大前研一のニュースのポイント

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高速道路無料化の背景と財源確保の方法

2009年09月15日 | ニュースの視点
2日、JR東日本の清野智社長は記者会見で、民主党が掲げている高速道路の通行料金の無料化について「政府の政策として実施していくのはいかがなものか」と述べ、影響が及ぶことに懸念を示した。

また、日本経済新聞社が民主党新政権の柱となる政策の評価を都道府県知事に聞いた調査で、高速道路の無料化を支持する知事は3人だけだったことを明らかにした。

民主党が如何に政策の本質を理解していないか、私としては非常に残念だ。

というのも、元々「高速道路の無料化」という案は、私が考え出したものだからだ。

小泉元首相により高速道路の民営化が進められそうになったとき、私はその問題点に気づき、それを是正するために資料をまとめたのだ。

2002年の11月当時、民主党の有力議員にも一通りの説明はしたのだが、全く理解して頂けなかったようだ。

ここで私が2002年の11月11日に発表した「高速道路問題」の概要について説明したい。

まず、私は「高速道路民営化の問題点」を指摘した。

例えば、民営化という行為は端的に言えば「20年経過したら無料にする」という約束を反故にするのもので、そもそも道路公団を作った時の考え方や法律に違反しているということ。

また、民営化により「有料道路を使うこともできるが、遠くて時間がかかっても必ず無料の道路だけで行ける」という大前提が崩れると、それにより発生する諸問題があるということ。

この他にも高速道路民営化については様々な問題があり、それを1つずつ指摘した。

そして、それを解消するための施策として私は「高速道路の無料化」という案を提示したのだ。

当然のことだが、そこには39兆円もの道路公団の借金をどうやって返済していくかというプランも含まれている。

こうした背景を理解せず、「無料化=選挙に有利なキーワード」という短絡的な思考をするから、「財源をどうするのか?」という指摘を受けて民主党はまともに回答できないのだ。

今、民主党は「高速道路無料化の財源はどうするのか?」と批判を受けているが、私はその答えも明確に提示していた。

2002年当時、日本道路公団の資金収入と資金支出は5.5兆円でバランスがとれていたが、問題は「資金収入の大半を補助金・借入金で賄い、資金支出の大半を借入金の利払と償還に費やしている」ことだった。

5.5兆円の資金支出のうち、金利・償還費等だけで3.3兆円。そこで私が考えたのは、次のような方法だ。

1.まず、実は約13兆円もある道路財源なら17%程度削減することは可能。それにより資金支出における道路建設費・維持管理費等(2.2兆円)を捻出する。

2.更に大きな問題である39兆円の借金返済のためには、新たに「プレート課税」を導入する。これにより、金利・償還費等(3.3兆円)を賄う。そして、その一環として「高速道路の無料化」を実現する。

「プレート課税」とは、全国の保有車両のナンバープレートに固定料金を課金するという方法だ。

例えば、営業用貨物車は20万円/年、自家用乗用車は3万円/年という金額を設定する。

利用者は年間プレート課税を支払って高速道路無料の権利を得るか、今まで通り都度高速道路料金を支払うかを選択できる。

このプランを導入すると、道路公団の抱える39兆円の借金をおよそ10年~12年で返済できる試算だった。

かつて小泉元首相はこの39兆円の借金返済を50年先送りにすると言っていたが、後の世代に借金を背負わせるという発想は問題外だと思う。

今後、人口も減っていくのだから、何とか「現役世代」でこの借金を返済することを考えるべきだ。

そのために現役世代には10年だけ我慢して欲しい、その代わり10年経ったら全て無料にする、というのが私の考え方だ。

もし民主党がこうした説明をできていたなら、今のように批判を受けていることはないと思う。

戦後初の第1党になった民主党だが、こうした背景を含め政策の本質を理解できていないと、今後地獄を見ることになるだろう。

逆に、「借金を作って次の世代に背負わせようとした自民党」とは違う「本当の解決策」を提示して実行できれば、それは大きなアピールになると思う。

今回、私は知人の民主党議員数人に、2002年当時の関連資料を送付した。今からでも遅くない。民主党議員にはきちんとこの問題について勉強し直してもらいたいと思う。

41 コメント

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おそらく… ()
2009-09-15 18:20:14
今の政治家に、この意見を理解しようとする人物は居ない気がします。(民主・自民・その他含め)

日本は終末を待っているのか…
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プレート課税は自動車税? (大前ファン)
2009-09-15 23:02:15
現在自動車税がかかっているのに、「プレート課税」でさらに税金がかかるの?おかしくないか
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Unknown (Unknown)
2009-09-16 01:16:24
プレート課税って自動車税アップと同じ訳か。
受益者課税の原則から外れるから今までの議論と大して違いが無い。
そういうのが許されるんならガソリン税上げても一緒だし。

そもそも自動車税アップとか若者の車離れとか言ってる時にまずい気がする。自動車の所有者が減るだけで景気の底上げ効果としての意味が無いと思う。
(レンタカーとかハヤリだし。)
自動車産業殺して地方にお金をばら撒くというのが方針ならありだけど。

民主党もマニフェストで掲げてしまったから無理にでも無料化ってのが意味がないという結論にたどり着くのが普通だろうになぁ~。
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プレート課税? (Unknown)
2009-09-16 08:04:34
プレート課税は乗用車に関しては、かなり安くしないと受け入れられないでしょう。
年3万円は論外です。
それだったら今のままがいいです。

