 池山はいってのけた。

「うん」
 雄二も、何かの力に引き込まれるように、そう返事してしまった。そう男として頼まれたのだ。断ることはできなかった。

「おまえら、報道陣も敵やからな。見つかったらいかんのんや! 見つかったら、大変なことになるで。写真がパシャパシャとられて、ゲバルト小学生! 京大で大暴れ! なんて書かれるで。新聞なんて弱い者いじめするものやからな。何もわかってへんくせにな!」

「そうなんか」
 雄二らはきいた。大人の世界を顧みたようで、ぞくぞくした。

「当たり前だよ。学生は暴力学生と言われるけど、機動隊員は革靴で学生を蹴りつけとるんやぞ! あいつら、人を殺すことも訓練されとるんや、足を折られた学生がいるんやで。殺された学生もおるんやぞ」

「そうなんか」
 雄二と池山は、つばを飲み干す。

「そうや、東大の女子学生は殺されたんや」
 そして、機動隊員も殺されている。そんなことは、花田は言わなかった。

「恐ろしいのう」
 池山と雄二は、ため息をついた。

「なあ、香取ちゃんと池山くん、きみらも命懸けだということを、わかってくれよ」
 花田は深刻にいい、雄二の肩をポンと叩いた。男として頼まれたのだから、雄二らは断ることはできなかった。






閑話休題

学生運動について調べていますと、
高倉健のやくざ映画もまんざらこの運動と
関係がないというわけでもないようです。

学生たちの多くが網走番外地をみて、
それで勇気をえて、学生運動をしたと
書いてあったりします。

上野千鶴子さんのような方がお読みになっておられたら、
これは時代を表現しているわけで、ご容赦願います。(-_-;)
ぼくは若いころから、上野さんのファンです。

東映は一時はやくざ映画は作らないと
宣言したはずなのに、
またもつくっていますね。

もし、つくられるなら、本質もきちんと
描いていただきたいと書いておられる方がいました。










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