「次の試合が、決まりました!」
一場仁志(ひとし)の声が、はずんでた。
その一場。前の試合の2月11日、ランカーの山元浩嗣(ひろつぐ)戦で、1ラウンドに右フック1発でダウンを奪い、その後の打ち合いと、バッティングにより、一場は激しい流血。
一見すると、かつてのプロレスさながら。血が、だらり、だらり。
それでも、5ラウンド。レフェリーが、互いの好ファイトぶりを先行させ、3度目のドクターチェツクをさせて、ようやく試合続行が、不可能と判断させた。
このあたりの、レフェリーの判断は、戦う2人の気持ちを優先させていて、内心、ニヤリ。
闘う気持ちが、わずかに優っていた一場が、負傷判定で勝ち、一気にランキング入り。山元と、もろに入れ替わるかのように、日本スーパー・フェザー級6位。そして、東洋・太平洋の同級12位にランク・インされた。
この試合については、詳しく記事化したので、ご興味のある方は、読んで戴ければと思う。
一場とは、それ以後、会ってはいなかったが、次こそ実力が試される、試金石の試合になる。そう、思っていた。例えて言えば、初防衛戦の如く。
というのも、一場の担当トレーナーであった、私ですら”先生”と呼ばせていただいて、敬愛していた田中栄民(よしたみ)トレーナーが、所属ジムの社長と、ふとしたことで衝突。
角海老宝石ジムの選手たちを支えた名トレーナーは、即日、去らざるを得なくなってしまった。以来、数か月・・・・・・・。
いわば、一場は、片肺飛行で、空を飛んでいる飛行機みたいなもの。
一場は、田中先生の、個性を読み取った上での、適切なアドバイスもあって、山元に勝てた部分もある。
田中栄民を、精神的支えにしていたボクサーの中には、ジム移籍や、ヤル気を失い、落ち込み、悩み、引退を考えている者もいるほどだ。
とにもかくにも、一場には試合がある。
書かねば。そう、改めて思った。
相手は、佐藤通也(みちや)というそうだ。試合日は、6月28日(金)。会場は、後楽園ホール。
その6日前の、6月22日(土)に、なんと34歳の誕生日を迎えた佐藤通也。
以前は、日本スーパー・フェザー級のランキングに入っていたこともあり、王者・金子大樹とのタイトルマッチに臨んだ過去もある。
ランキングに入ったばかりの、一場にとって、決してあなどれない相手。いや、強敵といえよう。
先に、初めて見る(と、思い込んでいた)佐藤通也の、ジムへと足を運んだ。
ロッカーを見ると、名前の上に、坊主頭の顔写真が、張り付けてあった。まるで、中学生の卒業アルバムのなかに収まった、1枚のよう。純朴、そのもののイメージ。
ジムに連絡を取った時、彼が来る時刻を聞いており、丁度ストレッチや、準備体操を始めた頃を見計らって訪ねた。ところが、なんと、「今日は早めに来ている」と、ジムの人に言われ、唖然。
この石丸ジム。以前も、あるランキング選手が「今日は来てるよ」と言われたので、行って見たら、結局、来ず。まあ、そんな経験をしてるので、またか、と。・・・・・・仕方ないな、と。
で、5人しか見当たらないボクサーのなか、アレ? 坊主頭ちゃんが、い・な・い!
ジムの人に、仕方無く、聞く。
「ああ、彼ですよ」
指差された、奥のほうを見ると、ひたむきにバーベル上げてたり、腹筋をしてたり、長く縄跳びしてた人が、そうみたい。んでも、髪伸ばしてる。 あれ~っ?
ひたむき、無言のまま、一生懸命。
なもんで、汗、びっしょり。終えて、ロッカーを開き、近づいてきたので、挨拶。
全部、終わってからインタビューを、と、申し向ける。「ああ、はい」とだけ、うなずく、その人。無愛想? 言葉足らずの性格?
シャドーも、ミット打ちも、ましてや、スパーリングも見てない。実質的練習、見てないで、書くのかよ~? と、自問自答する。危惧、ピーン!
