七、学園紛争と秘密基地
84.子どもの家
雄二はジョンさんのまねをして吉田山の頂上で読書していた。
池山たちが坂道をのぼって来た。
「香取ちゃん、子どもの家をつくっているねん。手伝ってくれへんか?」
「子どもの家」
雄二は首をかしげる。
「そうや、子どもだけの家や。ぼくらだけでつくっているのや」
「子どもだけでか」
「そうや、ぼくらだけの家や」
雄二は夢のような話だと思えた。
「家賃も払わんでええんや」
恭子がうれしそうだ。
「家の母ちゃんにそう言ってやろうか」
「あかん、あかん、子どもの家で、大人の家やないねんで」
「そうか、残念やねえー」
坂道の途中で、道のないところに入る。
「すごいやん」
「つぶれた家から材料を運んだ」
雨戸を利用して作られた家である。木の枝が柱の役目をしている。
「こんな坂道の途中のちょっと入った山の斜面につくったら大人に見つかったら、怒られるで。こうやって、木の枝や葉っぱをおくと見つかりにくいよね。カムフラージュや」
「わしも、手伝う。香取ちゃんがいたら、こんな板を重ねただけの家はすぐにできたやろうにな」
「大人みたいだな、大家さん」
雄二は池山をからかった。
「これでも、三時間くらい、手こずったよ」
池山は雄二をにらんだ。
「入口はどないすんねん」
「そうやな。枝を組んで、蔦で結わえて、入口の戸を作ろうよ」
入口の戸ができた。組んだ枝を蔦で結んだ扉を作ったのだが、枝に葉が残っているので戸らしく見えた。
「なかに入ろうよ」
小屋のなかは暗い。
「お化けの寝床」
恭子がうれしそうに笑った。
「ロウソク、つけよ」
ロウソクをともした。小さくってやっと五人が入れるものだった。
翌日は幸江も誘って、子どもの家で遊ぼうとした。
「この子どもの家、とても窮屈だね」
雄二はいやで外に出た。かわりに吉坊が入った。
「ぼく、アパートに帰る」
「わたしも」
幸江も同じく帰りたがった。
他の子ども、どうしようかと迷っていた。
「おまえら、待っとれ、餅もってくる」
池山はほかの子どもたちにいって子どもの家から飛び出した。
雄二は、また元のところで本を読んでいた。青空を見ながら、ジョンさんがいたときの地蔵盆のほうが楽しかったなあーと思う。万国旗がひらひらと風で揺らいでいたのを思いだした。ジョンさんの国は星条旗。いろんな国がこの世界にはあるんや。
ジョンさん何をしているやろうなあー。アメリカは遠くて、とても大きい国だ。ジョンさんのことだから、熱心に勉強していることだろうなあー。目をつぶると大文字の送り火を思いだした。
「想い出、心の中に残る」
とかジョンさは話していたなあ……と思い出した。
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