ほぼ日刊、土と炎、猫と煙突

白く燃え尽きた灰の奥深く、ダイアモンドは横たわる。

ある地方都市の伝説(完)

2005年04月28日 00時46分55秒 | 古い日記
<昨日からの続き>

昔から、「妊婦は火事場に近づくな」などと申しまして。

私はそれを単純に「危険だから」という理由だと思っていましたが、
それだけでは無いようです。

私の叔母も、大正の震災の際、秀坊を早産いたしました。

「火事場」も、その殺伐、騒然とした雰囲気が「お腹の子に影響を与える」
というのが、その言葉の戒めでありましょう。

さて、話を戻します。

目の前で、要一に首を吊られたお夏さんは、心底、気が動転してしまいました。
そしてあろう事か、産気づいて、その場で男の子を産み落とし、
そのまま一目散に逃げ帰ってしまったのです。

その後、入れ替わるように「一本松」を村の男達が通りかかり、
変わり果てた要一と赤ん坊を発見した...。

これが事件の顛末でございます。

赤ん坊の方はその後、善徳寺から、お夏に連れられて帰って行きました。
今は親戚筋にあたる越後の、とある家に養子として引き取られた、
との事でございます。

しかし、要一はもう帰ってはきません。
こうして、また春が来ると私はいつも思い出してしまうのです。
この悲しい事件の事と、もう帰ってこない要一の「ニヤニヤした笑い顔」を。

後書き:

この話の元になったのは、昭和初期の地方新聞の「投稿記事」からだ。
脚色はしてあるが、ほぼ「本当にあった話」らしい。

まあ、こういう事を説明するのも野暮な話だが。

この女性(この話を語った人)
せつせつと「悲しみ」を伝えているが、「本当に悲しいのか?おい?」
と思わせるような「独特の味」を醸し出している。

彼女の不幸とは、妙な事件のお陰で、
「せっかくの一本松の春の景色を台無しにされた」事であり、
「その後味の悪さをお前らも味わえ」と言っているようにも聞こえる。

良くいるだろ?
「歯を磨いた後、夏みかん食うとすげー後味わるいぜ。」
とか言う奴。

で、結局、自分も歯を磨いた後で、それを試してみたくなったりする。

こういう人間の心理って何なのか?俺はちょっと不思議だよ。

<完>

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