デュマ・フィス『
椿姫』(光文社古典新訳文庫)
★★★★★
社交界の花・高級娼婦のマルグリットは椿の花を好み、
「椿姫」と呼ばれていた。
彼女に出会い、一目で恋に落ちてしまった青年アルマンは、
彼女の恋人となるが、
パトロンからの援助で豪奢な生活を送り、奔放に振舞う彼女と
つきあうことは、嫉妬に悩まされ続けることでもあり、
彼女との時間のために財産を失ってゆくことでもあった。
マルグリットはアルマンの純粋さに惹かれ、
彼を本当に愛するようになる。
マルグリットはパトロンを遠ざけて贅沢な暮らしを捨て、
アルマンとの質素な暮らしを選ぼうとするが、
二人の噂を聞きつけたアルマンの父が、アルマンを尋ねて
パリへやってくる。
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訳は西永良成。
マルグリットとアルマンの父とのやり取りに涙が……
泣かせどころのこのセリフ、
「それでは、一度だけでいいですから、
お嬢様になさるような口づけをあたしにしていただけませんか。
そうしていただけるなら、その口づけ、
あたしが受ける本当に清純な唯一の口づけのおかげで、
じぶんの愛にさからう力があたえられることでしょう」
↑この訳は、ちょっと……。
新潮文庫の訳のほうが自然な口語で好きだなあ。
しかしアルマンは泣き虫すぎるし、幼稚すぎて、
失笑するしかない。
それだからこそ、世間というものをよくわかって
先を見通しているマルグリットが痛々しい。