※沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)第三章 女神と女性の神話(31~41)
(1)
スマホゲーム『FGO』(Fate/Grand Order)では人類史の修復を試みるため様々な「サーヴァント」を〈使い魔〉として召喚する。すでに見たように、女性サーヴァント(使い魔)「キングプロテア」は。「呑み込み死をもたらす」少女母神だ!彼女の「宝具」(必殺技)は「乳の海に敵を沈める」ことで、これは「乳海攪拌」神話におけるように「生命を原初の状態に引き戻す」こと、つまり「死」をもたらすことだ。
(2)
『FGO』には少女神のサーヴァント(使い魔)「エウリュアレ」も登場する。彼女は迷宮の怪物ミノタウロス=アステリオスの「保護者」であり知能の低いアステリオスを「母」のように導く。他方で、エウリュアレは「少女」であり身体的に「弱い」のでアステリオスに庇護される。
(3)
さらに『FGO』には少女神のサーヴァント(使い魔)として「メディア・リリィ」も登場する。「メディア・リリィ」は魔術師であり、夫となったイアソンを騙して“「契約の箱・アーク」に女神エウリュアレを捧げれば、無限の力を手に入れられる”とそそのかす。だが「契約の箱・アーク」は死をもたらすものであり、世界の滅亡を意味する。メディア・リリィは「死」を望む。
(4)
「生」の側にある少女神「エウリュアレ」、世界の「死」を望む少女神「メディア・リリィ」。ここでは少女神の「生」と「死」が対比されている。(Cf. 少女神「エウリュアレ」は「母」の役割も果たすから「呑み込み死を与え」もする。少女神「メディア・リリィ」は少女である限りで生命原理の発現でもある。)
(5)
『FGO』におけるサーヴァント(使い魔)である少女神キングプロテア、エウリュアレ、メディア・リリィはいずれも「少女」であって、かつ「母」である。つまり「少女母神」だ。(A)少女神は「少女」として生命原理である。だが(B)「母」であることは「呑み込み死をもたらす」ことでもある。少女母神は「(呑み込み)死を与える」女神でもある。
(5)-2
これら『FGO』の少女神においては、いずれも「少女」の姿と「母」なるものとしての性質が融合している。この「少女母神」の観念は、ギリシア神話の「処女と母が一体化していたアルテミス」や、「一心同体の母子デメテルとペルセポネ」においてすでに見られるものだ。『FGO』は古代神話における構造を、現代に再生産したものだ。人間の心理には神話を再生産する機能が備わっている。
《参考1》アルテミスは結婚しない「処女神」(「少女」)である。ところがそれと矛盾して、アルテミスは「出産の女神」(「母」)でもある。名高い「エペソス(エフェソス)のアルテミス像」は豊かな乳房をたくさん持つ母神である。アルテミスは「処女」「少女」にして「母」という矛盾した役割を持つ。アルテミスは「少女母神」だ。
《参考2》「冥界の食物を食べたものは、冥界に属する」との神々の定めがあったので、ゼウスは「オリュンポスの秩序は守らねばならないが、デメテル(母)の抗議も考慮せねばならない」として、「(冥界の食物を食べた)ペルセポネー(娘)が1年の1/3を冥府でハデスの妃として暮らし、残りをデメテル(母)の元で暮らす」ことで決着を付けた。デメテル(母)はペルセポネーが冥界のハデスの元で暮らしている間は実りをもたらすのをやめた(「冬」)。ペルセポネー(娘)が地上に戻る時期は、母である「豊穣の女神」デメテルの喜びが地上に満ち溢れ「春」となる。かくてペルセポネーは「春の女神」となった。(これが季節の起源譚である。)「大地の実りの女神」(「豊穣の女神」)デメテル(母)と「春の女神」ペルセポネ(娘)は、母と娘という別の女神でなく、母神と娘神の2つの顔を持つ一体の女神というべきだろう。
(1)
スマホゲーム『FGO』(Fate/Grand Order)では人類史の修復を試みるため様々な「サーヴァント」を〈使い魔〉として召喚する。すでに見たように、女性サーヴァント(使い魔)「キングプロテア」は。「呑み込み死をもたらす」少女母神だ!彼女の「宝具」(必殺技)は「乳の海に敵を沈める」ことで、これは「乳海攪拌」神話におけるように「生命を原初の状態に引き戻す」こと、つまり「死」をもたらすことだ。
(2)
『FGO』には少女神のサーヴァント(使い魔)「エウリュアレ」も登場する。彼女は迷宮の怪物ミノタウロス=アステリオスの「保護者」であり知能の低いアステリオスを「母」のように導く。他方で、エウリュアレは「少女」であり身体的に「弱い」のでアステリオスに庇護される。
(3)
さらに『FGO』には少女神のサーヴァント(使い魔)として「メディア・リリィ」も登場する。「メディア・リリィ」は魔術師であり、夫となったイアソンを騙して“「契約の箱・アーク」に女神エウリュアレを捧げれば、無限の力を手に入れられる”とそそのかす。だが「契約の箱・アーク」は死をもたらすものであり、世界の滅亡を意味する。メディア・リリィは「死」を望む。
(4)
「生」の側にある少女神「エウリュアレ」、世界の「死」を望む少女神「メディア・リリィ」。ここでは少女神の「生」と「死」が対比されている。(Cf. 少女神「エウリュアレ」は「母」の役割も果たすから「呑み込み死を与え」もする。少女神「メディア・リリィ」は少女である限りで生命原理の発現でもある。)
(5)
『FGO』におけるサーヴァント(使い魔)である少女神キングプロテア、エウリュアレ、メディア・リリィはいずれも「少女」であって、かつ「母」である。つまり「少女母神」だ。(A)少女神は「少女」として生命原理である。だが(B)「母」であることは「呑み込み死をもたらす」ことでもある。少女母神は「(呑み込み)死を与える」女神でもある。
(5)-2
これら『FGO』の少女神においては、いずれも「少女」の姿と「母」なるものとしての性質が融合している。この「少女母神」の観念は、ギリシア神話の「処女と母が一体化していたアルテミス」や、「一心同体の母子デメテルとペルセポネ」においてすでに見られるものだ。『FGO』は古代神話における構造を、現代に再生産したものだ。人間の心理には神話を再生産する機能が備わっている。
《参考1》アルテミスは結婚しない「処女神」(「少女」)である。ところがそれと矛盾して、アルテミスは「出産の女神」(「母」)でもある。名高い「エペソス(エフェソス)のアルテミス像」は豊かな乳房をたくさん持つ母神である。アルテミスは「処女」「少女」にして「母」という矛盾した役割を持つ。アルテミスは「少女母神」だ。
《参考2》「冥界の食物を食べたものは、冥界に属する」との神々の定めがあったので、ゼウスは「オリュンポスの秩序は守らねばならないが、デメテル(母)の抗議も考慮せねばならない」として、「(冥界の食物を食べた)ペルセポネー(娘)が1年の1/3を冥府でハデスの妃として暮らし、残りをデメテル(母)の元で暮らす」ことで決着を付けた。デメテル(母)はペルセポネーが冥界のハデスの元で暮らしている間は実りをもたらすのをやめた(「冬」)。ペルセポネー(娘)が地上に戻る時期は、母である「豊穣の女神」デメテルの喜びが地上に満ち溢れ「春」となる。かくてペルセポネーは「春の女神」となった。(これが季節の起源譚である。)「大地の実りの女神」(「豊穣の女神」)デメテル(母)と「春の女神」ペルセポネ(娘)は、母と娘という別の女神でなく、母神と娘神の2つの顔を持つ一体の女神というべきだろう。