さて、アメリカン・ジョークに比較して、日本のジョークは「駄洒落で落とす」のが基本である。(と思う)
しかも...。
「前フリ」が延々と長い。
以下、落語「紀州」を例に検証してみよう。
要するに、次期将軍職を狙っていた「尾州公」が、
つまらぬ策を弄したばかりに、「紀州公」に将軍職を奪われてしまう噺だ。
------八代目将軍職は誰の手に?------
徳川七代目将軍「徳川家継」が他界、跡目相続の話が持ち上がった。
候補として挙がったのは「水戸家、紀州家、尾州家」の御三家である。
が、水戸公は歳をとって引退していたので辞退。結局、
八代将軍は「紀州か?尾州か?」いずれかに絞られた。
内心、将軍になりたくてウズウズしていた「尾州公」は、登城の途中、
今井町の前で鍛冶屋の槌の音を聴く。
すると...。
いつもは「トンテンカン」と聴こえる槌の音が、
「テンカトール、テンカトール」
と聴こえてきた。
そこに「運命」を感じた尾州公は、いよいよ「自分が将軍になる番だ」
と胸躍らせた。
------尾州公の野望------
案の定、その日、小田原の城主、大久保加賀守が、まずは尾州公の前に進み出て言う。
「この度、七代将軍ご他界し、お跡目これなく、しも万民の為、任官あってしかるべし。」
(訳:七代目が亡くなり、これといった跡継ぎはいない。国民の為に将軍になってくださらぬか?)
が、よせばいいのに...尾州公は謙遜してこれを辞退、いや「辞退するフリ」をした。
「余はその徳薄くしてその任にあたわず」
(訳:いや。私、そんな器では無いですよ。)
これが「運命」ならば、ここでもう一度、推してくる筈。さすれば引き受けてくれよう...。
それが尾州公の狙いだった。
ところが...意に反して、大久保加賀守は向きを変えて、もう一人の将軍候補、「紀州公」の前に歩み寄る。
「この度、七代将軍ご他界し、お跡目これなく、しも万民の為、任官あってしかるべし。」
この「紀州公」がなかなかの曲者だった。答えて曰く。
「余はその徳薄くしてその任にあたわず...なれども、しも万民武育の為、任官いたすべし」
(訳:私もそんな器じゃないですが、まあ、国民の為なら、将軍職に就きます。)
こうして八代目将軍は、「尾州公」を飛び越えて「紀州公」に決定してしまった。
------オチ------
帰り道、望み叶わず、呆然として、再び今井町の前を通る尾州公の耳に、また例の鍛冶屋の音が響く。
「テンカトール、テンカトール」
(何故だ?なぜ、まだ、そう聴こえるんだ?)
尾州公は不思議でならなかった。
(まだ、俺には望みがあるんだろうか?紀州公が『やっぱり八代目は尾州殿に』と頼みに来るとか???)
さて、鍛冶屋はそんな尾州公の気持ちを知る由も無い。
「テンカトール、テンカトール...」
と、叩き続け、テンテンテンと打ち上た。
最後に鍛治屋が「真っ赤に焼けた鉄」を水の中に入れると...。
「キシュ~。」(紀州)
この「尾州公」に代わって、まんまと
天下を取った「紀州公」とは八代将軍、徳川吉宗...つまり
後の世で言う「暴れん坊将軍」である。
案外、「策士」かもしれない。