【第21話】『女間者』脚本 柴英三郎 監督 村山三男
【第22話】『第一の脱落者』脚本 柴英三郎 監督 村山三男
【第23話】『大石伏見に遊ぶ』脚本 池田一朗 監督 西山正輝
【第24話】『見えざる魔手』脚本 池田一朗 監督 土居通芳
【第21話】と【第22話】では、江戸急進派の中でも急先鋒と云われた高田郡兵衛(田村高廣)が何故真っ先に脱名したのかを描きます。
高田郡兵衛の脱名について従来の忠臣蔵では、叔父である旗本・内田三郎右衛門(堀雄二)の娘・美弥(珠めぐみ)との縁談話が持ち上がり、旗本の身分が得られることに魅力を感じてしまったからだ、張りつめていた糸がぷつりと切れてしまったのだ。というような解釈だったと思いますが、本作ではもうひと捻りした物語に仕上げています。
郡兵衛は妹のおその(真屋順子)を吉良邸内に腰元として潜入させ、吉良の内部情報をスパイさせています。その過程でおそのの夫・島彌助(田村亮)が切腹するという悲劇に見舞われます。それでも郡兵衛は亡き殿の御無念をお晴らしするという大義のために、おさとに夫・彌助が切腹したときに使用した刀を渡し、彌助のためにも吉良の動きを掴むように命令します。
たとえ、吉良上野介(市川中車)に操を捧げてでも……。
折しも、上野介の実子で米沢上杉家15万石当主・上杉綱憲(天田敏明)が、父・上野介を米沢に連れて行こうと計画します。米沢に匿うことで、赤穂浪士から守ろうという策です。
米沢に行かれては仇討は難しくなる。おそのはついに上野介と情を通じ、米沢への旅程の情報を手に入れます。
大石内蔵助(三船敏郎)は吉良一行の宿泊予定の宿場に、赤穂浪士たちが参集するという情報を流し、吉良方に動けば襲われる、危ないという印象を与え、上野介の米沢行きを阻止することに成功するのです。
一方、いかに情報を得るためとはいえ、夫以外の男と情を通じたその身を恥じたおそのは、夫の墓前で、夫が切腹したときに使用した刀で己の喉を撞き自害してしまいます。おそのの遺体を抱きしめ、泣き崩れる郡兵衛。
事の次第を知った内蔵助が言います。我々が為そうとしていることはなにか。それはただ単に吉良の首を獲るという事ではない。曲がった御政道を糺すために御公儀と一戦交えようとしているのだと。道を糺すための戦いを成そうとするものが、道に外れたことをするべきではない。
郡兵衛は己の行動を大いに後悔するのでした。
そんな折、先に行われた赤穂浪士たちの江戸での会合の摘発に躍起になっている柳沢吉保(神山繫)でしたが、なかなか証拠がつかめず、幕閣内では柳沢の責任を追及する声が上がり始めていました。
己の権力維持の危機を感じ、柳沢は一層探索の手を強めていきます。
会合が行われたと思われる時間に、堀部弥兵衛(渡哲也)、茅野和助(島田順司)、勝田新左衛門(寺田農)らがどこにいたのかが追求され、郡兵衛は叔父の内田三郎右衛門の助けを得て、皆で飲んでいたと口裏を合わせます。
直参旗本である内田三郎右衛門の証言とあらば、探索方としても聞かないわけにはいかない。こうして堀部らは追及の手をのがれるのですが、これに納得しない柳沢吉保は直々に内田を呼びだし問い質します。
全てを承知の上で柳沢は、内田に取引を提示します。それは高田郡兵衛を内田家の養子に迎えれば、探索は打ち切るというものでした。
郡兵衛ほどの急先鋒が寝返ったとあれば、赤穂浪士たちに最早仇討の意思なしという証拠となるとして、幕閣内での責任追及を逃れられる。それになにより、赤穂浪士たちへ与える動揺はかなり大きい。その点を狙った柳沢の策でした。
