DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

村上春樹(1949-)「アイロンのある風景」(1999年):「からっぽ」は、経験(事実)に関しての言明でなく、価値に関しての言明だ!順子は、私の出生以来の経験すべてが、無価値(「からっぽ」)だと言う!

2018-07-05 20:21:26 | 日記
(1)
順子は、今、啓介(ケイスケ)と同棲している。2月、夜中の12時だが、三宅さんからの電話で、「浜で焚火をする」というので、順子は出かける。啓介もついて行く。
(2)
「大事なのは、今の今しっかりメシが食えて、しっかりちんぽが立つことだ」と啓介が言う。
《感想》
啓介が言うことは、正論だ。人間は、《糊口の道》(衣食住)と、《セックス》が、ほとんどすべてだ。まず「めし」と「ちんぽ」だ。欲望に関しては、人間は、犬、猫、豚、猿等々と、全く同じだ。

(3)
順子は、高校生の時、ジャック・ロンドンの『焚火(タキビ)』を読んで、この主人公は凍死を避けるため火を起こそうとするが、彼女は、この主人公は実は「死を求めている」と思った。「根元的ともいえる矛盾性」!
《感想》
死は、拒否されるが、秘かに、憧れ(アコガレ)でもある。この世が、無意味あるいは憂き世なら、死が望まれる。

(4)
炎にたいして、5万年前の人々も、同じように感じたはずだと、順子は思う。「炎は、あらゆるものを黙々と受け入れ、呑みこみ、赦(ユル)していくみたいに見えた。」
(4)-2
「ほんとうの家族というのはきっとこういうものなのだろう」と順子は思った。
《感想》
子供が成人になる以前、このような「ほんとうの家族」を両親はめざし、また子供が望む権利がある。しかし、順子はすでに成人だ。もう家族は、彼女の《ゆりかご》《避難地》であり続けることは難しく、客観視するしかない。また彼女は、父親や母親に対しても、互いに成人として、付き合うしかない。「ほんとうの家族」を求める時期は、順子の場合、すでに終わっている。

(5)
「イバラギの人間」は「農閑期にむしろ旗たてて暴走族やっとったらええんや」と三宅さん。「北関東の純朴ピープル」をいじめてると、啓介が言う。
(6)
順子は、高3の5月に、父親の金、30万円をおろし、家出した。彼女は、所沢から茨城県の海辺の小さな町に来た。1間のアパートを借り、コンビニの店員になった。
(6)-2
順子は、学校に行くのがいやだった。彼女は、ものごとに意識が集中できず、集中しようとすると頭の芯が痛んだ。
(6)-3
父親は、順子が、生理が始まり、陰毛がはえ、胸がふくらみだしてから、奇妙な視線で見るようになった。中学3年生になって身長が170センチを超えると、父親は、なにも話しかけなくなった。
《感想》
男親の娘に対する性的虐待の心理だ。順子が、「ほんとうの家族」を求める気持ちは、男親の娘に対する性的虐待の心理を、拒否するからだ。

(7)
順子が町に落ち着きほどなく、啓介と知り合った。順子18歳、啓介20歳。啓介はサーファーで、波がいいからと、ここに住みついた。友だちとロックバンドを組む。二流の私立大学に籍を置くが、ほとんど学校に行かない。両親は水戸市内で老舗(シニセ)の菓子店を経営する。
《感想》
「二流の私立大学」とは、著者が《一流の私立大学》卒なので、つい不用意に傲慢さが出たのだろう。啓介は、ぐうたらな金持ちのボンボンとして描かれる。だが、やがて堅気に「家業を継ぐ」こともありうる。

(8)
三宅さんは40代半ば。順子のコンビニのお客さんだった。三宅さんは、絵描きだ。彼は、冷蔵庫が嫌いで、家になく、コンビニに毎日、買い物に来た。
(8)-2
三宅さんは、浜で流木を集め、よく焚火をする。彼は、焚火が好きだ。順子は、焚火の炎に「何か深いもの」を感じる。それは「気持ちのかたまり」であり、「観念」より生々しく「現実的な重み」を持つ。
(8)-3
三宅さんが、炎はかたちが自由やから、「見ているほうの心次第で、何にでも見える。」順ちゃんのなかに「ひっそりした気持ち」があると、炎の中にそれが見えると言った。
《感想》
自由な炎の形の内に、「心」が見たいものを、見る。この指摘には、同感する。

(9)
三宅さんは、啓介の若さに、順子より同情的だ。「若いゆうのもきついもんやねん、考えてもどうもならんことかてあるしな。」
《感想》
「若気の至り」と言う。仕方ない事だ。だが「艱難(カンナン)汝を玉にす」と言うし、またやがて「亀の甲より年の功」、「海に千年山に千年」と狡猾あるいは賢くなりうる。

