場所はどっかのホテルのロビー。
旧友Tと再会した。
「アレ? 髪の毛、増えたじゃん」
彼は最後に遭った時より、明らかに若返っていた。
「ああ」
(コイツ、医者だからな。何か特別な治療でもしたのかも知れぬ)
俺はそう思ったが、それ以上は訊かなかった。
(それにしても)
見事なまでに若返った彼は、できそうな男に見えた。
若い頃は「福山似の先生」と言われてた(ただし自己申告)
のも、あながち嘘ではないかもしれない。
Tは「ドイツで学会があって……」とか、なんだとか言っている。
一方、万事進展が無い…いや、むしろ後退している…俺には、
はるか遠い宇宙の話を聞かされている感じだった。
「で、まだ、そこにいるの?」
Tに何を聞かれたのか? 良くわからなかったが、
俺には「色々な意味で」ドキッとする言葉だった。
「え? ああ」
「ふうん。大変そうだね」
彼の顔は何故か? 心なしか悲しげだった。
「大変だよ。今は。”生きる”って事だけでも」
「ハハハ」
特に「笑うトコ」でもないと思うが……
俺がそう言うと彼は白い歯を見せて笑った。
暫くすると、彼はいつの間に帰っていた。
(きっと、忙しいんだな)
今頃は成田にでも向っているのかも知れぬ。
俺とは違って、Tはもう別世界の人間なんだろう。
やがて、
夢から醒めて。
Tは……○年前に死んでいる事を思い出した。