もっとも、ココのジム。以前のときも、ミット打ちも、スパーリングもやっていなかった。また今日も、選手がジムに1歩、足を踏み入れても、誰も挨拶の声すら交わさない。ましてや、雑談も談笑も、無い。
耳に聞こえるのは、流れるBGMだけ。
名簿上ではなく、本当に通って来ている所属選手数が、極めて少ないため、スパーリングも組みにくく、いわゆる出稽古で、腕を上げていかざるを得ない。
それでいて、ランキング・ボクサーがいる。逸材が、たまたまいたのか? 指導力があるのか? いまだもって分からない。今日、話しを聞く佐藤にしても、大阪帝拳ジムからの、3年のブランクの後の”移籍組”。今回も、ミット打ちすら、観られてないし・・・・・・・・。
さて、待っていて、ひょいと裏をみると、男の尻が見えた。シャワーを浴びてる、みたい。
はあ? さっきの、佐藤通也?・・・・・か。
シャワー終わったら、インタビューを、とかなんとか、言ってよお~。こりゃ、下手すりゃ、かつて書いた上村和宏の二の舞かも?
しかし、彼のブログを通読する限りにおいては、性格明るく、関西弁で打ち込まれてるせいもあり、おもろい。しかも、毎日、更新。
勤めてるところが、築地の市場。
なので、無口で、暗かったら、一場 対 (築地)市場。そう、一場面を、シャレで、書いてもいいか。
それに、プロボクサーのブログの共通点ともいえる点を書いて、佐藤通也像を、浮かび上がらせる手もある。
日々、強いられる減量苦。そのため、君はグルメか? と勘違いしてしまうほど、食い物に渇望するプロボクサーたち。
そんな気持ちの裏返しで、食べ物の写真をひっきりなしに、載せがち。
また、いくらトレーナーや、ジム仲間がいて、頑張れ! と励まされても、最後に頼れるのは、自分自身の内に潜むハート。
試合が近づくと、時には、眠れないことも。そんな、ぐらつき、揺れる心をなごましてくれるのは、子犬。
猫? 猫は、身勝手で、むしろ心を、疲れさす。恩も、知らない。
そのため、子犬を自宅で飼っているプロボクサーは、多い。
わがままで、そのため、男との生活も続かず、独身のまま老いてゆく、仕事が少なくなった老女優が、さびしさと、我が身のなぐさめに、子犬を飼ってる手合いが多いのとは、理由がまったく異なるが。
さてさて、事務室で、インタビュー開始。
いやあ、予断、吹き飛んだ。
いざ始まってみると、大違い。
人は見かけによらぬもの。話しがはずみ、話しを次につなげるのが上手い。長く、接客業と、気の荒い人達と、仕事を重ねてきた経験からか。
ひさびさに、楽しいインタビューとなった。
産まれは、静岡県浜松市。今までの戦績、17戦して、9勝4敗4引き分け。9勝のうち、6つのKOと、レフェリーストップ勝ち。
自分のパターンに持ち込むと、強いタイプ、か。
3年ものブランクがありながら、再び勝ち上がって、ランキング入りし、昨年9月1日、日本スーパー・フェザー級タイトルマッチでチャンピオンの金子大樹に挑戦した。
残念ながら、2ラウンド、KO負けを喫し、ベルトこそ奪えなかったものの、秘めた底力は、想像以上に、すごいものが、あるのではなかろうか?
