大前研一のニュースのポイント

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腐敗官僚を生んだ中国経済の特徴/これから中国に求められる人材

2009年12月08日 | ニュースの視点
中国政府が実施した国勢調査によると、08年末の総人口は13億2802万人。

うち都市で生活する人は6億667万人、農村住民は7億2135万人で、都市人口の比率は45.7%。

09年以降も都市への人口流入は続いており、都市人口比率は5割に迫っているとのこと。

中国では都市化と都市の大規模化が進め、2007年末には100万人都市が100都市を数え、2025年には220に達すると言われている。

これは驚異的なスピードだと言えるだろう。このような大都市の誕生が中国の経済成長を支える根幹をなしていると私は思う。

そして農民から調達した「土地」を商業地や住宅地に転化させることで大都市化と経済成長が促された。

「土地の使用目的」を変えるだけで、税金を上げることなく富が創出されるという事例は世界を見渡しても他に思いつかない。

それゆえ大都市の市長と関連する議員が絶対的な権限を持つという構造になっている。

ここに中国が抱える問題の1つが隠れている。

それは大都市がそれぞれ暴走しており、そこにいる役人が不正に手を染めているということだ。

今年の6月から開始された重慶の腐敗一掃運動では数千人の逮捕者が出ている。

大都市化によって都市では莫大な金持ちが生まれる一方、役人の給料は低いままだ。

不満を抱えている役人は、裏から働きかけて不正を働くという構図だ。

これが中国経済のエンジンを支える部分にまで及んでいる。

中国が抱えるもう1つの問題は、大都市化されず残された7億人に及ぶ農村人口をそのまま放置しているということ。

今の中国が持つ経済力と技術力があれば、農業を近代化して農村人口を減少させることは簡単ではないのか? と感じた人もいると思う。確かにその通りだが、実はその後が問題だ。

