七、学園紛争と秘密基地
85.学園紛争
雄二は、蓄膿症じゃないかということで、耳鼻科に通うことになった。しかし、蓄膿症でなく、花粉アレルギーだと医者から言われた。
そのころは、まだ花粉アレルギーは珍しい病気で、曽我のおばあさんなどは、
「花についているあの花粉かいな。花に対してアレルギーなんか、難儀やなあー。それにしても、そんな病気きいたこともあらへんで……」
と嘆いていた。
三十年以上たった今では、花粉アレルギーは、国民病とまで言われている。時代というもので、人の病気さえもかわってしまうのだろうか。
耳鼻科に通うのは、京大の時計台の道を西に行き、市電に乗っていくのである。そこで、花田という昔の友達に出会った。花田は吉田幼稚園に通っていたときの友達であるが、小学生になると校区がちがったのでお互い別の学校となった。しかし、昨年あることで、また花田に会った。だから、花田ということはすぐにわかった。
それから、花田と遊ぶことになる。花田の家は京都大学の中にあった。花田の父親は京大の職員だった。京大は遊び場として、おもしろい所だった。ウレタンのところで遊んだり、トランポリンをしたり、こわれた自動車で遊んだり、壁登りをしたりして遊んだ。気持ちよく疲れて家へ帰る。何回か遊んだが、飽きてしまい足は遠のいた。
ぼう状の蛍光灯二本がアパートの部屋を照らしている。母は内職で動力ミシンを使っている。ミシンの音はガーガーと大きく、そしてマシンガンのように続く。
母の内職は着物の帯をつくる工程の一部で、最初から最後までつくるというわけではない。帯の生地と裏生地を縫い筒状の袋にする。
その袋は裏返しで縫われており、物差しで表にして、その中にダンボール紙の芯を入れる。また、芯がでないように袋の口を縫う。ここまでが、母の内職の仕事である。
今、母は筒状の袋を動力ミシンで縫っている。その前で会社から帰った父はテレビを見ながら、袋に芯をいれている。その横で、姉は学校の宿題をしている。一番、玄関に近いところで、雄二はアポロ宇宙船のプラモデルを作っている。
「おっ、京大がうつっている」
父は内職の手を止めて話した。
テレビで京都大学の時計台がうつった。花田と遊んだことがある場所だ。
「京大もたいへんなことやな」
動力ミシンが止まり、母もテレビを見ていた。
| 閑話休題 京都にはたくさんの大学があります。 学園紛争が盛んな時でも、 京都の学園紛争は他の地方とはちがったと 文献には書かれてあります。 この話では、まだ70年代にはなっていませんが、 70年代の学園紛争について書かれある記事で、 興味深いものがあります。 『京都が消える』というものです。 祗園さんは、こんな時代にも、 人情のある町として、華やかなだけの 所ではないところに興味を覚えます。 京都人が祗園さんを京都の顔と呼ぶのも、 愛着があるのも、こんなところがあるからやと思います。 |
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