樹下
人があふれ、海は逃げた。
喧嘩するばかり、働くものはない、
三ケ年分も米があるといふ。
人の皮を剥ぎとって着てゐた妖怪どもは、
投票代りに石を投げられ、
くらげの干物になった。
川は逃げ水、海は干からび、
人々の腰半分は泥化してゆく。
空と地の境もない混沌。
吹雪に追はれてきた渡り鳥は、
水の消えた故地にとまどってゐる。
枝を張った高い欅の下から見上げる、
夜の目。梟でも、黒猫でもない、
何百年も前からここに坐わってゐて、
星が見えた時、私は一本の樹に代つてゐた。
《感想1》
人がたくさんいる。
これは、事実であり、この詩の前提。
だが、海は普通、逃げない。
これは、詩人の幻想だ。
海が逃げた、つまり、干からびてなくなった。
《感想2》
3カ年分、米があるので、3カ年、働かず生きていける。
これは、豊かな社会だ!
しかし詩人は、豊かさが人間を堕落させると考える。
働かず、暇をもてあまし、エネルギーも余り、喧嘩する。
《感想2ー2》
人間は複数いるかぎり、必ず戦いになる。
ホッブス問題だ。
評者は、豊かな方が、争いは減ると、思う。
これに対し、この詩人は質実剛健主義で、豊かさ、華美を嫌う。
《感想3》
かつて妖怪がいたが、今はいなくなった。
海が干からび、妖怪は、くらげの干物になった。
連想だ。
《感想3ー2》
皮をはぎ取られた人は死ぬ。
犯人は妖怪だから、これは迷宮入り殺人事件。
《感想3ー3》
妖怪は、人の姿をしていた。
ところが妖怪だと、ばれてしまった。
民主主義の時代だから、人間なら、投票で落選して、権力を失い、無力(たとえれば、くらげの干物)となる。
ところが、妖怪の場合は、残酷にも、石を投げられ、無力化される。
《感想4》
今や妖怪のいない、非魔術化された時代。
科学の時代。世俗的時代だ。
《感想5》
この詩は、事実と幻想の混合である。
現実には、川は逃げない。川は存在する。
幻想において、川は逃げ、海は干からび、人々の腰半分が泥となる。
泥の上に半身が屹立する人間が、あふれるほど、たくさんいる。
《感想6》
空と地の境がない。
この詩人は、腰半分が泥となることを、空と地の境がないと、呼ぶ。
つまり3次元空間である空が、二次元の平面(地・泥)と連続する。
《感想7》
詩人は、渡り鳥が故地に戻る出来事を、好む。
故地が変化しても、渡り鳥は故地にもどる。
渡り鳥は、習慣の束だ。
慣れた出来事が、その者の本質をなす。
《感想7ー2》
渡り鳥でない鳥も多くいる。
彼らも、変化した地に、とどまっている。
《感想8》
枝があまりない低い木は、かっこわるい。
この詩人は、立派で雄々しい木が好きだ。
力への嗜好。
下から見上げる。
仰ぎ見るから、昂然とする。
肩を落とし、背を丸め、悄然とするのは、この詩人の好みでない。
《感想8ー2》
夜の目とは、暗がりで見える夜行性の目。
あるいは、多くの者が寝る夜に起きている、意志ある目。
《感想8ー3》
夜の目は、ここでは賢い梟の目でないし、魔術を使う黒猫の目でもない。
《感想9》
この詩人は何百年も坐って、夜、「星」が見えるのを待っていた。
毎日、無数の星が見えるのに、この詩人には、それらは探している「星」でなかった。
今や、「星」が見つかった。
かくて、彼は、1本の樹となった。
《感想9-2》
人はたくさんいるが、彼らは皆、腰半分が泥になった。
詩人自身は、樹になった。
この違いは、なにに由来するのか?
「星」を見つけたからだ。
《感想9-3》
海は干からびた。
だが豊かな社会で食べ物はたくさんある。彼らは暇なので喧嘩する。
この詩人は、喧嘩せず、立派な欅の樹の下で、「星」を探した。
人間の姿をし、欺く妖怪は、くらげの干物となり、もはやいない。
安全な世の中だ。
ただし空と地の境が曖昧で、家なども、下半分、泥となるだろう。
渡り鳥は、半年たって、もどったら川も海もなくなり、干からびて戸惑う。
雨がふたたび降れば、川も海も復活する。
あるいは雨が降らずに、人間、梟、黒猫、欅、さらに樹と化した詩人は、すべて枯死する。
地球は、砂漠の星となり、(《水なしに生き残る微生物》以外の)すべての生物は、死に絶える。
《感想9-3》
あの「星」も、《それを何百年と探して発見し樹となった詩人》が、枯れ死ぬので、消え去るだろう。
そような特別な「星」は、詩人の幻だ。
Under a Tree
There are so many people that the sea has run away.
People always fight each other, and any of them don't work.
They have as much rice as they can eat for three years.
To monsters that wore skins torn off from men,
ballots were not voting, but stones were thrown.
As a result, monsters became dried jellyfish.
Rivers run away, and the sea drys up.
Peplle's lower-half parts under their waists are becoming mud.
Chaos that has no boundary between the sky and the ground!
Migratory birds that have been driven away by snowstorms
are worried about the homeland that has losed water.
Eyes at night that are looking above from under the bough-prosperous high zelkova tree.
They don't belong to neither an owl nor a black cat.
I have been sitting here for several hudred years,
and I have changed to one tree when I have found the star.
