<昨日からの続き>
昔から、「妊婦は火事場に近づくな」などと申しまして。
私はそれを単純に「危険だから」という理由だと思っていましたが、
それだけでは無いようです。
私の叔母も、大正の震災の際、秀坊を早産いたしました。
「火事場」も、その殺伐、騒然とした雰囲気が「お腹の子に影響を与える」
というのが、その言葉の戒めでありましょう。
さて、話を戻します。
目の前で、要一に首を吊られたお夏さんは、心底、気が動転してしまいました。
そしてあろう事か、産気づいて、その場で男の子を産み落とし、
そのまま一目散に逃げ帰ってしまったのです。
その後、入れ替わるように「一本松」を村の男達が通りかかり、
変わり果てた要一と赤ん坊を発見した...。
これが事件の顛末でございます。
赤ん坊の方はその後、善徳寺から、お夏に連れられて帰って行きました。
今は親戚筋にあたる越後の、とある家に養子として引き取られた、
との事でございます。
しかし、要一はもう帰ってはきません。
こうして、また春が来ると私はいつも思い出してしまうのです。
この悲しい事件の事と、もう帰ってこない要一の「ニヤニヤした笑い顔」を。
後書き:
この話の元になったのは、昭和初期の地方新聞の「投稿記事」からだ。
脚色はしてあるが、ほぼ「本当にあった話」らしい。
まあ、こういう事を説明するのも野暮な話だが。
この女性(この話を語った人)
せつせつと「悲しみ」を伝えているが、「本当に悲しいのか?おい?」
と思わせるような「独特の味」を醸し出している。
彼女の不幸とは、妙な事件のお陰で、
「せっかくの一本松の春の景色を台無しにされた」事であり、
「その後味の悪さをお前らも味わえ」と言っているようにも聞こえる。
良くいるだろ?
「歯を磨いた後、夏みかん食うとすげー後味わるいぜ。」
とか言う奴。
で、結局、自分も歯を磨いた後で、それを試してみたくなったりする。
こういう人間の心理って何なのか?俺はちょっと不思議だよ。
<完>
昔から、「妊婦は火事場に近づくな」などと申しまして。
私はそれを単純に「危険だから」という理由だと思っていましたが、
それだけでは無いようです。
私の叔母も、大正の震災の際、秀坊を早産いたしました。
「火事場」も、その殺伐、騒然とした雰囲気が「お腹の子に影響を与える」
というのが、その言葉の戒めでありましょう。
さて、話を戻します。
目の前で、要一に首を吊られたお夏さんは、心底、気が動転してしまいました。
そしてあろう事か、産気づいて、その場で男の子を産み落とし、
そのまま一目散に逃げ帰ってしまったのです。
その後、入れ替わるように「一本松」を村の男達が通りかかり、
変わり果てた要一と赤ん坊を発見した...。
これが事件の顛末でございます。
赤ん坊の方はその後、善徳寺から、お夏に連れられて帰って行きました。
今は親戚筋にあたる越後の、とある家に養子として引き取られた、
との事でございます。
しかし、要一はもう帰ってはきません。
こうして、また春が来ると私はいつも思い出してしまうのです。
この悲しい事件の事と、もう帰ってこない要一の「ニヤニヤした笑い顔」を。
後書き:
この話の元になったのは、昭和初期の地方新聞の「投稿記事」からだ。
脚色はしてあるが、ほぼ「本当にあった話」らしい。
まあ、こういう事を説明するのも野暮な話だが。
この女性(この話を語った人)
せつせつと「悲しみ」を伝えているが、「本当に悲しいのか?おい?」
と思わせるような「独特の味」を醸し出している。
彼女の不幸とは、妙な事件のお陰で、
「せっかくの一本松の春の景色を台無しにされた」事であり、
「その後味の悪さをお前らも味わえ」と言っているようにも聞こえる。
良くいるだろ?
「歯を磨いた後、夏みかん食うとすげー後味わるいぜ。」
とか言う奴。
で、結局、自分も歯を磨いた後で、それを試してみたくなったりする。
こういう人間の心理って何なのか?俺はちょっと不思議だよ。
<完>