もし中国が米国と同様レベルの生産性になるように農業の近代化を進めたら、おそらく農業人口を1/20に減らすことが可能だ。

7億人の農業人口は数千万人になる。しかしそのとき、残りの6億数千万人が「失業」に陥ってしまう。

さすがの中国でも、6億人を越える人たちが都市に雪崩れ込んできたら大変な事態になるだろう。

100万人都市が400や500も出来て、今のようにそれぞれ勝手気ままにやられては収拾がつかない。

こうした背景があるために、本当は米国並みの農村の近代化を図る技術も経済力もあるのに中国は「農村の近代化」ができない宿命に陥っている。

私は中国を訪れるたびに、各所から経済顧問になってくれと頼まれることがある。

中国には広大な「土地があるだけ」になっていて、それをどう活用したら良いのか分からないというのだ。

例えば「中国のデトロイトになりたい」という思いを持っていても、単にイメージしかなくそれを実現するためのプロセスを理解している人材がいないのだ。

これからの中国の都市政策は、産業政策と合わせて遂行していくことが必須になってくると私は思う。

例えば日本向けのBPO事業で急成長している大連のように、「具体的な産業政策」を掲げそれを5年~10年かけて育てていくということだ。

中国が抱える人口問題は非常に悩ましい問題だ。

この十数年間、中国は圧倒的な経済成長を成し遂げた。しかしこれまでの経済成長の延長線で考えていても、人口問題・都市問題を解決することはできないと思う。

具体的な産業政策を立案しそれを長期間に渡って育てていけるような人材が、これからの中国には求められている。

15 コメント

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腐敗官僚を・・拝読して (佐野 隆浩)
2009-12-09 09:38:42
少ない中国経験(展示会、販路開拓)ですが、中国の役人(市の局長、処長クラス)と会う機会があり、同じ人間と数回接すると、お土産を期待している雰囲気を感じます。通訳も(選び間違いかもしれません)この人は「時計が好き」だとか、今の日本では信じられないことですが、実際に経験しました。“四川大地震”の際にも、「日本の○○企業は、○万元寄付した。清涼飲料会社は、ミネラルウォーターだけだった。」とか、被災の援助に関しても露骨に要求してきました。中国通と自称する人と話しても、中国に関する日本人の書物を読んでも、「中国は古くから、任官に際して贈り物(金品)を要求する国民性である。」と一言で片づけています。役人が企業の名刺を持っていたり(日本の様な第三セクターとは思えない)、お金に関する意識は、かなり強いと感じました。しかしながら、貪欲さと言うか積極性は何時も感じることです。GDPの成長を見ても(公表が正しいとするならば)、底力を感じます。貧富の差を是正することは無理でしょうが、国としての政策(農業、都市)により、13億人の国家を維持することは可能であると思っています。
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ムリでしょう(佐野さんへ返信) (シロートな経済好き)
2009-12-09 13:25:35
「GDPの数字」自体が腐敗役人の実績作りの為にねじ曲げられ、上層部は実態を把握出来てないんじゃ(私はそれにより生じるバブルが怖い)
 「国としての政策により、13億人の国家を維持する」には中国は大き過ぎる。現在の一党独裁から米の様な合衆国なEUの様な共同体による分割統治に変えて行かないと今は成功してても、いずれ分裂してしまう気がします。
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不安点の多い中国だけど… (シロートな経済好き)
2009-12-10 14:54:06
ドバイと異なり桁違いの実需は醍醐味ですネ。
「都市問題」「問題」の他にも環境、資源枯渇、人権、一人っ子政策がもたらす弊害等を中国は克服し上手く成熟していけるのか、隣国日本はどう立ち合っていくのか気になります。
当面、経済は上海万博の後、政治は2012年の党大会がポイントになるのかな…
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やっぱりこのサイトはいいですね。 (sano takahiro)
2009-12-10 17:41:04
コメントを投稿すれば、何らかの反応がある。色々な人の様々な意見を見ることができる。確かに、政策で13億人の国家を維持することができるというのは、個人の希望的な意見であると思います。分割統治も一つの選択肢であると思いますが、現在の重慶市委書記である薄煕来氏が積極的に進めた外資導入など、各市独自の経済政策は今も進められています(どの国のどんな企業が入るかわからない経済特区など無駄と思われるものも依然として作られていますが)。一党独裁ですが、地方を独立(経済的に)させる方向に進んでいます。一党独裁であったからこそ、中国が短期間で経済的に巨大になったとも言えます。脅威でもありますが、中国さらなる成長に期待している一人です。
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「中国のさらなる成長」にとどまらず… (シロートな経済好き)
2009-12-11 00:42:57
 私は「中国のさらなる成長」にとどまらず「日中共存共栄」まで希望します。
 人件費の安い中国で物を作り、それを借金漬けの米消費者に売って日本企業は成長するもののその実感は私達にはない…ちょっとおかしいでしょ。繁栄は共感したい。
 それに「一党独裁で短期間で経済的に巨大になった中国」は「戦後、自民党安定政権下で短期間で経済復興した日本」と重なって見えます。(現在「少子高齢化問題を抱える日本」は将来「一人っ子政策をとった中国」がぶつかる問題でもありますし…)
 ただ、日本の場合と違い中国の成長は地球規模の資源の枯渇、環境破壊へと繋がりかねない。エコを日本が手本となって進め中国の成長を安定させ共存共栄できないだろうか。そして選挙を前提とした民主主義の米と日米同盟でその価値観を共有してるように、中国とも同様の価値観を共有し合えないだろうか…と考えています。
 私自身は「がめついなぁ」と思う中国ではあるけど、とにかく好きになる事に決めました。興味を持たないとお互いの理解なんかできないでしょ。
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Unknown (Unknown)
2009-12-11 06:19:53
すでに中国国内で利益分配が難しくなってきている業界もあります。つい先日中国の赴任から帰ってきましたが まぁ人件費が高くなったこと。以前は求人募集したらすぐに集まったが 今じゃ来てくださいとお願いしている状態。 中国全土ではないでしょうが非常に経営を圧迫している状態です。私どもの会社ではすでに中国は過去の物として捕らえインド ベトナムのさらに賃金が低い地区に増資と動き始め業界によってはこのような動きもあると考えてください。ローカル企業でも私どもの業界は同じ動きですよ。(機械製造メーカー) 
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空洞化 (tkhs5)
2009-12-12 14:16:03
過去の日本と同様に中国でも労働集約的な繊維などは、どんどん空洞化が進展していくのでしょう。
そして資本や産業集積が進んだ製造業でかっての日本のような高度化が進んでいくわけです。
ただ中国は政治システムやインフラ、労働倫理等のレベルが最盛期の日本に比べてやや低く、強力な競合相手も世界中で多いので、かっての日本のような独り勝ち状況にはなりにくいでしょう。
高齢化と政治リスクによって、かってのロシアのように分裂・崩壊していく可能性も否定できません。
それでも日本の欧州病が民主党のせいで長期化するとすれば、中期的には日本の製造業は中国やASEANなどへと進出していくしかないのでしょう。
早めにオランダなどを見本に徹底的な社会構造変革(高齢既得権層優遇から若年労働者を中心としたSafetyNet充実、一方での労働や医療農業分野等の徹底規制緩和、特に税制を変え、国民総背番号制、法人税を世界最低水準へ下げ、消費税・所得税アップ、外形標準課税、環境税・・)実施なら、海外からの投資も増加し、比較的早く経済が回復していく可能性はありますね。
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シロートな経済好き (tkhs5さんへ)
2009-12-12 17:20:17
「強力な競合相手も世界中で多いので、中国企業は独り勝ち状況にはなりにくい」との事ですが、問題は中国が生産拠点から世界の市場になり、ホームラウンドで保護され資源も獲得済で人材(大前先生も呼ばれてる)も日本のリストラ熟練工を「先生」として迎えてる点でして…強いゾコレは(しかもがめつい!)。この中国といかに不得手を補完しあう共存共栄を築くか。
 私は空洞化で生き残ったアップルやインテルら米企業(ソニーがアップルを手本に配信ビジネスを狙ってるでしょ)や貿易で鍛えられた製造業ノウハウの他業種への横展(楽天がトヨタから武田氏を迎えムダ省りしてる)やオンリーワン中小企業への支援策に注目してます。
 ちなみに税制の国民総背番号制は基礎控除を減らし給付(登録すれば手続不要自動振込)を増やし登録を促す作戦らしいですよ(月刊税理、民主党政権で税制はこう変わる!参考)
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日中に限らず… (シロートな経済好き)
2009-12-13 18:48:11
日米同盟をより良くする為に、今ここでアジアと本心で和解し、日本がアジアと米(地図的にはオセアニア)との橋渡し役になれないだろうか…(な、なぜだ。なぜここで英のブレアの顔が浮かぶんだっ(笑))
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それに日中友好にしとかないと (シロートな経済好き)
2009-12-14 14:03:24
中国共産党が大都市制御不能でバブルが弾け過剰生産のツケで雇用と政情が悪化したらハケ口は外(反日)に向くやん(なんて不毛な…)。
その時に「日本も以前、バブルで失敗したんですよ、今度は安定した井戸を一緒に掘りましょう」と建設的にいきたい。
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