「自分では、右ストレート。右が良いと思います」と、キッパリ。
「中一の時、あしたのジョーを見て、感動して。ボクシングしたくなって、地元のジムに入ったんですよ」
やがて、彼女が出来たものの悲しいことに、振られちゃう。
悲しみを吹っ切るかのように、大阪へ。
大阪帝拳ジムで、さらに腕を磨いた。西部のフェザー級の新人王戦。決勝まで進んだものの、試合結果は、引き分け。
で、残念なことに、再採点で、敗者扱いとなった。
この先、続けていく気を無くし、引退届けを出す。
居酒屋で働くうちに、心機一転、今度は浜松通り越して、一気に東京へ。人とのつながりが、佐藤の、まさに通り道を、変えてきた。それを、当人、大切にしているようだ。
話しが面白く、人を惹きこむ魅力をもつ。
で、今度は、日本の食材の市場。築地の魚屋で働くことに。
仕事は、朝が早い。早いというより、まだ暗いうちに起き出し、バイクを疾駆させて、築地へ。
午後、仕事を終え、いったん自宅へ戻って、ひと眠りしてから、ジムへ通う。練習終えて、数時間だけ寝たら、また未明に、築地へと走る。休みは、日曜と、祝日。そして、たまの水曜日。
変則生活、きつくないですか? と、問うと苦笑い。
「慣れましたから」
3年間の、ブランクを経て、リングへ復帰。
「ボクシングがなかったら、自分の人生、つまらないなあと、思いますね。何してるか、分かりませんね」
写真でもわかる通り、身振り手振りで、話す。自宅には、犬がいる。それも、2匹も。
「犬たちに、エサをきちんと上げなきゃいけないから、自宅に帰っているようなもんでね。もし、いなかったら、毎日、きちんと帰っているかどうか、自信無いっすよ((笑)」
飾らない。どこか、正直。目下、自称、独身。
犬たちを、散歩にも連れてく。
「あっ、ペット可のところ、不動産屋で選びましたから。そこんとこは、大丈夫です」
トレーナーを「小倉先生」と言って、慕い、尊敬しているようだ。技術うんぬんというより、精神的支柱とみた。
人生、人とのつながりを大事にして、生きてきた印象を、さらに受けた。
ボクサー人生で、かつて右拳を試合中に骨折。
「パキッって音、聞こえましたもん」と、言って笑う。
それも、2度。今はもう、完治して、痛みも、問題も無い。
ブログの、食い物写真。こちらの、視点には、うなずき、笑った。
「食べたい、食べたい。腹いっぱい、喰いたい。どっかにある、確かに! イメージありますね」
過日の誕生日も、祝うどころか、厳しい空腹で迎えた。犬2匹が、エサをおいしそうに、腹一杯食べているのを横目に・・・・・・・。
「一場選手ねえ、分かんないですね、どんなスタイルなのか。フィジカル強いな、体も強いなって、イメージはあります。そこの、フィジカルでは、負けない様にしないと」
同じ34歳の福原力也が、誕生日の前夜、6月21日にひさびさの鮮やかなKOで勝った。福原もまた、2度も、右腕を骨折。佐藤と同じく、手術の後、再起した。
「勝ったんですよねえ。励みになりますよ」
本心から嬉しそうに、声をはずませた。自分も、続くぞ!とばかりに。
かつてランキングに入り、タイトルマッチに臨む頃、毎夜、眠れない夜が、続いたこともあった。そう、ポツリと、もらした。
ボクサーとしての定年まで、あと丸3年。チャンピオンになれば、さらに延びる。
「気持ちの上ではですが、これで負けたら引退。そういう気持ちで、行きますよ!」
胸わくわくするような展開、互いの気持ちと、気迫のぶつかり合い。
そんな試合になりそうだ。
さて、一方の一場仁志には、翌日、会いに行った。
この日は、スパーリング。それを調べあげて、出かけた。相手は、杉崎由夜(ゆうや。写真上の左側)。ガンガン、プレッシャーかけて、前へ出てくる。
それに対して、一場(写真上。右側)も応戦。引かない。見ごたえのある、スパーリングとなった。
開始前、思わず昨日の風景を思い出して、一場に言った。
良いよねえ、選手にとっては。やろうと思えば、毎日でもスパーリング出来るんだもの。体が持つかどうかは、別にして。
聴いて、ニコッとした一場。
「そうですよねえ。それが、大きいココの様なジムの良い所ですよね。助かってます」
で、言葉を継いだ。
「相手して下さる杉崎さんも、同じ日に、後楽園ホールで試合があるんですよ」
そう、さりげなく教えてくれる。その試合も、気にしていて、見て下さい。そういう、何気ない気配りに、聞こえた。
杉崎の試合も、今まで何度か、見たことがある。その闘いぶり以上に、「由夜」という名前に記憶がいつも残る。印象深い名前だなと、思う。
26歳で、すでに26試合も経験し、16勝している。一場と同じ階級ながら、9位。2歳年下の一場が、まだ自分の半分に満たない12戦(7勝・3KO、4敗1引き分け)しか経験してないのに、ランクが上。
否が応でも、闘志は掻き立てられる、はず。
蛇足ながら、のぞくと、うわあ!