借金はこれまでの経営の問題。それを利用者に押し付けてはいけません。
30兆円は利息の雪ダルマで120兆以上になるといわれています。

国営化して借金を一気に払って、段階的に無料化を実現していく民主案に賛成です。
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定期みたいなものですかね (散歩人)
2009-09-16 10:14:38
なかなか面白いかと思います。
利用者は選択可能と記述してあるので、高速利用の定期みたいなものを想定しているでしょうか。(定期だと経路決まってるので、年間フリーパスみたいなものですかね)
法人などでは、フローティングライセンス形態などにしてみても、利用形態に幅ができてもいいかもしれないですね。
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Unknown (ken)
2009-09-16 11:57:21
まず、この話は単独でされるものではないと思う。
CO2の問題や他の自動車関連税制の変革と共に話さないとそれこそ現実離れな議論になるだけだと思う。
乗用車の3万/yearはちょっと安い気がする。どういう試算で3万に至ったかはわからないけど恐らく、「これだけの財源が必要だからそのためには逆算してくと3万だろう」って思考なんじゃないかと思う
真に必要な考えは世帯及び業者がいくらに設定したらどれくらい使うかっていうとんでもなく面倒臭い計算の結果だと思う
世帯や業者も制度が改訂するたびに考え方を変えて、支出最小化行動をとるので、予測はとても難しい
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謎が深まる (景人)
2009-09-16 14:00:21
 無料化の利点のひとつに、料金所が不要になるから出口をたくさん作れること・料金収集人が不要になることなどがありますが、大前案ではそれは実現できないということですか?
 高速道路の恩恵に浴さない人(ここでは無料で高速を利用しない人)もクルマを保有していると高速料金を負担するということですか? もちろん物流その他で、実はすべての人が無料化の恩恵を受けるように思うのですが、だとすればクルマを保有している人だけがそれを負担するというのは何故ですか?そう考えると、事実上税で財源を担保する民主党的考えのほうが真っ当だと思うのですが、違うのでしょうか?
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うーん… (ks)
2009-09-16 17:35:49
ナンバープレート税は反対ですね。今だって自動車税で結構な額とられているんですから。

やはり国有化→税金による一括償還→高速道路無料化の方が良いと思います。
受益者負担も、車を直接使用する方々だけでなく、間接的(物流による消費者)にも関わることだと考えてます。
CO2排出の問題も、今すぐ全高速道路無料化での対応でなく、3年4年の段階的計画案を作成して実施すれば良いのかと。
尚且つ、ハイブリットの普及にEV車の開発や、電気スタンドなるインフラ開発を政府が協力することで、CO2排出削減も目指せるし、何よりも新しい産業の発展にも寄与できるのではないかと思うのですが…

近年、大手企業ではガソリン値上げの影響で、国内の物流の一部をJR貨物に切り替えていることで、減少の一途であったJR貨物の物量が伸びている=CO2削減にも繋がる点も見逃せないと思ってます。

国を運営するための財源確保に税金は大切です。しかし、税徴収の公平制は判るのですが、高速道路に関して言えば、ここは一旦国有化して国民から徴収した税金で一括償還が良いと思います。
難しい税金の使い方のテクニックなんて、国民にとってはどうでもいいんですよね。

あとはこの税金はこの事にしか使えないなんて言う既存の考えをぶち壊し且つ国民が納得できる説明を民主党がいかにできるかだと思います。
要はちゃんと説明責任をもって、国民に判りやすく使ってくれってことです。

年金の問題もあるから大変だけど、今ある問題のほとんどが、長年自民党の行ってきた政策のせいであることも、良い意味で民主党にとって説明しやすい素地だとも思っております。
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あと一点だけ (ks)
2009-09-16 17:56:05
高速道路無料化の問題は、他の年金等諸々の問題と一緒にしてはいけないんでしょうが…

全税金徴収の抜本的見直しも必要なんじゃないのでしょうか?

例えば国家運営税なる大元の税制案を作り、この大元の上に、各個別の新しい税制法を体系化して、某かで必要なのに財源が足りない問題に対しては、今まで以上に柔軟に、他で徴収した税金を割り当てたりできるようにするとか。
勿論、既得権益が発生しないようにすることや、旧大蔵省のように強い権限を一つに持たせないようにする必要がありますけどね。


新しい税金作るより、抜本的見直しを民主党にはして欲しいなぁと…

大雑把で抽象的なことしか書けませんですが、どうでしょうか?大前さん!?
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面白い着想です。 (不動産ブローカー)
2009-09-16 20:08:12
 民主党の思考回路から言って受け入れやすいのではないでしょうか。利用者は事前に一括定額徴収と言うのは徴収コストから言ってメリットがあります。
 不安な点を上げさせてください。

 ①利用料金(税)を支払ったかどうかはETCを使って判  断することになると思いますが、ETC普及を担って  きた独法が益々太らないか?
 ②徴税窓口は陸運局になると思うが、普通の人は2年  に1回だ。徴税だけ市役所にやらせたらコストがメ  リットを上回らないか。
 ③高速道路の少ない地域と多い地域同額でいいの   か。とか、排気量による差を付けようとか。    難癖がついて立法の主旨が骨抜きにされる。

①,②はテクニカルなものだから毎年がんばって改善して行けばいいことだが③は困る。

前回言ったように私は道路はユニバーサルサービスであるべきだと思っています。税は徴収コストの面からも担税力の面からも消費税が最も平等です。
最低限の衣食住、医療、教育にかかる費用を定額給付するなら、消費税はどれだけ高くてもいいと思う。

 と言う考え方から民主党の言うように無駄の削減でまかなえないものは次の選挙で消費税のUPをお願いする。に賛成だ。

 道路はユニバーサルサービスと言う考え方が日本人に浸透するまではこのやり方がいいだろう。
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