内田は郡兵衛を諭します。これは同士たちを守るためだと。
妹夫妻を犠牲に供したことを後悔していた郡兵衛は、次は自分自身が、同士のために「犠牲」となることを決意するのです。
いかに裏切り者の謗りを受け、世間の笑いものになろうとも、同士のためにわが身を犠牲に供する。
こうして高田郡兵衛は、誰にもその真意を知らせることなく、脱名第一号の道を選んだのです。
郡兵衛のことをよく知る堀部らは、この郡兵衛の行動を大いに訝しみます。そんな中、大石だけが、郡兵衛の胸中を察していたのでした。
【第23話】および【第24話】では、大石が如何にして伏見の色街で遊ぶに至ったかが描かれます。通常の忠臣蔵では、いきなり伏見の色街で遊女たちと鬼ごっこに興じる内蔵助の姿が映し出され、はたしてこれは世を欺くためか、それとも本当に仇討を遂げる気がないのか?ということが取り沙汰されるという展開ですが、本作ではここにもまたひと捻り加えた物語となっております。
江戸から京・山科に帰った大石は、次々と降りかかる難題に心ここに非ずといった風情。これを心配した大石の妻りく(司葉子)は、叔父の小山源五右衛門(北竜二)に頼んで、伏見の色街で気晴らしをさせようと気を回すのです。
小山に連れられ、内蔵助は大石三平(竜崎勝)を伴って伏見へと繰り出すのですが、伏見にあっても内蔵助は苦虫をかみつぶしたような表情で黙って酒を飲むばかりで、一行に遊ぶ気配もない。
しかし夕霧太夫(池内淳子)の哀しい生い立ちを聴き及び、苦しい時、哀しいときこそ笑うのだという、色街に暮らす者達の在り様を知るに及び、内蔵助の表情が自然と綻んでいきます。
鋼のように強い武士の魂をもった内蔵助でしたが、固いだけではぽきりと折れてしまう恐れがある。しかしそこにばねのように柔らかい伸縮性が加われば、その強靭な武士の魂は無敵のものとなる。
柔らかさ=強さであることを、大石は色街に暮らす者たちから学んだのです。
公儀は浅野大学に対する最終的な措置の決定を先延ばしにして、なかなか下そうとしない。これは赤穂浪士たちの仇討の意志を挫けさせようとする、柳沢の策でした。
ならば我慢比べだ。決定が下されるまで、伏見に遊び続けることを決意する大石でした。
長く苦しく、険しい道を同士たちに強いねばならない。
しかし、やるしかないのだ。
赤穂城開城の際、連判状に名を連ねた者は130名近くいたといいます。それが実際の討ち入りに参加したのは47名。およそ80名もの人たちが待ちきれずに脱落していきました。
ある意味とても残酷な事を、大石は同士たちに強いた。それでもやらねばならぬ。
亡き殿の御無念を晴らすため、曲がった御政道を糺すため。
武士とは何者なのか。このような時代に武士は何をすべきなのか。
その答えを得るために。
長く苦しい戦いへと進む道を、決然と歩む大石でした。-〈つづく〉-
『大忠臣蔵』
出演
大石内蔵助 三船敏郎
大石りく 司葉子
堀部安兵衛 渡哲也
高田郡兵衛 田村高廣
島彌助 田村亮
おその 真屋順子
茅野和助 島田順司
勝田新左衛門 寺田農
矢頭右衛門七 田村正和
矢頭長助 加藤嘉
大石主税 長澄修
大石三平 竜崎勝
小山源五右衛門 北竜二
内田三郎右衛門 堀雄二
美弥 珠めぐみ
お蘭 上月晃
加倉井林蔵 高松英郎
与助 上野山功一
松原多仲 神田隆
丸木七之介 千波丈太郎
建部政宇 加藤武
夕霧 池内淳子
柳沢吉保 神山繫
大石無人 辰巳柳太郎
千坂兵部 丹波哲郎
吉良上野介 市川中車
昭和46年 NET 三船プロダクション