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論文)アブシジン酸コレセプターABI1の26Sプロテアソーム系による分解

2015-12-09 22:00:44 | 読んだ論文備忘録

Degradation of the ABA co-receptor ABI1 by PUB12/13 U-box E3 ligases
Kong et al.  NATURE COMMUNICATIONS (2015) 6:8630.

DOI: 10.1038/ncomms9630

アブシジン酸(ABA)のシグナル伝達において、ABAコレセプターのクレイドAタンパク質フォスファターゼ2C(PP2C)は負の制御因子として機能している。細胞質に局在するPYR/PYL/RCAR ABA受容体がABAと結合すると、PP2Cと相互作用をし、PP2Cによって阻害されていたSnRKファミリー等のタンパク質キナーゼが活性化することが知られている。しかしながら、ABA受容体との結合以外にPP2Cを制御する機構は明らかとなっていない。中国農業大学Gong らは、シロイヌナズナPP2CのABA-INSENSITIVE 1(ABI1)の代謝回転による制御について解析を行った。芽生えを26Sプロテアソーム阻害剤であるMG132で処理すると対照よりもABI1量が増加することから、ABI1は26Sプロテアソームにより分解されることが示唆される。ABI1をターゲットとするE3ユビキチンリガーゼを酵母two hybrid アッセイによって探索し、調査した29のタンパク質のうち5つ(PUB12、PUB13、PUB44、PUB60、SDIR1)がABI1と相互作用をすることが確認された。このうち、植物U-box E3リガーゼのPUB12、PUB13について詳細な解析を行なった。ABI1とPUB12/13は生体内においても相互作用することが確認され、ABI1はArmadillo repeat ドメインを介してPUB12/13と相互作用をしていた。in vitro ユビキチン化アッセイの結果、PUB12/13はPYR1とABA存在下でABI1をユビキチン化することが確認された。PYL ABA受容体は、ABAと結合した後にPP2Cと相互作用をして活性阻害するグループ(PYR1、PYL1-3)とABAと結合しなくてもPP2Cと結合して活性阻害するグループ(PYL4-10)に分かれるが、後者のPYLはABA非存在下でもABI1をユビキチン化した。ただし、ABA存在下の方がユビキチン化の程度は僅かに高くなっていた。pub12 pub13 二重変異体は、野生型よりもABI1の蓄積量が高く、分解速度が遅くなっていた。よって、PUB12/13はABI1の分解に関与していることが示唆される。また、生体内においてABI1がユビキチン化されることが確認された。シロイヌナズナ芽生えをABA処理するとABI1タンパク質量が減少すること、ABA含量が10%以下に減少したaba2-21 変異体から抽出したタンパク質液は野生型由来のものよりもABI1タンパク質の分解程度が低いことから、ABI1の分解はABAによって促進されることが示唆される。pyr1 pyl1 pyl2 pyl4 四重変異体のABI1タンパク質量は野生型よりも少ないが、ABI1の分解は野生型よりも遅くなっていた。また、ABA処理によって誘導されるABI1タンパク質の蓄積は四重変異体では少なくなっていた。したがって、ABI1の分解にはABA受容体が必要であると考えられる。pub12 pub13 二重変異体では、クレイドA PP2Cによって活性が阻害されるOST1/SnRK2.6のタンパク質キナーゼ活性は野生型よりも低いが、アミノ酸置換によりABA受容体との相互作用をしないabi1-1 変異体よりも高くなっていた。この結果から、pub12 pub13 二重変異体でのOST1キナーゼ活性の低下は、ABI1が蓄積してPP2C活性が増加したことによることが示唆される。pub12 変異体やpub13 変異体はABAによる子葉の緑化阻害に対して耐性があり、pub12 pub13 二重変異体はABA非感受性がさらに高くなっていた。芽生えのABA処理1時間後に野生型で発現が誘導されている3580遺伝子のうち、2237遺伝子はpub12 pub13 二重変異体で発現量が低く、2024遺伝子はabi1-1 変異体で発現量が低くなっていた。また、1327遺伝子は両方の変異体で発現量が低くなっていた。同様に、ABA処理3時間後に野生型で発現が誘導される4225遺伝子のうち、pub12 pub13 二重変異体で2724遺伝子、abi1-1 変異体で2679遺伝子の発現量が低く、1972遺伝子は両方の変異体で発現量が低くなっていた。ABA処理は孔辺細胞での過酸化水素の生産を促進するが、pub12 pub13 二重変異体ではABI1が蓄積してABAシグナルを抑制するために過酸化水素の生産が減少していた。pub12 変異体、pub13 変異体、pub12 pub13 二重変異体は、水の蒸散量が多く、乾燥ストレスに対する感受性が高く、ABAに応答した気孔の開閉が抑制されていた。したがって、PUB12とPUB13はABAを介した気孔の開閉に関与していることが示唆される。pub12 pub13 二重変異体にabi1-3 機能喪失変異を導入すると、pub12 pub13 二重変異体のABA非感受性の表現型が回復して、野生型やabi1-3 変異体と同等の表現型を示した。このことから、PUB12/13はABA応答においてABI1の上流で作用していることが示唆される。以上の結果から、シロイヌナズナのABAシグナル伝達における主要なPP2CのABI1は、ABA存在下でのABA受容体との相互作用による活性阻害とPUB12/13 E3ユビキチンりガーゼによるユビキチン化/26Sプロテアソーム系による分解の両方によってABAシグナルの活性化を引き起こしていることが示唆される。

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