54歳の、おばちゃんが、「第20回 松本清張賞」を見事、4月23日に受賞。
受賞作「月下上海」(げっか しゃんはい)が、単行本となって、数日前に発売されたのだという。
おばちゃんの名前は、山口惠以子(えいこ)。テレビで見かけたが、54歳にしては、どことなく色っぽい雰囲気をかもしだしている、独り身。
早稲田大学文学部卒業後、会社が倒産。シナリオ研究所に通ったりしたのち、シナリオや、テレビの2時間ドラマの原案・プロットを書いたりしていた。
食堂に勤めたのは、12年前。そして、10年ほど前から、勤務の終えたあと、好きな酒をぐびりぐびりやりながら、小説を何本か書き始め、今回の受賞の栄冠を得た。
賞金500万円。でも、浮かれることなく、作家・テレビ業界のことを知り尽くしているだけに、地に足着けて、社員食堂で昼食を作りながら、小説を書き続けていくとか。
さて、本題に戻る。スパーリングが始まったのは、午後6時12分。ボクシング好きの通行人たちが、ガラス張りの外から、じっと目をこらして見つめている。
一場。杉崎のジャブを、しっかりグローブの上から、ガード。足を使って、左に回りながら、打つ。
回って、打つ方が、自分のタイミングとリズムがとれてるようだ。しかし、フェイントを何度か試みるが、杉崎。まったく、ピクリとも動じない。
さすがに、キャリアと、経験の差は大きい。
2ラウンド。一場、左からを軸にした、上下への素早い打ち分け。そこは、以前よりグンと成長。が、そこからの左フックの大振り空振りは、いただけない。
すっかり、杉崎に見透かされ、見切られ、スカッ、また熱気をスカッと切り裂くだけ。
左ボディ打ちは、タイミングも良く、効きそうだ。一瞬前に、フックを見せといてからが、巧み。
左を差しながら、一気に行くときは、パンチが、まだまだラフ。しかし、すぐさまガードをしっかり戻す(写真左上。左側)。
3ラウンドも、しっかり足を使って、リングを大きく使ってかわしながら、コーナーを回れてる。
気になるのは、大振りになってしまいがちの左フックぐらいか。
杉崎の、巧みなクリンチワークと、時に荒っぽく突いて、その瞬間放つ、鋭いパンチには、怖いものを感じた。
しかし、全体を通して、成長の跡が、はっきり見てとれた。杉崎に打ち負けてもいなかったし。
何より、パンチに以前より、キレが出てきた。
自信と、東洋・太平洋(OPBF)までもランキング入りした気持ちの持ちようというのはおそろしい。選手を成長させる。気のせいか、風格すら感じさせた。
おごりもない。変な勘違いもしていない。
「生活環境も、なにも変わってませんよ」と、笑う。
残る問題は、減量苦。
前回、「問題ないです」と、私に言っていたが、試合後、ジムのホーム・ページでのインタビューでは、こころ許した顔見知りの人が、聞いたせいか、とても苦しんだことを、正直に打ち明けていた。
今回、一場、本人の言によれば、試合まで3週間前で、6キロオーバー。
「まあ、大丈夫です」と、大きく苦笑い。
「いやあ、杉崎さんの前へ出てくるプレッシャーが、すごくて」と、まず開口一番、相手をほめたたえる。
この先、共に同じ日が試合とあって、スパーリングを重ねる予定だという。他に、スーパー・バンタム級8位の、青木幸治とも、スパーリングをしてゆき、トータル100ラウンドはするとのこと。
「それでも、以前より少ない方です」
ランカーが、ひしめきあっているだけに、出稽古しなくてもいい。もろ、ライバル心、メラメラ。私みたいなのが、入れ替わり立ち代わり。この日も、他3名が、来ていた。外からも、観られてる、書かれるは、少なくても、悪くはないようだ。
相手の佐藤通也について、聞いた。
「実は、金子大樹さんとのタイトルマッチ、ボク、会場に見に行ってるんですよ。同じ階級なので、気になって」
印象は?
