「じゃあ、今年一年を総括してM部長から」
「今は部長じゃねえ。退職したし。来年から”ハゲかわのM”とでも呼んでくれ」
「……? では顧問のMさんから今年一年を振り返って」
「いやあ、酷いもんだね。俺も管理職から一転。現場の労働者だ」
「でも、怪我の巧妙というか。すっかりメタボが解消したじゃねえか」
「それはいいけど。着られる服がねえんだよ」
「若いヤツみたいにダボっとした格好すればいいじゃねえか」
「ダメだ。俺、ああいう服、悲惨なまでに似合わない」
「確かに。”貧相な死神”か”他人の服拾って着てるホームレス”に見えるよな」
「減ったのは体重だけじゃねえよ。頭もだ」
「いっそ、坊主頭にしてみるとか」
「ホンモノの職人さんだったらいいけどな。社会的に無理がある」
「うーん。一昔前に流行った”チョイ悪男”風にしてみたらどうだ?」
「お前等、俺がラティーノか何かと勘違いしているんじゃねえか?」
「……」
「やっぱり、俺らは”憧れる対象”を間違えていたと思うんだ」
「うん。今になるとそう感じるよな」
「古典的な日本のオヤジ像も完全に崩壊したし……」
「いや。今こそ日本のオヤジ文化復権の時だ」
「で、何? それが”ハゲかわ”なの?」
「そうだ」
「無理あるなあ」
「お前等、哀愁漂う日本のオジサンの魅力がわかねえのか?」
「いや、あんまり、わかりたくないけど」
「家でも会社でも相手にされねえ男の悲哀がわからねえのか?」
「そう言えばさあ。アンタ、老後の資産運用失敗したんだって?」
「ああ。やっちまったさぁ」
「やっちまったって、どのくらい?」
「株の含み損で追証かかって。頼みの綱の退職金までつぎ込んで」
「全部?」
「スッテンテンさ。だから死ぬまで働くしかねえって事だよ」
「けどさあ。だからって……」
「だって。だってよお…シクシク」
「?」
「他に――目指すトコなんか――もうどこにもねえじゃねえかよ」
「……」
……忘年会や新年会。隣でこういう会話をしているのを聞いたら、
そ知らぬフリをしていた方がいいぞ。
悲しみジョニー
「今は部長じゃねえ。退職したし。来年から”ハゲかわのM”とでも呼んでくれ」
「……? では顧問のMさんから今年一年を振り返って」
「いやあ、酷いもんだね。俺も管理職から一転。現場の労働者だ」
「でも、怪我の巧妙というか。すっかりメタボが解消したじゃねえか」
「それはいいけど。着られる服がねえんだよ」
「若いヤツみたいにダボっとした格好すればいいじゃねえか」
「ダメだ。俺、ああいう服、悲惨なまでに似合わない」
「確かに。”貧相な死神”か”他人の服拾って着てるホームレス”に見えるよな」
「減ったのは体重だけじゃねえよ。頭もだ」
「いっそ、坊主頭にしてみるとか」
「ホンモノの職人さんだったらいいけどな。社会的に無理がある」
「うーん。一昔前に流行った”チョイ悪男”風にしてみたらどうだ?」
「お前等、俺がラティーノか何かと勘違いしているんじゃねえか?」
「……」
「やっぱり、俺らは”憧れる対象”を間違えていたと思うんだ」
「うん。今になるとそう感じるよな」
「古典的な日本のオヤジ像も完全に崩壊したし……」
「いや。今こそ日本のオヤジ文化復権の時だ」
「で、何? それが”ハゲかわ”なの?」
「そうだ」
「無理あるなあ」
「お前等、哀愁漂う日本のオジサンの魅力がわかねえのか?」
「いや、あんまり、わかりたくないけど」
「家でも会社でも相手にされねえ男の悲哀がわからねえのか?」
「そう言えばさあ。アンタ、老後の資産運用失敗したんだって?」
「ああ。やっちまったさぁ」
「やっちまったって、どのくらい?」
「株の含み損で追証かかって。頼みの綱の退職金までつぎ込んで」
「全部?」
「スッテンテンさ。だから死ぬまで働くしかねえって事だよ」
「けどさあ。だからって……」
「だって。だってよお…シクシク」
「?」
「他に――目指すトコなんか――もうどこにもねえじゃねえかよ」
「……」
……忘年会や新年会。隣でこういう会話をしているのを聞いたら、
そ知らぬフリをしていた方がいいぞ。
悲しみジョニー