七、学園紛争と秘密基地
88.男として
何もおこらないので、市電が走っている道の方まで、何か起きてないか見学しに行くことにした。しかし何も起きていなかった。
「火炎瓶投げてくれへんかな。せっかく見物しにきたのにつまらんのう」
「ほんまや。これじゃ、家で遊んでいた方が楽しいよ」
「ほんまやな」
ふたりは退屈で仕方がない。
「おっ! 香取ちゃんやないけ!」
それは、細い目をした利発そうな体格のいい男の子だった。
「おお、花田!」
池山も花田のことを知っていた。昨年のある出来事で知りあったのである。
「どないしたんや」
「買い物でも、行ってきたんか」
花田は茶色の大きな紙袋を持っていた。
「まあ、そういうわけや。……。しっ! ここじゃ、まずい。おまえらに、男としての頼みがあるねん」
「男としての頼み?」
池山は眉間に皺をつくった。
「ぼくにか」
雄二はへらへら笑って頭をかいた。男としてなんて……あまりにも格好よすぎるじゃないか。こんな言葉を平気で口にできるのが、花田だった。
「なんやねん」
雄二はうれしくってたまらない。
「ここじゃ、あかん」
慎重な花田。
三人は電車道に出て、左におれた。市電はいつも通り走っている。ふだんと何もかわらない。
「あのな。わしは今、学生運動に参加しているわけや」
耳を疑った。
「何やて?」
「学生運動やがな」
気楽にいう花田、だからまた質問してしまった。
「学生運動!」
池山が大きな声を出した。
「大きい声だすなよ!」
「あのなー。学生運動していても、腹が減るというわけや」
「減るんかいな」
「そら、そうやろ」
「武士は食わねど高楊枝」
「そんなこと無理やろ」
「そら、そうやろ」
雄二らは緊張した。学生運動に参加している小学四年生。新聞に載ったら有名人になるのじゃないか。花田、こんなことを気楽に口にしていいのだろうか。でも、男として言われたのだから、雄二らは黙っているしかない。そう、花田は馬鹿じゃない。むしろ、頭のいいやつだ。
「ええか、わしは食料調達係というわけや」
「それで」
「おまえらにも手伝って欲しいというわけや」
気楽に笑っていう花田。
「うん、ええで、面白そうやな」
池山はいってのけた。
「うん」
雄二も、何かの力に引き込まれるように、そう返事してしまった。そう男として頼まれたのだ。断ることはできなかった。
「おまえら、報道陣も敵やからな。見つかったらいかんのんや! 見つかったら、大変なことになるで。写真がパシャパシャとられて、ゲバルト小学生! 京大で大暴れ! なんて書かれるで。新聞なんて弱い者いじめするものやからな。何もわかってへんくせにな!」
「そうなんか」
雄二らはきいた。大人の世界を顧みたようで、ぞくぞくした。
「当たり前だよ。学生は暴力学生と言われるけど、機動隊員は革靴で学生を蹴りつけとるんやぞ! あいつら、人を殺すことも訓練されとるんや、足を折られた学生がいるんやで。殺された学生もおるんやぞ」
「そうなんか」
雄二と池山は、つばを飲み干す。
「そうや、東大の女子学生は殺されたんや」
そして、機動隊員も殺されている。そんなことは、花田は言わなかった。
「恐ろしいのう」
池山と雄二は、ため息をついた。
「なあ、香取ちゃんと池山くん、きみらも命懸けだということを、わかってくれよ」
花田は深刻にいい、雄二の肩をポンと叩いた。男として頼まれたのだから、雄二らは断ることはできなかった。
閑話休題 学生運動について調べていますと、 高倉健のやくざ映画もまんざらこの運動と 関係がないというわけでもないようです。 学生たちの多くが網走番外地をみて、 それで勇気をえて、学生運動をしたと 書いてあったりします。 上野千鶴子さんのような方がお読みになっておられたら、 これは時代を表現しているわけで、ご容赦願います。(-_-;) ぼくは若いころから、上野さんのファンです。 東映は一時はやくざ映画は作らないと 宣言したはずなのに、 またもつくっていますね。 もし、つくられるなら、本質もきちんと 描いていただきたいと書いておられる方がいました。 |
↓1日1回クリックお願いいたします。
ありがとうございます。
もくじ[メリー!地蔵盆]
雄二クンの物語、面白く読ませて頂いてますよ。
時々、台詞に標準語が入るのも微笑ましいです。
”男遊び” 予定に入ってます。
京都を舞台にされている故・山村美紗さんが
書いておられたの、もう一度よんで書き直しの時、チェックいれます。
上野千鶴子さんは、僕にとっては、
日本で唯一の社会学の分野で名のある
仕事をされた方です。
たしかに、僕のような
気の弱い男は、負けてしまいますぅ~。
負け続けていたそうです。
名のある武将は一敗しただけで、
命も郎党も亡くしたというのに、
徳川家康は負けても負けても、
負け続ける実力があったそうです。
世の中にはそういう実力もあるのかと、
僕は徳川家康を見直しました。
がんばれ!全国の家康くん!
ぼくらは意外にすごいかも?