「キャリアあるし、パンチにスピードあるし。計算して組み立ててるし、上手いなあと、思いました」
「これから、もっとジャブとか、基本通りに立ち返って、スピードも上げていかないとと、思っています」
「佐藤さん、左ジャブにスピード有るんで。ファイターだし。足も速いし」
課題を見つけ、着実にこなしていってる。
これは、試合としても、面白くなりそうだ。
しばらくして、一応、「先生」が去った後のトレーナーにも、一言聞いておこうと、しばらくして、地下へ降りてみた。
まだ、一場は汗まみれになって、コーチの振るミットの左右フックの動きに合わせて、クッと腰を落とし、勢い付けて、ボディ打ちを繰り返していた。
よく、どこのジムでも見かけるパターンの練習だった。
コーチに、タイミングを見計らって、佐藤対策や、相手の特徴を聞いた。
・・・・・・驚いた。深く調べてない。通り一辺の、答え。まだ、選手の一場の方が、佐藤を、よく見ていた。そう、感じた。
そして、何より、他人に対する、クチのきき方が、選手時代と、殆んど変わっていなかった・・・・・・・・・。
深い、ため息が思わず出た。
雑誌時代も含め、今、初めて書くことだが、実は、数年前、こんなことがあった。
やはり、この日のように、このジムに、あるボクサーの取材に行き、写真も要所要所で撮り、スパーリングを見つめていた。
その時だ。いきなり、近くに立っていた選手が、こう私に言ってきた。
「俺、取材してよ!」
そちらを見ると、初めて見かける顔。
「俺を、書いてよ!」
はあ? 少なくとも、初対面の人に、いきなり言う言葉ではない。そう、思った。何度か、お逢いして言葉を交わして、親しくなっていたにせよ、通常の神経では、そういう言い方は、しないものだ。常識として。
彼は、私を見かけていたのかも知れないが、挨拶すらされた事ない。したこと、無い。
どれだけ親しくなった選手でも、私は、一定の距離を置く。心情的に心寄せる部分が、例えあってもだ。
腐っても、書き手だから。
一応、聞いてみたら、ある大手のジムから移籍してきたとか。どこか、書いてもらって当然! という、自信満々の風情。
あいまいにせず、その場で断った。少なくても、自分の感性には、響くものは、カケラも無かった。
持ち回りで、取り上げる形の業界誌ならともかく、全国に約2600人いる、プロボクサーのなかで、書きたい、取材させて戴きたい選手は、自分で決めている。
彼は、そののち、数戦こなして、トレーナーに転身。田中先生の助手のような形で付いていたようだ。
先生が、上記のいきさつで突然去り、彼がいきなりメインになった。だから、気負いがあるのは、分からないでもない。
だからこそ、他人に対する対応は、選手時代の延長線のままでは、いけないのではないだろうか?・・・・・
相手選手の、佐藤通也に対する、捉え方にもまた、驚かされた。
「もう、終わり(のボクサー)ですから」
・・・・・・・・・・・・・・・・言葉も、無かった。
これが、イケイケの、現役バリバリの選手なら、許される。キャラクターとして。
実際、そんな言い切り言葉を、原稿にしたこともある。
しかし、トレーナーの多くは、本音や内心はともかく、担当する選手の相手ボクサーに、どこかしら、敬いの気持ちを持ちつつ、こちらにも力量を分析して話してくれ、試合のセコンドに立ち、選手を叱咤激励している。
だから、こういう性格のトレーナーがいることが、哀しい。
次いで、聞いてきた。
「失礼だけどさ、喰えてるの?」
あきれつつ、その場でテキトーにウソをかました。会社は、有る。
どうやら、書かれなかった恨みが、残っていたのか。最近は、他人の稼ぎが、気になるらしい。
「俺、コレで喰えてるから!」
去り際に、言い捨てて行った。
我が国で、ボクシング・トレーナー専業で、喰えてる人は、ほんの一握り。
99%のプロボクサー同様、他に仕事を持って、ジムに来て教えているのが現実だ。
彼の、キャリア、実績からして、そこに入っているとは、到底思えないのだが・・・・。
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心に砂が混じり込んできたかのような、気持ちのまま、改めて佐藤通也の戦績を追った。なにしろ、観ていないのだから・・・・・・と、想い込んでいた。
ところが、あれ~っ!? 2月20日。後楽園ホールに、行ってるよお!
