七、学園紛争と秘密基地
91.心やさしき人たち
「あの何か、手伝いましょうか?」
池山は食べ物をもらったので、恩返しをしようとする。
「それなら、石を集めてよ」
「石?」
「ああー、わかった。警官の頭をかち割るんやろ」
「何をいうのよ! 私たちは、そんなつもりはないわ」
女の人は、目を白黒させていた。
「ああ、あそこに石がいっぱいあるよ」
「駄目だよ、あそこは花壇だから、花がかわいそうだろう。あの石は、雨のときなんかに流されないように、花を守っているからなあー」
無精髭のいかつい男子学生がそう話した。
「えっ! ゲバルトやっている学生のいうことかいな」
池山は予想外なことを学生が話したので、驚いていた。
「そうだよ。ぼくらは心が優しいからゲバルトをしているのさ」
「そうなの、わからんな」
「難しいか。まあ、それは大人になったら、わかることだろうなあー」
「チッ!」
花田が舌打ちをした。
「その言葉、嫌いだったよなあー。大人になったら、わかるってこと」
「うん、そう……」
と相づちは送るけれど、花田はにが虫をつぶしたような顔をしていた。
「じゃ、そこの道をこのツルハシで砕く、それをバケツに入れてくれ」
「わかった」
花田は経験があるらしく、器用にコンクリートの道をつぶしている。
「そんな細かいのは、バケツにいれるなよ」
学生は注意した。
「どうして、小さい方がよく飛ぶよ」
「飛ばなくっていい。大きな石なら、機動隊の人が怖がるだろう。本当にぶつけたら、かわいそうじゃないか!」
「えっ!」
予想外のことを言われてびっくりした。
「もし、ぶつけることが目的なら、パチンコの玉をゴムのパチンコで飛ばしたら、すごい破壊力があるぜ」
花田は冗談で話した。
「ぶつけることが目的じゃないってこと?」
雄二は学生に質問した。
「そうだよ。大きいのを選んであげてね」
「わかった。何か気が抜けるな」
「ほんまやな」
「きみたち、何を期待してやってきたの」
女の人が白い目で雄二らを見ていた。
「戦争!」
雄二と池山は声を揃えていた。
「ほんものの戦争を見たかったってわけね。そんなことにならないように、私たちは運動をしているのに、どうして、そんなことをしなければならないの。私たちは機動隊と戦うことが目的じゃないのよ。本当の敵は政治家とか偉い人たちなのよ。それを勘違いしちゃ、おかしいわよ」
「そうだよ。機動隊の人は命令が下りたから、仕事をしているだけさ。気の毒と言えば気の毒だよ」
雄二たちは気の毒と思うなら、しなかったらいいのにと思った。
「そうか。なんだ~、テレビで騒いでいるのと違うな」
「そうでしょうね。テレビとかマスコミは面白ければいいのよ。それで、偉そうに物をいっていられたら、この世は平和とでも思っているのよ。たとえ、その前のフィルムで人が殺されたのを流していても、平和と言っているのよ。そんな人たちの言っていること信じられないわ」
雄二らは、こんなことをいう人たちもいるのかと驚いた。
バケツに三杯ほど、石を集めた。雄二も生まれてはじめて、ツルハシを使ってコンクリートを割った。
「きみたち、お握り食べていきよし。お腹すいたやろ」
「うん、まあね」
「食べたら、食料調達に行ってきます!」
「がんばるわね」
「学生運動って楽しいね」
池山はお握りをほうばりながら、そう言うと、まわりの人たちは爆笑していた。
「あのな、今夜くらいから山だから、子どもは中に入れるなよ」
眼鏡をかけた賢そうな学生が指示した。
「キャプテン、わかりました」
「うん、怪我でもさせたら、困るからな。これは、われわれの闘争であって、子どもたちの未来のためにもあるのだが……。今日くらいで食糧の調達もいいよ。こっちで何とかするよ。これで防御もなんとかできたからね。きみたち、ありがとう」
キャプテンはコーヒーか何かを飲んでいた。
「それに、今日ここに来たことは、親には言わない方がいいよ。きっと、叱られるに決まっているからね」
大学生は雄二らのことを心配してくれた。インテリとは、こういう人のことをいうのだろうと思った。ジョンさんを思いだした。でも、ジョンさんなら、きっと暴力いけませんというだろうなあーと思った。
閑話休題 田辺聖子さんは、 小説で学園紛争を書いておられます。 それは、親の目をとおして書かれた作品です。 『夕ごはん食べた?』というタイトルの作品だったと思います。 京大生の方はふだんよりも、 食生活が豊かだった人もいたようです。 親として子どもの将来や、 健康を心配するのは当然なことでしょう。 しかし、彼らが夢や希望をもち、 今の若者たちより、仲間意識を強くもっていたことは 書かれてないと思います。 でも、彼らの夢や希望がどうなったかは、 書くまでもないと思いますが……。 大人なら、それ見たことじゃないといわれることでしょうね。 学園紛争という言葉自体が、 あのことを否定的にとらえているらしいです。 肯定的にとえらる人たちは、 学園闘争と表現するらしいです。 この後にあらわれる三無主義の学生に くらべたら素敵な人たちです。 また、立身出世のためだけに、 勉強をしている物悲しい方たちよりも、 彼らは幸せそうでした。 |
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