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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)フィールド試験で判ったMAX2の新たな機能

2024-03-26 16:10:27 | 読んだ論文備忘録

Field-work reveals a novel function for MAX2 in a native tobacco's high-light adaptions
Li et al.  Plant Cell Environ(2024)47:230–245.

doi:10.1111/pce.14728

ストリゴラトン(SL)とカリキン(KAR)のシグナル伝達は、非生物的および生物的ストレスに対する応答を媒介し、植物の形態や成長を制御していることが報告されている。しかし、それらの研究の大半は、温室や実験室環境で行われたものであり、自然環境においてSLシグナルやKARシグナルが果たす役割は明らかとなっていない。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Baldwinらは、SLとKARの生態学的機能を理解するために、SL受容体のDWARF 14(D14)、KAR受容体のKARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)、SLとKARのコレセプターであるMORE AXILLARY GROWTH2(MAX2)がRNAiによってサイレンシングされた野生タバコ(Nicotiana attenuata)のトランスジェニック系統(irD14、irKAI2、irMAX2)をアメリカ ユタ州 グレートベースン砂漠の圃場で4シーズン(2018~2021)栽培し、表現型を観察した。その結果、irMAX2は、対照と比較して、より小さく、より繁茂し、一次枝の数が多くなることが判った。しかも、irMAX2の葉は、クロロフィルa/b含量が有意に減少し、重度の白化を示した。しかし、irD14、irKAI2およびirD14とirKAI2の交配系統(irD14 × irKAI2)では、このような白化は見られなかった。D14およびKAI2はそれぞれSLおよびKARのレセプターであることから、MAX2はSLおよびKARシグナルとは独立して白化表現型を制御していることが示唆される。さらに、irMAX2の葉は葉食動物によってより激しく食害され、irMAX2の葉での傷害誘導ジャスモン酸(JA、JA-Ile)放出は対照葉よりも有意に低かった。一方、irD14、irKAI2、irD14 × irKAI2の草食動物抵抗性は対照と同等であった。これらの結果から、圃場育成野生タバコにおいてMAX2 をサイレンシングすると、SLシグナルやKARシグナルとは無関係に、葉の白化、植物体成長の低下、草食動物抵抗性の低下が生じることが推察される。白化したirMAX2の葉は、デンプンと可溶性糖類の含量が著しく低下し、アミノ酸含量が増加していた。各系統の葉を用いてマイクロアレイ解析を行ない、irMAX2で発現量が変化する遺伝子のGO用語の強度を計算したところ、発現上昇した遺伝子は、熱、光強度、酸化ストレスに対する応答に関連する過程のものに富み、発現低下した遺伝子は、栄養飢餓応答に関連するもの富んでいることが判った。これらの結果から、irMAX2の葉の白化表現型の原因として、熱と栄養飢餓が考えられる。そこで、irMAX2の葉の元素成分分析を行なったが、対照との差異は認められず、養分欠損がirMAX2の葉の白化の原因ではないと思われる。また、実験室環境での高温(35℃)育成で、irMAX2の葉は白化せず、クロロフィル含量も対照と同等であったことから、圃場育成irMAX2の葉の白化は、熱のみによるものではないことが示唆される。トランスクリプトームデータにおいて、irMAX2の葉では酸化ストレスと高光強度に応答する遺伝子が発現上昇しており、砂漠の光環境の特徴である高いUV-Bまたは光合成有効放射(PAR)量が、葉の白化の原因である可能性がある。そこで、植物体に照射するUV-BまたはPAR量を制御して解析した結果、UV-Bの照射量だけではirMAX2の葉の白化は起こらないこと、PAR量を温室と同程度に下げると白化した葉の緑色が戻ること、温室で育成しているirMAX2に補光して高いPAR量を照射すると葉が白化することが判った。これらのことから、高PAR光への暴露によってirMAX2の葉の白化が起こったものと思われる。白化したirMAX2の葉の光合成能力を示す指標はいずれも低かったが、温室で育成したirMAX2の光合成能力は対照と同等であった。これらの結果から、irMAX2の白化表現型と光合成能力の低下は、高PAR光が原因であると思われる。強光ストレスは一連の酸化反応を引き起こし、ルテイン、ゼアキサンチン、β-カロテンなどの抗酸化物質が光による酸化ダメージから植物細胞を守ることが知られている。圃場で育成したirMAX2の葉はルテイン含量が低く、このことがirMAX2の葉の強光ストレスに対する感受性に寄与していることが示唆される。圃場栽培したirMAX2の葉は、強光応答遺伝子(ELIP1ELIP2)、一重項酸素応答遺伝子(WRKY33WRKY40-1WRKY40-2)、H2O2触媒・応答遺伝子(SODAPX2ZAT10)の転写産物量が上昇しており、日陰処理をすることでこれらの遺伝子の転写産物量は対照と同等にまで減少した。しかし、細胞死に関連した兆候は見られなかった。以上の結果から、MAX2 をサイレンシングさせた野生タバコは、温室で育成した際にはバイオマスが増加するが、強光の圃場条件下で育成すると、温室とは真逆の表現型を示し、クロロフィル含有量と光合成能力を減少させ、ルテイン含量を減少させ、活性酸素応答を増加させることによって活力を低下させると考えられる。

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