(10)
三宅さんには、奥さんがいるし、子どもも二人いる。神戸の東灘区に住む。だが彼は独り、彼は、自分は「アホの王様やねん」と言った。
(10)-2
三宅さんは、冷蔵庫に閉じ込められて、少しづつ窒息し、苦しんで長い時間かかって死ぬ夢を見る。苦しくなて、起きて、台所の冷蔵庫を開けるとそこから、死人の手が伸びて、俺の首をつかんで引っ張り込む。ギャーッと叫ぶと、そこで本当に目が覚める。この夢を何回も見るという。
(10)-3
かの『焚火』を書いたジャック・ロンドンは「モルヒネを飲んで自殺した。」「アルコール中毒になり、絶望を身体(カラダ)の芯までしみこませて、もがきながら死んでいった」と三宅さんが言った。
《感想》
「絶望」や「自殺」を著者は、賛美しているように見える。私見では、「絶望」や「自殺」を公に小説で語ることは、売文業の販売戦術のようで、あまり好みでない。
《感想(続)》
評者には、「絶望」など、とんでもない。体験したくない。「自殺」などとんでもない。それは、この世の不幸の証明だ。「絶望」や「自殺」の賛美は、ありえない。

(11)
「予感」は一種の「身代わり」だと、三宅さんが言う。
(11)-2
三宅さんが最近描いた絵は『アイロンのある風景』だ。「部屋の中にアイロンが置いてある。それだけの絵」だ。アイロンは、身代わり(予感)だ。アイロンが、何の身代わり(予感)か、「説明するのがむずかしい」と三宅さんが言う。
《感想》
ここで身代わり(予感)されているのは、《死》だ。著者は、《死》が好きだ。これに対し、評者は、嫌いでも、好きでも、いずれ《死ぬ》のだから、《死》を話題にする意味がないと考える。まして、小説家が、《死》を《飯のタネ》にするのは、嫌いだ。

(12)
順子が「私ってからっぽなんだよ」、「ほんとに何もないんだよ」と言う。
《感想》
「からっぽ」とはどういいうことか?彼女の記憶は蓄積されており、つまり、自然・宇宙に関しても、人工物に関しても、家族を含め社会関係に関しても、《自己の感覚・感情・欲望・意図・思考・想像(虚構)・夢の経験(体験)、要するに「心」》に関しても、出生以来、経験は続いており、何も「からっぽ」でない。
《感想(続)》
「からっぽ」は、だから経験(事実)に関しての判断(言明)でなく、価値に関しての判断(言明)だ。順子は、私の出生以来の経験すべてが、無価値だと言っている。

(13)
「私ってからっぽなんだよ」と言った順子が、「どうしたらいいの?」と、三宅さんに聞く。「ぐっすり寝て起きたら、だいたいはなおる」と三宅さんが言う。「そんな簡単じゃない」と順子が言う。三宅さんが「そやなあ・・・・・・、どや、今から俺と一緒に死ぬか?」と言う。「いいよ。死んでも」、「真剣だよ」と順子が答える。
《感想》
《自殺》を売りにして小説を書き、一体、この著者は、何なのだ?この著者が、《この世は無価値で死んだ方がいい》と小説に書いて、《金を稼ぐ》とはどういうことか?
①《金を稼ぐ》のが目的なら、著者にとって《この世は無価値でなく、生きるに値する》。つまり彼には、金(カネ)が入り、金(カネ)でこの世の楽しみがほとんど何でも手に入る。「金を稼ぐ」のが目的の著者は、《この世は無価値で死んだ方がいい》と思っていない。
②《この世は無価値でなく、生きるに値する》と思っている著者が、《この世は無価値で死んだ方がいい》と公言する小説を書くとは、どういうことだ?
②-2 著者は、小説を買って読む者を、愚弄する。著者は、《この世は無価値で死んだ方がいい》と公言する小説を書く(道義的・倫理的)資格がない。
②-3 著者は、《この世は無価値でなく、生きるに値する》、あるいは《金(カネ)で、この世の楽しみがほとんど何でも手に入るから、金(カネ)をもうけよう》と公言する小説を書くべきだ。
②-4 あるいは、著者は、《無価値のこの世》を、少しでも有価値とするための方策を、頭を使って探し出し、それに《小説で儲けた金》を、全額拠出するべきだ。(Cf. 2005年度の長者番付では、村上春樹氏は、納税額8,690万円、推定所得は2億円超だ。)
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

殺し合いを、法で抑制するしかない

2018-07-05 07:50:34 | 日記
君には、殺したい奴がいる。 You want to kill someone.
ところが、君を殺したいと思う奴もいる。 At the same time, someone wants to kill you.
殺し合いだ。 You and he/she want to kill each other.
法で、抑制するしかない。 Laws must put restraints on private conflicts and battles.
人間は、罪深い。 Human beings are sinful.
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする