因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、ただ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりければ、「かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許さざりけり。
<口語訳>
因幡国の、何の入道とかいう者の娘、かたちよしと聞いて、人があまた言い寄り続けたけれども、この娘、ただ、栗のみ食べて、更に、米の類(たぐひ)を食べなかったそうなので、「こんな異様の者、人が見るべきでない」として、親許さなかった。
<意訳>
因幡国の、何の入道とかいう者の娘が、大層な美人だと評判になり、大勢の男が求婚をしたが、この娘、ただ栗ばかり食べて、まったく米のたぐいを食べなかった。
「このような者は、嫁にやれない」と、親は結婚を許さなかった。
<感想>
因幡国は、現在の鳥取県。距離的には兼好が旅した鎌倉よりは近いが、京都に住む人間には、とんでもない田舎で辺境の地だ。現在で言うなら、東京に住む人にとっての群馬県。距離的には大阪や仙台より近いが、わざわざ足をはこぶ場所ではない。そんな土地のうわさ話を書きとめたのが、四十段なのである。
この「栗食い姫」は謎が多い。
だいたい一年中、栗が食べられるものなのだろうか。「栗」は果物やお菓子の総称として理解していいなら、納得できる。現在にもスッナック菓子やおやつめいたものしか食べない女の子は普通にいる。しかし、マジに栗しか食わなかったのなら、驚くべき女だ。
ちなみに「入道」は出家した者の事。娘がいるということは、寺に属さず、出家だけして普通の暮らしを営んでいたのだろう。その事から、「栗食い姫」の父親は経済力がある人間であると推測される。いわゆる地方の豪族、権力者であろう。
因幡の国の地方権力者の娘が、「栗食い姫」の正体だが、なんで米の飯を食わなかったのであろうか。親への反抗心の無意識のあらわれか。
「栗食い姫」は、きっと親から、ちゃんとしたご飯を食べなきゃ、結婚させませんよとか言われちゃったのだろう。その為にかえって、なかば意地になり栗ばかり食べ続ける。将来のビジョンが見えちゃったんだろうな。「このまんま結婚して、子供を産んで、やがて死ぬ」
人生など生の浪費にしか思えない。
なら、好きな事して、好きな栗を食べてた方がずっといい。結婚というものさえあきらめたなら、この先ずっと好きに暮らしてもいいらしいと本能的に悟った。
因幡の国の栗食い姫は、親の希望を無視して栗を食べ続ける事を望んだ。そういう話しだ。
原作 兼好法師
現代語訳 protozoa
参考図書
「徒然草」吉澤貞人 中道館
「絵本徒然草」橋本治 河出書房新書
「新訂 徒然草」西尾 実・安良岡康作校注 岩波文庫
「徒然草 全訳注」三木紀人 講談社学術文庫
<口語訳>
因幡国の、何の入道とかいう者の娘、かたちよしと聞いて、人があまた言い寄り続けたけれども、この娘、ただ、栗のみ食べて、更に、米の類(たぐひ)を食べなかったそうなので、「こんな異様の者、人が見るべきでない」として、親許さなかった。
<意訳>
因幡国の、何の入道とかいう者の娘が、大層な美人だと評判になり、大勢の男が求婚をしたが、この娘、ただ栗ばかり食べて、まったく米のたぐいを食べなかった。
「このような者は、嫁にやれない」と、親は結婚を許さなかった。
<感想>
因幡国は、現在の鳥取県。距離的には兼好が旅した鎌倉よりは近いが、京都に住む人間には、とんでもない田舎で辺境の地だ。現在で言うなら、東京に住む人にとっての群馬県。距離的には大阪や仙台より近いが、わざわざ足をはこぶ場所ではない。そんな土地のうわさ話を書きとめたのが、四十段なのである。
この「栗食い姫」は謎が多い。
だいたい一年中、栗が食べられるものなのだろうか。「栗」は果物やお菓子の総称として理解していいなら、納得できる。現在にもスッナック菓子やおやつめいたものしか食べない女の子は普通にいる。しかし、マジに栗しか食わなかったのなら、驚くべき女だ。
ちなみに「入道」は出家した者の事。娘がいるということは、寺に属さず、出家だけして普通の暮らしを営んでいたのだろう。その事から、「栗食い姫」の父親は経済力がある人間であると推測される。いわゆる地方の豪族、権力者であろう。
因幡の国の地方権力者の娘が、「栗食い姫」の正体だが、なんで米の飯を食わなかったのであろうか。親への反抗心の無意識のあらわれか。
「栗食い姫」は、きっと親から、ちゃんとしたご飯を食べなきゃ、結婚させませんよとか言われちゃったのだろう。その為にかえって、なかば意地になり栗ばかり食べ続ける。将来のビジョンが見えちゃったんだろうな。「このまんま結婚して、子供を産んで、やがて死ぬ」
人生など生の浪費にしか思えない。
なら、好きな事して、好きな栗を食べてた方がずっといい。結婚というものさえあきらめたなら、この先ずっと好きに暮らしてもいいらしいと本能的に悟った。
因幡の国の栗食い姫は、親の希望を無視して栗を食べ続ける事を望んだ。そういう話しだ。
原作 兼好法師
現代語訳 protozoa
参考図書
「徒然草」吉澤貞人 中道館
「絵本徒然草」橋本治 河出書房新書
「新訂 徒然草」西尾 実・安良岡康作校注 岩波文庫
「徒然草 全訳注」三木紀人 講談社学術文庫