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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)MYC5によるジャスモン酸シグナルの制御

2017-12-13 22:15:09 | 読んだ論文備忘録

MYC5 is Involved in Jasmonate-Regulated Plant Growth, Leaf Senescence and Defense Responses
Song et al. Plant Cell Physiol. (2017) 58:1752-1763.

doi:10.1093/pcp/pcx112

シロイヌナズナbHLH型転写因子ⅢeサブグループのMYC2、MYC3、MYC4は、JAZタンパク質と相互作用をし、冗長的に様々なジャスモン酸(JA)応答に関与している。最近の研究において、同じⅢeサブグループのMYC5(bHLH28)がJAZタンパク質のターゲットとなる転写因子であり、雄ずいの発達に関与していることが報告されている。そこで、中国 清華大学Xie らは、MYC5が他のJA応答にも関与しているかを調査した。myc5 変異をmyc2myc3myc4 の各変異と組合せ、JAによる芽生えの根の伸長阻害の程度を野生型(Col-0)と比較した。myc5 変異体の根の伸長は野生型と同等であり、myc2 myc3 myc5 三重変異体はmyc2 myc3 二重変異体よりもJA感受性が低下していた。また、myc2 myc3 myc4 myc5 四重変異体はmyc2 myc3 myc4 三重変異体よりも根の成長におけるJA応答性が低下していた。これらの結果から、MYC5MYC2/3/4 と共に冗長的にJAによる根の伸長阻害に関与していると考えられる。JA処理はアントシアニン生合成酵素遺伝子DIHYDROFLAVONOL REDUCTASEDFR )の発現とアントシアニンの蓄積を誘導するが、myc2 myc3 変異体、myc2 myc3 myc4 変異体ではそれらが低下する。しかし、myc5 変異体ではそのような変化は見られず、myc5 変異はmyc2 myc3 変異体、myc2 myc3 myc4 変異体でのJA誘導アントシアニン蓄積やDFR 発現の低下を助長しなかった。よって、MYC5 はJAが誘導するアントシアニン蓄積制御には関与していないことが示唆される。さらに、myc2 myc4 myc5 変異体およびmyc2 myc3 myc4 myc5 変異体でのJA応答マーカー遺伝子であるTYROSINE AMINOTRANSFERASE1TAT1 )、VEGETATIVE STORAGE PROTEIN2VSP2 )、JAZ10 のJAによる発現誘導は、それぞれの比較対照であるmyc5 変異体、myc2 myc3 変異体、myc2 myc3 myc4 変異体よりも低下していた。よって、MYC5 はJA応答遺伝子の発現に関与していると考えられる。MYC5 を過剰発現させた形質転換体は、JAによる根の伸長阻害が強くなり、TAT1VSP1JAZ10 のJAによる発現誘導が高まったが、JAによるアントシアニン蓄積とDFR の発現誘導は影響を受けなかった。myc2 myc3 myc4 変異体でMYC5 を過剰発現させると、JAによる根の伸長阻害やJA応答遺伝子の発現におけるJA感受性が回復したが、アントシアニンの蓄積とDFR の発現誘導に関しては回復が見られなかった。JAは葉の老化を促進することが知られており、MYC5 の過剰発現はJAによる老化誘導を加速させた。JAを介した食稙性昆虫に対する防御応答について、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )の幼虫による摂食試験を行なって調査した。myc5 変異体の防御応答の程度は野生型と同程度で、myc2 myc3 myc4 変異体は食害を受けやすくなっていたが、myc2 myc3 myc4 myc5 変異体は更に大きく食害を受け、幼虫の体重増加も大きく、食稙性昆虫の摂食によって誘導されるグルコシノレート(GS)生合成遺伝子のCYTOCHROME P450 79F1CYP79F1 )やSUPERROOT1SUR1 )の発現量の減少の程度も大きくなっていた。MYC5 を過剰発現させた形質転換体は、シロイチモジヨトウに対する防御応答が強くなっており、CYP71F1SUR1 の発現量が増加していた。coi1 変異体は幼虫の摂食を非常に受けやすくなっているが、MYC5 を過剰発現させることで僅かに防御性、CYP79F1SUR1 のが回復した。これらの結果から、MYC5COI1 の下流で作用しており、JAが制御しているシロイチモジヨトウによる摂食に対する防御においてMYC2/3/4 と冗長的に機能している。JAは灰色かび病菌に対する抵抗性に関与しており、myc5 変異体と野生型に抵抗性の差異は見られないが、myc2 myc3 myc4 myc5 四重変異体はmyc2 myc3 myc4 三重変異体よりも罹病度が高くなった。よって、MYC5MYC2/3/4 と冗長的に灰色かび病菌に対する抵抗性の制御に作用していることが示唆される。植物病原性細菌Pst DC3000はシロイヌナズナに感染する際にJAシグナル伝達を制御していることが知られており、感染させたPst DC3000の増殖は、MYC5 過剰発現形質転換体では野生型よりも良くなり、myc5 変異体では悪くなった。したがって、MYC5 はJAによるPst DC3000の罹病性に関与していることが示唆される。以上の結果から、MYC5 は、ジャスモン酸が制御している根の伸長阻害、病虫害応答、葉の老化促進においてMYC2/3/4 と冗長的に作用していることが示唆される。しかしながら、MYC5 はジャスモン酸によるアントシアニンの蓄積には関与していないと考えられる。

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