DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

中原中也(1907-1937)「早春散歩」:この「淋しい心」を抱いて、今年もまた春を迎へる!

2018-07-11 20:38:40 | 日記
 「早春散歩」 Taking a walk in early spring

空は晴れてても、建物には蔭があるよ、 Though the sky is fine, buildings have shadows.
春、早春は心なびかせ、 Spring, especially early spring, flutters our hearts,
それがまるで薄絹ででもあるやうに and as if our hearts are like thin silk fablics,
ハンケチででもあるように or also like handherchiefs,
我等の心を引千切(ヒキチギ)り it tears our hearts,
きれぎれにして風に散らせる and makes them into pieces and scatters in the wind.

私はもう、まるで過去がなかつたかのやうに I feel as if I actually have not the past,
少なくとも通つてゐる人達の手前さうであるかの如くに感じ、 or as if I have not the past at least in comparison with people who walk now,
風の中を吹き過ぎる I blow away in the wind,
異邦人のやうな眼眸(マナザシ)をして、 while I have eyes like a stranger’s,
確固たるものの如く、 and I am like the great existance,
また隙間風にも消え去るものの如く and I am like the existance which vanish away by a blow of draft.

さうしてこの淋しい心を抱いて、 Then I hold this sad heart, and I think
今年もまた春を迎へるものであることを that this year again I have recieved spring,
ゆるやかにも、茲(ココ)に春は立返つたのであることを and that spring gently come back here,
土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら staring at the sunlight on the ground, being hit by a blowing cold wind,
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら walking on the bank, and looking at the distant sky.
僕は思ふ、思ふことにも慣れきつて僕は思ふ…… I think in such a fashion, and I think so while I have thoroughly become accustomed to my such thinking.

《感想1》
建物は、空のように全面的に晴れ明るいということはない。明るい側と暗い側がある。詩人の心に明るさと暗さが共存する。
《感想1-2》
春、とりわけ早春は、薄絹のハンカチのような心を、引千切りきれぎれに風に散らせる。春or早春は心に対し凶暴だ。

《感想2》
明るさと暗さからなる私の心。そして凶暴な春の風が、私の薄絹のような心をきれぎれに引きちぎる。
《感想2-2》
その上、私は、過去がないと感じる。少なくとも他の人々と比べ過去がないと感じる。過去がないとは空虚ということだ。私は空虚であり、風と変わりなく、空虚な私が風の中を吹きすぎる。
《感想2-3》
風の中を吹きすぎる空虚な心としての私は、この世界になじめない異邦人である。そして私は揺れる。一方で私は確固たるものなのに、他方で私は隙間風に消え去るくらいに軽い。私は、確信と不安の間で揺れる。

《感想3》
春がまたやってきた。春は全面的に明るく、私の「淋しい心」、光と影のある私の心、そして過去がない空虚な私の心と、対照的だ。春が、緩やかにやってくる。
《感想3-2》
明るさと暗さが共存し、確信と不安の間で揺れ、過去を持たず空虚な心に、明るく豊かな春がやってくる。春が私を「淋しい心」にする。春を迎えるたび、私は繰り返し淋しさを感じる。だが、その淋しさにも慣れた。もちろん淋しさは消えず、厳然とあり続ける。
《感想3-3》
春、あるいは早春とは何か?事実としては、①空は晴れていても建物に影があること、②土の上の日射し、③つめたい風、④土手の上、そして⑤遠くの空。心への影響力としては、⑥心をなびかせ、心を引千切りきれぎれにして風に散らせること、そして⑦私の心を「淋しい心」に変化させる。
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