九、さよなら、大文字さん
101.引っ越し
盆が近づく、雄二の家は引っ越しとなった。
去年のお盆は楽しかったと思い出す。あのジョンさんはどうしているのだろう。そう思ってもアメリカまでは遠すぎてわからない。きっと、ジョンさんも、昨年のお盆のことを思い出していることだろう。日本の文化は素晴らしいといっていたジョンさん。
雄二にとっても、いい思い出となった。そして外国の人だって、日本の人だって、本当はそんなに変りがないと思う。同じ人間だと思う。
引っ越しには、父の会社の人たちが手伝いにきてくれた。いつもより、父は陽気であった。会社の仕事仲間がいるからだろう。そして、会社のトラックに乗って父は先にアパートを出た。
「これで、おしまいやね」
母はさわやかに笑った。
やっぱり荷物のない部屋は広かった。ジョンさんの最初のころの部屋みたいだった。
曽我のおばあさんが顔を出し、しみじみと話しだした。
「ここは、雄二が生まれたから引っ越してきたんやったね。同じアパートやったけどな。新館から本館に引っ越したんやったねえー。そしてお姉ちゃんも、雄二も大きうなって、ここから出ていく。よかったな」
「曽我のおばあさんは」
「年寄りになると、あんまり環境の変化は楽しいないものや。それに家賃はなんとか払えそうや。それじゃあな」
笑顔で曽我のおばあさんは、ぼくらを見送ってくれた。
横の道から母は行こうとした。
「お母ちゃん、正面から出ようよ。堂々と出て行こう」
雄二は、ジョンさんと同じ道を通ってここを去りたかった。鍵は曽我のおばあさんに渡して、管理人さんに返すように頼んだ。だから、素通りして石段をおりた。松の木がいつもより大きく見えた。
幸江は池山たちを家賃が払えないから引っ越していくなどと悪口をいっていた。大人になって考えてみれば、幸江も池山や雄二が引っ越して行くのを寂しく思い、そんな悪口を言ったのかもしれないと今では思う。
神楽坂を降りて、しばらく歩いて振り返って見れば、大文字さんが見えた。これから毎日は見られなくなるのか、学校の行き来のときにも見ていた大文字さん。何か一番の顔見知りのように思えてならなかった。
あの大文字の送り火の日だけではなく、いろんな表情を見せる大文字山、雪が積もった大文字はとても美しかった。それは、横山大観の絵のように厳かであり、何か透明感を感じるものであった。
閑話休題 雪の大文字山の写真。 ここをクリックしてください。 雪の京都は写真マニアの方の格好の題材となるらしく、 雪がふると、カメラマンも大勢、街に出られるそうです。 八代目さんもその一人です。 2005年2月25日の作品が雪の祇園です。 ここをクリックしてくださいませ。 雪の祇園の小さな画像がたくさんありますが、 クリックすると大きくなります。 大きくして欲しいという要望で、 大きくされたのですが、大き過ぎます。(@o@) 雪の金閣寺のおもしろい画像があります。 ここをクリックしてくださいませ。 雪の日の撮影には特に足下に気をつけてくださいませ。 |
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