荻野洋一 映画等覚書ブログ

http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi

キューブリックの青の時代

2012-03-24 06:59:46 | ラジオ・テレビ
 巨匠たちの無名時代にスポットを当て、飛躍の瞬間をさぐるという趣旨のドキュメンタリー・シリーズ《巨匠たちの青の時代》というものがNHKで何回か放送されて、ここまでココ・シャネルやマイルス・デイヴィスなどが取り上げられたようである。スタンリー・キューブリックの回『俺の眼を見つけた!』を見たら、珍しいものをたくさん見せてもらった。キューブリックが高校生の時に「ルック」誌に掲載してもらったルーズヴェルト死去翌日のキオスクの売り子の写真であるとか、「ルック」でボツになり現在はNY市立博物館アーカイヴにひっそりと保管される地下鉄での乗客居眠り写真シリーズなど。
 極めつけは、長編デビュー作『恐れと欲望』より以前、22才の時に作られた短編ドキュメンタリー『拳闘試合の日(Day of the Fight)』(1951)のフッテージのかなりの部分を見られたこと。助監督は高校の同級生、製作費は自分の貯金および親戚筋から借金して調達した。「今回、所在不明と思われていた貴重なフィルムを入手することができた」と述べるNHKアナのナレーションが、番組スタッフの昂揚を物語って微笑ましい。
 『拳闘試合の日』を見ると、キューブリックという映画作家がどのようにして、初期に試みられたスチール写真の連続実験から、やがて遠大な移動撮影への嗜好に至ったのかがよくわかる。また、この4年後に監督し、ユナイテッド・アーティスツによって買い上げられたフィルム・ノワールのなかなか出来のいい長編第2作『非情の罠』(1955)の前半で見られるボクシング・シーンの原型がここにあったか、と納得した。

 ちなみに、東京都内にあるニュースリールの貸出をおこなう某社のフッテージの中に、リアルではあるが妙になめらかな横移動撮影を伴う戦場シーンが紛れ込んでいる。あれがニュースリールでないのは一目瞭然だから大丈夫だとは思うが、世のテレビスタッフは気をつけられたし。それにしてもなぜ『突撃』の1シーンが、あの会社のアーカイヴに紛れ込んでしまったのだろう?


最新の画像もっと見る

コメントを投稿