Stress-induced early flowering is mediated by miR169 in Arabidopsis thaliana
Xu et al. J. Exp. Bot. (2014) 65:89-101.
doi: 10.1093/jxb/ert353
マイクロRNA(miRNA)のmiR169ファミリーはシロイヌナズナに14遺伝子存在しており、乾燥、低温、高塩濃度、窒素欠乏、UB-B照射といった非生物ストレスによって発現量が増加する。miR169のターゲットは、NF-Y転写因子のサブユニットの1つであるAtNF-YA 遺伝子ファミリーであることが知られている。NF-YはNF-YA、NF-YB、NF-YCからなるヘテロ三量体のCCAAT-結合転写因子で、様々な遺伝子の転写を制御している。シロイヌナズナにはNF-YAサブユニットをコードする遺伝子が10遺伝子存在している。中国農業科学院のWang らは、miR169d の前駆体転写産物を35Sプロモーター制御下で過剰発現する形質転換シロイヌナズナを作出し、miR169のストレス応答における機能の解析を行なった。miR169d 発現個体と野生型植物の花成時期を比較したところ、長日条件下で野生型植物は平均11枚のロゼット葉をつけたところで花成したのに対して、miR169d 発現個体は平均7枚のロゼット葉で花成した。短日条件下では、野生型植物の花成は長日条件よりも遅れ、開花までに平均22枚のロゼット葉をつけたが、miR169d 発現個体は長日条件と同じ平均7枚のロゼット葉で花成した。したがって、miR169d の過剰発現は花成を促進し、この促進効果は日長に影響されない。miR169d 過剰発現個体では、miR169dのターゲットとなりうるAtNF-YA 遺伝子の転写産物量が減少しており、特にAtNF-YA2 、AtNF-YA8 、AtNF-YA10 の転写産物が大きく減少していた。そこで、AtNF-YA2 もしくはmiR169dのターゲット配列を改変して分解を受けなくなったAtNF-YA2m を35Sプロモーター制御下で過剰発現する形質転換シロイヌナズナを作出して花成を観察した。長日条件下でAtNF-YA2 発現個体は平均12枚のロゼット葉をつけて花成し、野生型よりも花成がわずかに遅れたが、AtNF-YA2m 発現個体は平均14枚のロゼット葉をつけて花成し、野生型植物やAtNF-YA2 発現個体よりも花成が遅れた。短日条件下では、AtNF-YA2 発現個体は平均27枚、AtNF-YA2m 発現個体は平均33枚のロゼット葉で花成し、野生型よりも花成が遅れた。AtNF-YA2 発現個体でmiR169d を過剰発現させると、花成時期はmiR169d 発現個体と同程度になった。したがって、AtN-YA2 の発現量増加は花成遅延を起こし、miR169dを介したAtNF-YA ファミリー遺伝子の制御は花成時期の制御に関与していることが示唆される。miR169d 発現個体ではAtNF-YA2 の転写産物量が減少しており、miR169dは直接AtNF-YA2 をサイレンシングさせていると考えられる。miR169d 発現個体では、花成を抑制するFLOWERING LOCUS C (FLC )の転写産物量が減少しており、FLCによって発現が抑制されるFLOWERING LOCUS T (FT )やLEAFY (LFY )の転写産物量が増加していた。一方、AtNF-YA2 発現個体やAtNF-YA2m 発現個体ではFLC の発現量が増加しており、AtNF-YA2m 発現個体ではFT やLFY の発現量の減少も観察された。以上の結果から、miR169dはAtNF-YA2 をターゲットとして花成を制御し、この制御によってFLC の発現が抑制されて花成を促進するFT やLFY の発現が起こるものと考えられる。NF-YAタンパク質はCCAAT boxに結合し、FLC 遺伝子のプロモーター領域や第1イントロンには複数のCCAATモチーフが存在する。クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイやゲルシフトアッセイの結果、NF-YA2タンパク質はFCL 遺伝子のCCAATモチーフに結合することが確認された。よって、NF-YA2はFLC のプロモーターや第1イントロンと物理的相互作用をすることでFLC の発現を制御していると考えられる。NF-YA2タンパク質はFLC のパラログであるMADS AFFECTING FLOWERING 1 (MAF1 )-MAF5 遺伝子とは相互作用を示さなかった。環境ストレスとして低温処理をしたmiR169d 発現個体では花成時期に変化が見られなかった。これは、低温処理によってFLC の発現量が十分に低下していたためであると考えられる。野生型植物とAtNF-YA2 発現個体は日長条件に関係なく低温処理によって花成が促進されたが、AtNF-YA2m 発現個体は短日条件での低温処理で花成促進が起こらなかった。これは、AtNF-YA2m 転写産物がmiR169のターゲットとならないために低温処理に関係なく十分量蓄積していたことによると考えられる。花成に対して促進的に作用するCONSTANS (CO )、抑制的に作用するSHORT VEGETATIVE PHASE (SVP )やマイクロRNA miR156 は、野生型と形質転換体で発現量に差が見られないことから、miR169を介した花成促進にこれらの因子は関与していないと考えられる。AtNF-YA2 発現個体やAtNF-YA2m 発現個体は、野生型植物と同様に、ジベレリン処理によって花成が促進された。よって、miR169はジベレリンを介した花成促進経路には関与していないと考えられる。以上の結果から、miR169/AtNF-YAは、花成抑制因子FLC の発現を制御することで、ストレスに応答した花成促進を引き起こしており、この経路は他の花成制御経路とは独立して機能していると考えられる。
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