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論文)概日時計因子による塩ストレス制御

2018-01-23 09:30:57 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis EARLY FLOWERING3 increases salt tolerance by suppressing salt stress response pathways
Sakuraba et al. The Plant Journal (2017) 92:1106-1120.

doi: 10.1111/tpj.13747

シロイヌナズナEARLY FLOWERING3(ELF3)は花成の抑制に関与する概日時計因子として見出されたが、最近になってELF3が葉の老化抑制に関与していることが判った。このことから、韓国 ソウル大学校のPaek らは、ELF3は非生物ストレス応答に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。その結果、塩ストレスに対してELF3 過剰発現個体(ELF3-OX )は強い耐性を示し、elf3 変異体は塩ストレスによって壊死した。また、水耕栽培で塩ストレスを与えたところ、elf3 変異体は主根の成長が阻害されたが、ELF3-OX の主根はさほど影響を受けなかった。塩ストレスに対する感受性の変化は、ELF3と相互作用をするELF4、LUX ARRHYTHMO(LUX)といった概日時計因子やフィトクロムBの変異体では見られなかった。これらの結果から、ELF3は、概日時計因子とは独立して、葉や根の塩ストレス耐性を高めていると考えられる。ELF3は塩/乾燥ストレス耐性を高めるDREB2ARD29BCOR15A の発現を増加させ、ストレス耐性を低下させるORE1/ANAC092ANAC016NAP/ANAC029 の発現を減少させることがわかった。また、クロロフィル異化酵素遺伝子群(CCEs )、老化時に発現量が増加する遺伝子群(SAGs )、老化時に発現量が減少する遺伝子群(SDGs )の発現量を調査したところ、ELF3-OX ではCCEsSAGs の発現量が減少し、SDGs の発現量が増加していた。これらの結果から、ELF3はストレス関連の転写調節ネットワークを広く調節することでストレス耐性を高めていると考えられる。シロイヌナズナGIGANTEA(GI)は日長花成誘導因子であるが、塩ストレス応答にも関与していることが知られており、gi 変異体は塩耐性を示し、GI-OX は塩ストレス感受性が高い。また、塩ストレス処理によってGIタンパク質量は急速に減少する。GIとELF3との関係を見たところ、ELF3-OX では塩ストレス処理によるGIタンパク質の減少が野生型よりも早く、elf3 変異体はGIタンパク質量が野生型よりも多くなっていた。しかしながら、塩ストレス処理によるGI mRNA量の減少については野生型との差は見られなかった。よって、ELF3は塩ストレス条件下でGIタンパク質の分解を促進していると考えられる。GIは、塩ストレス耐性の調節因子であるSOS2と相互作用をし、SOS2の塩ストレス耐性活性を低下させる。酵母two-hybridアッセイではELF3とSOS2との相互作用は観察されなかったが、in vivo プルダウンアッセイでは相互作用が観察され、この相互作用はgi 変異体では見られなかった。よって、ELF3は、おそらくGIを介して、間接的にSOS2による塩ストレス耐性に関与していると考えられる。ELF3はPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR4PIF4 )やPIF5 の転写の制御をしているとされている。PIF4、PIF5と塩ストレスとの関係を調査したところ、pif4 変異体の葉は塩ストレスに耐性を示し、PIF4 を薬剤誘導で発現させた芽生えは塩ストレスに対する感受性が高いことがわかった。また、塩ストレス処理によりELF3-OX ではPIF4 の発現が減少し、elf3 変異体では増加した。したがって、ELF3によるPIF4 mRNA量の制御は、塩ストレス応答において重要であると考えられる。各種アッセイから、ELF3はPIF4 遺伝子プロモーターに直接相互作用をしてPIF4 の転写を抑制していることが確認された。PIF4は、ANAC 遺伝子で非生物ストレス応答において重要な役割を担っているJUNGBRUNNEN1JUB1 )/ANAC042 の転写を直接制御していることが知られている。塩ストレス処理後のJUB1 の発現は、pif4 変異体、ELF3-OX で増加し、PIF4-OXelf3 変異体では減少していた。よって、塩ストレス下でのJUB1 の発現はPIF4とELF3によって調節されていると考えられる。PIF4は、葉の老化の際に、老化促進に関与するNAC転写因子をコードするORE1/ANAC092 の転写を直接活性化している。ORE1は老化関連遺伝子SAG29 の発現を直接活性化しており、SAG29 は塩ストレス誘導因子としても作用している。ore1 変異体とsag29 変異体は、塩ストレス耐性が高くなっていた。また、塩ストレス処理によるORE1SAG29 の発現量の増加は、pif4 変異体、ELF3-OX で減少し、PIF4-OXelf3 変異体で増加していた。ORE1 遺伝子とSAG29 遺伝子のプロモーター領域にはPIF4が結合するG-boxモチーフが含まれており、PIF4がこのモチーフに結合してORE1SAG29 各プロモーターの転写活性を高めることが確認された。以上の結果から、概日時計因子ELF3は、PIF4 の転写調節とGIの転写後調節をすることで、塩ストレス応答を制御していると考えられる。

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