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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)湿度の日変動による概日時計の制御

2018-12-07 05:03:58 | 読んだ論文備忘録

Daily humidity oscillation regulates the circadian clock to influence plant physiology
Mwimba et al. Nature Communications (2018) 9:4290.

DOI: 10.1038/s41467-018-06692-2

18~19世紀の植物学研究では湿度による概日時計の調節について言及されていたが、今日ではそのような制御について詳細な研究は行われていない。米国 デューク大学 ハワード・ヒューズ医学研究所Dong らは、シロイヌナズナを、22℃の温度条件で、相対湿度(RH)50 %もしくは90 %の一定条件、12時間 50 %/12時間 90 %の自然環境を模倣した条件で育成し、植物に対する効果を観察した。その結果、RHを変動させた条件下で育成した植物は、一定湿度条件下で育成した植物よりも葉が拡張してバイオマスが増加することが判った。この現象が概日時計の制御によるものなのかを見るために、時計ループ三重変異体cca1 lhy toc1 を用いて同様の解析を行なった。その結果、湿度の日変動がもたらすバイオマスの増加や花成促進はコア時計遺伝子に依存していることが判った。これらの結果から、湿度の日変動は植物の概日時計の制御因子の1つとなっていることが示唆される。発芽時から3週間RHを日変動させた条件下で育成した植物は、時計遺伝子のCCA1LHYTOC1 の発現が湿度の日変動と同調して周期変動していた。さらに、時計遺伝子によって制御されているアウトプット遺伝子の発現も周期変動していた。朝に発現する時計遺伝子(CCA1LHY )、アウトプット遺伝子(CAT2 )は低湿度から高湿度へ移行する際に発現が最大となり、夕方に発現する遺伝子(TOC1CAT3CCR2 )は逆のパターンを示した。また、50 % RH条件下で異なる位相の12時間日長(LDもしくはDL)で育成した2つの植物集団を連続光下の同一の12時間RH変動周期で育成したところ、概日時計遺伝子の発現の日変動周期が同じになった。50 % RH、連続暗期で育成した植物に高湿度(90 % RH)のパルスを与えたところ、CCA1 の発現増加が観察された。よって、高湿度はCCA1 の発現誘導を介して時計の周期調整を行なっていることが示唆される。湿度制御をしているインキュベーターは湿度変化によって庫内温度が1.5℃程度変化する。そこで、温度変化に応答しないprr7 prr9 二重変異体を用いて解析を行なったところ、野生型植物は湿度の日変動と湿度一定で1.5℃の温度の日変動の両方に応答してLHY の発現を周期変動させたが、prr7 prr9 二重変異体は湿度変動のみに応答した。自然の状態では温度と湿度の両方が日変動している。そこで、自然状態を模倣して、12時間LDサイクルと光条件から2時間遅らせた12時間50/90 % RHサイクルを植物に施したところ、一定湿度(50 % RH)のLDサイクル条件で育成した場合よりも時計遺伝子の発現量が増加していた。植物が湿度を検知する機構は不明であるが、湿度はCCA1 のような朝に発現する時計遺伝子の光に応答した変動を増幅させるものと思われる。この自然条件を模倣した光と湿度の日変動は、植物のバイオマスを増加させ、花成を早め、種子重量を増加させた。よって、模倣自然条件はコア時計遺伝子に関連した植物生理に影響をおよぼしていることが示唆される。高湿度は病原細菌を活性化させるため、植物が罹病しやすくなる。湿度の日変動は、植物のエフェクター誘発型免疫(ETI)を強め、夕方に細菌を感染させた際のETIによるプログラム細胞死(PCD)が一定湿度(70 もしくは90 % RH)条件で育成した場合よりも強くなった。この湿度の日変動による夜間のETIの強化は、予め湿度変動条件で育成した植物を一定湿度(50 % RH)に移しても見られた。よって、湿度の日変動によるETIの制御は時計による制御を受けていると考えられる。以上の結果から、湿度の日変動は植物の概日時計を制御し、時計遺伝子が関与している植物の生理に対して影響していることが示唆される。

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