満天横丁に住まう妖怪のひとり言

満天横丁に住む満天と申します
最近、猫妖怪化してきており更新は不定期ですが…
ひとり言にお付き合い頂ければ幸いです。

弧宿の人(宮部みゆき)

2006-10-25 | 本の紹介
2005年6月「新人物往来社」発刊の作品です


 弧宿の人

いや~一気に読んでしまいました(笑)
さすがは宮部作品。
宮部作品は出ている作品全部読んでいます。
なかでも、時代モノ系が面白いっ!
「震える岩」「天狗風」←霊験お初捕り物控
これが一番のお気に入りかな?
「ぼんくら」「日暮し」←超美少年弓之助登場
これも捨てがたい
「ICO」これはゲームを元に書いたモノ…面白かったデス。
「ブレイブ・ストーリー」映画になってますよネ
ん~、どれも甲乙付けがたいデス。

「阿呆(あほう)」の「ほう」っという名前を持つ子供が居る。
この子が生まれて来たことを喜ぶ人は一人も居なかった。
だからこの子は3歳まで放って置かれ、
言葉も話せず、立って歩くことすら知らなかった子だった。
「ほう」は思います。
自分は「阿呆」の「ほう」という名前だから
だから自分は「アホウ」なんだって…。
本当に阿呆なのだろうか?
純真で無垢なこの子は、人を妬んだり、恨んだり、そんな事はしない。
知らないのだから。
知らないと言うコトは不幸で哀れむ事なのだろうか?
少しでも世の中を知っている人は
彼女を心から哀れむ。
物事の真理を見抜くことの出来る人は
彼女を心から尊ぶ。

医者の娘「琴江」様がいらっしゃる。
美人で聡明で優しく誰からも好かれている。
でも、本当に誰からも好かれているのだろうか?
誰からも好かれるという人間は、この世に存在するのだろうか?
美人というだけで恨みを買うかもしれない。
聡明というだけで妬みを買うかもしれない。
人の心は複雑すぎて解らない。

琴江様の兄「啓一郎」様がいらっしゃる。
知恵もあり、心も豊かで落ち着きもある。
若い医者の卵は「宇佐」という娘に世間の道理を教える。
「宇佐」の為に教えるのだろうか?
人に上下の隔てのあるこの世界で
世間の道理を教える事が、本当に彼女の為になるのか?
自分に憧れを抱いているこの娘の
潤んだ瞳に写る、
凛々しく、賢い自分を見たいだけなのではないだろうか?

半人前の引き手(岡っ引き)に「宇佐」という娘が居る。
無垢で無知だった町人の「宇佐」は
医者の卵の「啓一郎」のもと、色々な知恵を授かる。
知恵が付くと今まで不思議と思わなかったコトに
疑問が湧いてくる。押さえきれない疑問。
疑問は大きく膨らんで疑念へと変化する。
人は知恵を授かったが為に
疑問、疑念、疑いが心に渦をまき不安が光を覆い隠す。
知る幸せ。知らない幸せ。
どちらが幸せなのか?
宇佐は真っ直ぐに叫ぶ
「なぜ?なぜ皆はウソを隠そうとするの!」っと。

同心の男「渡部」様がいらっしゃる。
知恵も腕もあるのだが、勇気をどこかに置いてきた。
世間の道理が見えすぎて
道理に縛られ身動きが出来ない。
知恵に縛られ行動が出来ない。

誰もが不幸になろうとして、生まれて来る訳ではない。
みんな幸せになりたくて生きている。
みんな幸せを掴むために一生懸命に生きている。
道理を間違えて悪い道に進んだとしても
幸せになりたかったから…
一生懸命に生きていたからだ。

でも、幸せと反対方向の道を一生懸命に進んでも
幸せにはなれない。
誰もが知ってるこの道理が
一生懸命になりすぎて見えなくなって
道を見誤る。

さても、複雑に書きましたが…(笑)
宮部作品らしく複雑に見える糸も
ほどいてみれば明朗会計そのモノ。

なんだか、いつもの宮部作品とは一味違いますね。
なんだろう?彼女の中で「死」という感覚が生まれたような
そんな気がします。
私とほぼ同年齢なので感じるのですが
20代、30代では感じなかった
「いずれ、みんな死をむかえるんだな~」っという
淡い思いを…。
平均年齢80歳だとしても
もう人生の半分以上に来てしまったんだな~っという思い。
自分にもいずれは訪れる「死」に対しての畏怖を。

まぁ~そんなに暗い作品ではありません。
読めば、もしくは読んだひとなら
私のこの気持ちが解るかも(笑)

車に乗る時に免許証を携帯しますよね~
ところが知らないで免許を持つのを忘れていたら
知らないでいる以上は、怖くないです(笑)
ところが
免許忘れた!っと気付いて知ってしまったら…
怖くてドキドキします(笑)
色んな悪いコトを考えてしまいます(ハハハ)
人間って不思議な生き物ですよね~
今は情報が溢れている時代だから
知らないで居られない。
そうした時は逃げようがないので
注意して、物の真理を見極める「目」を持たなくては
でもね~子供や半人前の大人にはムリなんですよね~。
ちゃんと生きて、ちゃんとした大人にならねば
難し~い