佐藤通也 対 小林和優(かずまさ)。この時、佐藤は、日本スーパー・フェザー級10位だった。
取材を控え室でしていて、見たのは2ラウンドから。
佐藤通也(写真上。左側)は、この日、当日のパンフレットや、ロッカーの写真と同じ、坊主頭。
3ラウンドには、小林が佐藤のパンチを喰らって、鼻血を出す。
4ラウンド。佐藤は、ボディ打ち。フェイントも、上手い。ワンツーのジャブは、キレ有り。だが、空振りも目立つ。
対する小林。佐藤の距離の取りかたが、上手く、パンチが届かない。勢い込むと、空振りばかり。
5ラウンド。ポイントを取られてると思ったのか、小林は一気にパンチ振り回し、委細構わず、突っ込んでゆく。
小林のフック、ヒット!
今度は、佐藤の方が、鼻血出す。ひるまず、ワンツーのストレート、見事にヒット!
しかし、倒せるまでには、いかず。
6ラウンドに入ると、小林が、連打、また連打。前へ出る。
ポイントを取る流れが、交互にクロス。優劣、付けがたい。
7ラウンド。佐藤、回りながらジャブ放つが、届かない。
ストレート! 見事に、ドンピシャのタイミングで、相打ち!
佐藤、追ってゆきストレート、ヒット! 体、付けて、パンチ、出し続ける。このラウンドは、佐藤が、少しリード。
最終、8ラウンドに。佐藤、ジャブ出す。対する、小林。必死に、右フックを放ち、タイミング良く、左右のフックを佐藤の顔面に叩き込む!
互いに、ポイントを少しでも取って、逃げ切りたかったのか?
空振りの連発。スタミナも、切れかかり、パンチのスピードも、明らかに落ち始める。
パンチは流れ、体をくっつけ合って、互いに手は出すものの・・・・・・・
思いを、断ち切るように、ゴングが、鳴る。
アナウンスが、流れる。佐藤は左側頭部をカットし、小林の方は左目の上をカット。共に、偶然のバッティングによるもの、とのこと。
判定は・・・んん・・・・・・
一人目、77-75で小林。だが、2人目は、逆に78-75で佐藤!
そして、最後の3人目。76-76!
ドロー(引き分け)

う~ん、佐藤(写真上。右側)も、小林(同。左側)も、苦笑いの、何とも言えぬ表情。悔いは、あるような、やり尽くしたような・・・・・・。
6月28日。一場仁志 対 佐藤通也。
当日。午後5時50分、第一試合開始。上記の試合は、第5試合だ。
試合は、フルラウンド闘う、判定ばかりとは、限らない。
午後6時半に入れば、大丈夫だろう。
はたして、どんな試合結果になるか?
少なくとも、佐藤、終わりのボクサーでは、無い。
そんな、やわで、甘く(さとう)はない!
そのことだけは、言っておく!