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論文)フィトクロム相互作用因子による避陰反応誘導機構

2017-10-20 05:40:32 | 読んだ論文備忘録

Phytochrome-interacting factors directly suppress MIR156 expression to enhance shade-avoidance syndrome in Arabidopsis
Xie et al. Nature Communications (2017) 8:348.

DOI: 10.1038/s41467-017-00404-y

植物は、近接する植物の陰になると避陰反応(SAS)を起こして光を得るために成長パターンを変化させる。この過程には、フィトクロム相互作用因子(PIF)が関与しており、シロイヌナズナpif 機能喪失変異体の芽生えは植物の陰になることによって誘導される胚軸伸長が抑制される。一方、PIF を過剰発現させた芽生えは、胚軸や葉柄が伸長して、恒常的にSASを示す。中国農業科学院バイオテクノロジー研究所Wang らは、PIFPIF1PIF3PIF4PIF5 )を過剰発現させたシロイヌナズナ成熟個体は、ロゼット葉数とロゼットからの分枝数が減少し、葉柄が長く、葉身が小さくなり、花成が早くなることを見出した。一方、pif1 pif3 pif4 pif5pifq )四重変異体は、PIF 過剰発現系統(PIF-OE )とは逆の表現型を示した。したがって、PIFは成熟個体においてSASを正に制御していることが示唆される。夜の前に15分間遠赤色光(FR)を照射する(EOD-FR)処理は、近接植物の陰となることと同じ表現型の変化を引き起こす。野生型植物と比較して、PIF-OE 成熟個体はEOD-FR処理に対する感受性が低く、pifq 変異体は感受性が高くなっていた。シロイヌナズナMIR156B を過剰発現させた系統(MIR156-OE )は、ロゼット葉数が増加し、ロゼットからの分枝が増加し、葉が大きくなり、草丈が低くなる。また、MIR156 の発現量が低下したMIM156 形質転換体は逆の表現型を示す。したがって、MIR156-OE の表現型はSASが低下した個体と類似している。MIR156-OE をEOD-FR処理すると、野生型と同じように、ロゼット葉数と分枝数が減少し、葉が小さくなった。また、MIR156-OE は、EOD-FR処理による草丈や葉柄の伸長の割合が野生型よりも高くなった。これらの結果から、MIR156 の過剰発現は通常の高R:FR光条件でのSASを低下させ、陰に対する感受性を高めていることが示唆される。EOD-FR処理はPIFタンパク質の蓄積量を増加させ、SASのマーカー遺伝子(PIL1HFR1ATHB2CKX5XTR7IAA19 )の発現量を増加させた。一方、成熟MIR156 RNA量はEOD-FR処理をすることで減少し、miR156のターゲットであるSQUAMOSA-PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKESPL )ファミリー遺伝子の発現量が増加した。シロイヌナズナの8つのMIR156 遺伝子(MIR156A-H )のプロモーター領域には1つ以上のPIFタンパク質結合部位(G-box、PBE-box)が存在し、酵母one-hybridアッセイの結果、調査したPIF(PIF1、PIF3、PIF4、PIF5)はMIR156BMIR156DMIR156EMIR156FMIR156H のプロモーター領域のG-boxモチーフに結合することが確認され、特にPIF3、PIF5はMIR156EMIR156F と強く結合した。こうした結合はゲルシフトアッセイ(EMSA)やクロマチン免疫沈降(ChIP)-PCRアッセイによっても確認された。p35S:PIF エフェクターとpMIR156:LUC レポーターをベンサミアナタバコで共発現させた試験から、PIFタンパク質はMIR156 遺伝子の発現を抑制することが確認された。また、PIF-OE の成熟MIR156 量は野生型よりも少なく、pifq 変異体では多くなっていた。さらに、miR156のターゲット遺伝子であるSPL 遺伝子の発現量はPIF-OE において増加していた。これらの結果から、PIFタンパク質は幾つかのMIR156 遺伝子の発現を直接抑制していると考えられる。交雑によってPIF5-OE/MIR156-OEpifq/MIR156-OEPIF5-OE/MIM156pifq/MIM156 を作出して各系統のSASを調査した結果、SASの制御においてMIR156 はPIFの下流で作用していることが示された。以上の結果から、シロイヌナズナでは以下のモデルが考えられる。1)植物の陰となることで増加したFR光に応答してフィトクロム(特にphyB)が不活性化して幾つかのPIFタンパク質(PIF1、PIF3、PIF4、PIF5)が安定化して蓄積し、2)蓄積したPIFタンパク質が幾つかのMIR156 遺伝子(MIR156BMIR156DMIR156EMIR156F 、MIR156H )のプロモーター領域のG-boxに結合して発現を直接抑制し、3)miR156のターケットの転写因子遺伝子SPL の発現量が増加して下流のさまざまな遺伝子の発現量が変化することで植物の多くの器官の成長プログラムが変化し、陰に応答した形態の変化を示す。

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