人があふれ、海は逃げた。
喧嘩するばかり、働くものはない、
三ケ年分も米があるといふ。
人の皮を剥ぎとって着てゐた妖怪どもは、
投票代りに石を投げられ、
くらげの干物になった。
川は逃げ水、海は干からび、
人々の腰半分は泥化してゆく。
空と地の境もない混沌。
吹雪に追はれてきた渡り鳥は、
水の消えた故地にとまどってゐる。
枝を張った高い欅の下から見上げる、
夜の目。梟でも、黒猫でもない、
何百年も前からここに坐わってゐて、
星が見えた時、私は一本の樹に代つてゐた。
《感想1》
人がたくさんいる。
これは、事実であり、この詩の前提。
だが、海は普通、逃げない。
これは、詩人の幻想だ。
海が逃げた、つまり、干からびてなくなった。
《感想2》
3カ年分、米があるので、3カ年、働かず生きていける。
これは、豊かな社会だ!
しかし詩人は、豊かさが人間を堕落させると考える。
働かず、暇をもてあまし、エネルギーも余り、喧嘩する。
《感想2ー2》
人間は複数いるかぎり、必ず戦いになる。
ホッブス問題だ。
評者は、豊かな方が、争いは減ると、思う。
これに対し、この詩人は質実剛健主義で、豊かさ、華美を嫌う。
《感想3》
かつて妖怪がいたが、今はいなくなった。
海が干からび、妖怪は、くらげの干物になった。
連想だ。
《感想3ー2》
皮をはぎ取られた人は死ぬ。
犯人は妖怪だから、これは迷宮入り殺人事件。
《感想3ー3》
妖怪は、人の姿をしていた。
ところが妖怪だと、ばれてしまった。
民主主義の時代だから、人間なら、投票で落選して、権力を失い、無力(たとえれば、くらげの干物)となる。
ところが、妖怪の場合は、残酷にも、石を投げられ、無力化される。
《感想4》
今や妖怪のいない、非魔術化された時代。
科学の時代。世俗的時代だ。
《感想5》
この詩は、事実と幻想の混合である。
現実には、川は逃げない。川は存在する。
幻想において、川は逃げ、海は干からび、人々の腰半分が泥となる。
泥の上に半身が屹立する人間が、あふれるほど、たくさんいる。
《感想6》
空と地の境がない。
この詩人は、腰半分が泥となることを、空と地の境がないと、呼ぶ。
つまり3次元空間である空が、二次元の平面(地・泥)と連続する。
《感想7》
詩人は、渡り鳥が故地に戻る出来事を、好む。
故地が変化しても、渡り鳥は故地にもどる。
渡り鳥は、習慣の束だ。
慣れた出来事が、その者の本質をなす。
《感想7ー2》
渡り鳥でない鳥も多くいる。
彼らも、変化した地に、とどまっている。
《感想8》
枝があまりない低い木は、かっこわるい。
この詩人は、立派で雄々しい木が好きだ。
力への嗜好。
下から見上げる。
仰ぎ見るから、昂然とする。
肩を落とし、背を丸め、悄然とするのは、この詩人の好みでない。
《感想8ー2》
夜の目とは、暗がりで見える夜行性の目。
あるいは、多くの者が寝る夜に起きている、意志ある目。
《感想8ー3》
夜の目は、ここでは賢い梟の目でないし、魔術を使う黒猫の目でもない。
《感想9》
この詩人は何百年も坐って、夜、「星」が見えるのを待っていた。
毎日、無数の星が見えるのに、この詩人には、それらは探している「星」でなかった。
今や、「星」が見つかった。
かくて、彼は、1本の樹となった。
《感想9-2》
人はたくさんいるが、彼らは皆、腰半分が泥になった。
詩人自身は、樹になった。
この違いは、なにに由来するのか?
「星」を見つけたからだ。
《感想9-3》
海は干からびた。
だが豊かな社会で食べ物はたくさんある。彼らは暇なので喧嘩する。
この詩人は、喧嘩せず、立派な欅の樹の下で、「星」を探した。
人間の姿をし、欺く妖怪は、くらげの干物となり、もはやいない。
安全な世の中だ。
ただし空と地の境が曖昧で、家なども、下半分、泥となるだろう。
渡り鳥は、半年たって、もどったら川も海もなくなり、干からびて戸惑う。
雨がふたたび降れば、川も海も復活する。
あるいは雨が降らずに、人間、梟、黒猫、欅、さらに樹と化した詩人は、すべて枯死する。
地球は、砂漠の星となり、(《水なしに生き残る微生物》以外の)すべての生物は、死に絶える。
《感想9-3》
あの「星」も、《それを何百年と探して発見し樹となった詩人》が、枯れ死ぬので、消え去るだろう。
そような特別な「星」は、詩人の幻だ。
Under a Tree
There are so many people that the sea has run away.
People always fight each other, and any of them don't work.
They have as much rice as they can eat for three years.
To monsters that wore skins torn off from men,
ballots were not voting, but stones were thrown.
As a result, monsters became dried jellyfish.
Rivers run away, and the sea drys up.
Peplle's lower-half parts under their waists are becoming mud.
Chaos that has no boundary between the sky and the ground!
Migratory birds that have been driven away by snowstorms
are worried about the homeland that has losed water.
Eyes at night that are looking above from under the bough-prosperous high zelkova tree.
They don't belong to neither an owl nor a black cat.
I have been sitting here for several hudred years,
and I have changed to one tree when I have found the star.