七、学園紛争と秘密基地
95.救急車
秘密基地は完成した。
頭のいい花田がいないとこんな小屋はできなかっただろうと思う。
小屋は三人がやっと坐れ雨水がしのげるくらいのものだが、素敵な城ができたと、雄二らは思った。池山と花田はお祝いをするためのジュースを買いに行った。雄二は基地に座り、景色を眺めていた。
吉坊がいたら、鼻水や涎を垂らして、すごいやんと、喜ぶだろうなと思った。
「二、しっかりしたやつでないと、仲間にいれない」
掟を思い出していた。子どもの家と秘密基地では、まったく違うように思えてならなかった。小鳥たちの楽しそうな声をきいて、よけいに悲しくなった。
花田と池山が帰ってきて祝杯をあげた。祝杯は騒いだけど。その後、三人は黙りこくった。でも、ここから去る気にもならなかった。こんなに努力したのだから……。
かあーかあーとからすが鳴いて、飛んでいく。
「♪からすなぜなくの……」
雄二は鼻歌を歌った。その歌は吉坊が唯一、最後まで歌える曲だった。
「吉坊いたら、一番、喜ぶやろな」
ポツリといってしまった。
「あいつ、おしゃべりや」
池山は怒っていた。
「掟を守ろうな」
花田が笑顔でいた。
「吉坊が一番喜んでも。この基地なくなってしまうよ。そうしたら、喜ぶこともできへん」
「そうだよなあー」
三人はしばらく黙りこくった。
「おお、誰か、香取ちゃん、呼んでへんか?」
池山が不思議な顔をして、雄二を見つめた。
「しーっ」
雄二らは耳を澄ました。
「ああ、お母ちゃん」
それは雄二の母の声だった。
「秘密基地のこと話したのか?」
「ううん、どこで遊んでいるかってきかれたから、あの公園の近くで遊んでいると教えたんや」
「そうか。秘密基地のことは話してないんやなー」
雄二は木から飛び降りた。
「この公園、香取ちゃんに教えてもらったんや」
「なかなかわからん、盲点みたいな所にあるからなあー」
池山と花田は話し合っていた。
雄二は秘密基地が発見されないように、周り道をして、母のところへ行く。
「ああ、いたの。どこで遊んでいるの?」
「この辺や」
「池・山・く・ん・は……」
母は息をきらせていた。
「どないしたんや」
「吉坊が救急車で運ばれんや」
母は苦しそうに話した。
「池山、吉坊が、救急車で運ばれたそうや」
雄二は大声をあげた。
池山は飛び下りた。枯れ葉を散らしながら池山は矢のように走ってきた。
「これが、病院の住所」
母は、池山にメモを渡した。池山は真っ青になっていた。
「吉坊どうしたの」
「ひとりで遊んでいて、真っ青になっていてジョンの小屋の前で倒れていたそうや。曽我のおばあさんが救急車を呼んだそうよ」
雄二は目をしょぼしょぼさせた。母は池山の後について行った。
「池山の父ちゃんは、蒸発していた。ひどい父ちゃんがいなくなって、池山は喜んでいた。お金も昔よりは使えるようになったしね。でも、池山の父ちゃん帰ってきた。若い女に捨てられて……。でも、池山たちのお金を盗ると、どこかへすぐ出ていくんや」
雄二は暗い気持ちでいた。そやから、池山は子どもの家とか隠れ家とか秘密基地をつくりたかったんやろと思った。
「雄二」
花田の声が聞こえた。
雄二は腹が立って仕方なくって、
「こんなもん、作らんかったらよかった」
と、花田に八つ当たりをした。
花田も木から飛び下り、困った顔をしていた。
子どもの家を作りたかった池山の心の中には、あの楽しい地蔵盆が頭の中にあったのだろう。しかし隠れ家はもうあの陽気な地蔵盆ではなかったし、秘密基地は『メリー!地蔵盆』から遠く懸け離れたものになってしまっていた。
それは、どこか学生運動の末路と似ているような気がする。よいと思ったことでも、その過程で変質したのである。
数日して、アパートの入口で吉坊が笑っているのが見えた。
「吉坊、退院できてよかったな」
雄二は池山母子に話しかけた。
「ええ」
そういうと、奥歯を噛みしめている池山の母。
「心配してくれて、ありがとう」
池山だけが笑顔で応えた。
あの時、雄二が池山と遊んでいなかったら、こんなことにならなかったのじゃないか。そう批難をしているような目に母と恭子の目は見えた。
閑話休題 平和への道のりはコミュニケーションと、 東京銀行のご令嬢(小野洋子)が教えてくださいました。 こう書くと、イメージがあいませんね。 やっはり、小野洋子よりヨーコ・オノなんかなあー。 たまには新しいことを書きます。 Def Techの「Power in da Musiq ~Understanding」 イイスネ。 文字色が変わっているところ、曲名をクリックすると 移動して、視聴もできるみたいスよ! コミュニケーションの難しさと、 相互不理解になっていることを よく現わしています。 ノリもいいし、ユーモアたっぷりでいいです。 |
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