徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

ダーウィンよさようなら

2014年10月22日 | 進化

久しぶりに面白い本に出会った、”ダーウィンよさようなら;牧野尚彦” 進化論に関する本です。進化論といえばダーウィンの自然選択説が現在でも主流だ。遺伝子・DNAの知見が増えた事による中立進化説というのも有るが、これも自然選択説との並立と考えられる。

しかし、実際の現存する生物や化石を観察すると、とても自然選択だけで進化してきたとは考えられない事象が多く存在する。例えば鳥類の飛翔。鳥が飛ぶためには翼と羽とそれを駆動する強力な胸筋とその筋肉に十分な酸素を供給する肺を含む循環器系と軽くて変形しにくい骨格が必要だ。問題はこれ等の要素が全て揃わないと鳥は飛べないと言うこと。偶然の突然変異で羽を持つ生物が生まれたとしても、その生物に羽を駆動する筋肉が付いていなければ飛べない。羽を持つ飛べない生物は生存競争に有利か?答えは明らかで飛べない鳥は生き残れない。だとすると上で書いた全ての要素を突然変異で同時に持ちえることが確率的にあり得るか?自然科学をまともに学んだ人ならこのような事が偶然起りえるとは到底信じられないだろう。

このような事例は腐るほどある。例えば眼の構造。軟体動物のイカ・タコの複雑な眼の構造が自然選択の偶然で出来上がった??? そんな事はまともに考えれば到底信じられない。また、奇妙なことに眼にしても鳥にしても或いはクジラにしても進化の中間型と言うのが見つからないのだ。つまり、鳥になりかけの生物、クジラになりかけの生物が見つからないという事実。これは化石だけの話しではなく現存生物を探してもその様な中間型生物は見つからない。自然選択で継続的に進化が進むなら中間型が存在するはずだがそれが無いのだ。

遺伝子には全ての生命情報がコードされている。しかし、身体の全ての細胞に同じ遺伝子が存在するにもかかわらず、ある細胞は神経となり、またある細胞は骨格となる。これはたった一個の受精卵が分裂増殖する発生の過程に秘密がある。遺伝子には条件により発動される仕組みがありそのスイッチが順番に入ることで身体を形作っていく。DNAはその順番に作られるタンパク質をコードしているに過ぎない。問題はスイッチの順番、プログラミングのほうだ。この発現プログラムがどのように構成されたかと言う問題の答えを我々は見出して無い。と同時にこのメカニズムがそのまま複雑な進化と関連している可能性が高い。なぜなら、生物の身体は発生時にかたち作られるからだ。

著者の牧野氏の経歴は本には書いて無い。WEBで調べると県立尼崎病院の名誉院長とある。在野の研究者ということだろう。しかし、氏の生物学、生命高分子学、進化論への知識ははるかに私の認識を超えている。在野だからこそ既存の権威に主ねず自由な発信が出来る面もあるだろう。このような重厚な思索家が存在する事は日本人も捨てたものではないなと感じさせる。

さて、本の結論に戻ろう。自然選択説が成立しないとして氏の主張は何かと言うと、生命分子の自己組織化あるいは極論すると ”考える” 生物高分子ということだ。タンパク質に代表される生物高分子はシステム最適化を志向して自己を変えていくことが出来るという仮説。

生命発生に先立ち分子進化の過程があった。それに関してこう書いてある、

” 生命以前の分子進化の初動期には、システムはまだ原始的で未熟な段階にあったから、偶然性が成功の基であるという、旧式の進化パラダイムの全盛期があったかもしれない。しかし、すでに生命と呼べるほど分子達の認識的連携が進んだとき、いつしか偶然性の意義は、システムの退廃をもたらす元凶としてみる影も無く後退し、そこで創造的進化を生み出したのは、まぎれもなく分子系の自己組織化作用だったのである。 ”

以前にも書いたがタンパク質は驚異的な物質だ。それはDNAに記述された一次元コードをもとに再生され、溶媒中で親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸の組み合わせにより3次元構造にフォールディングされることで機能する。この分子の3次元構造は記憶と演算機能があり、電子的な論理システムとして働く。分子の自己組織化、氏の言うところの”考える分子”だ。

正直言って、この本を読んで進化の秘密が解ったという感はしない。逆に謎は深まった。 我々は生物に関してほとんど何も解って無い... 、と言うのが率直な感想である。

 


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