荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『LOOPER / ルーパー』 ライアン・ジョンソン

2013-01-15 00:25:00 | 映画
 タイムトラベルものというのはどうも理屈っぽくて、知的SF小説の題材としてはともかく、映画との形式的親和性に欠けるきらいがある。あれこれと説明に尺を割かねばならず、こまごまとした事情やルールを観客がようやく理解したあとでも、せいぜい登場人物たちは判で押したように、パラドックスの阻止やら修正やらに躍起になるのが関の山である。「精神的コストパフォーマンスの低いジャンル」などと断じると元も子もないが、『LOOPER / ルーパー』の作者ライアン・ジョンソンもそれは同感であるらしく、タイムトラベルを活用した黒社会の暗殺ものという題材だというのに、事情そのものに気乗り薄で、登場人物たちの顔つきが気だるくたわんでいるのである。
 タイムトラベルの具合やそこで生じる面倒について、主人公(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)が、未来から派遣されてきた組織の支配人(ジェフ・ダニエルズ)や、現代にタイムスリップしてきた30年後の自分(ブルース・ウィリス)に二度三度と感想を訊ねてはみるのだが、未来の連中はいっこうにちゃんと説明してくれない。やれ「説明がややこしくなるから」だの「もううんざりだ」だのとぶつぶつ呟くのみで、まったく要領を得ない。要領を得ないのは主人公だけでなく、観客はずいぶんと協力的に作者に寄り添って見てやらねばならないが、未来人がタイムトラベルを発明したことからどんな災難を経験したのかといった経緯までこちらに察してくれと言わんばかりに全シーンが構築されているのは、少々虫がよすぎやしないか。
 結局、大風呂敷を広げきれずに、田舎にたたずむ一軒の農家ですべての事柄をやっつけようとする。たしかに農家が一軒あれば、映画はできる。その点は、いろいろな古今の作品を見てきたこちらも首肯するけれども、そもそも提示の方法論がちぐはぐだったのではないか。誰かがひそむ小麦畑に向かってライフルを構える、農家の若き母親エミリー・ブラントの健気な勇姿は悪くはないのだが。


丸の内ルーブル(有楽町マリオン新館)ほか全国で公開
http://looper.gaga.ne.jp


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