荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『風にそよぐ草』 アラン・レネ

2010-02-27 06:02:25 | 映画
 試写にて、アラン・レネの新作『風にそよぐ草』を見たのだが、これがあっけにとられずにはいられない傑作(奇作)であった。
 冒頭のアスファルトからはみ出るぺんぺん草をとらえた移動ショットから、いきなり形容しがたいムードが垂れ込めて、女性歯科医のショッピング、バッグ引ったくり、熟年男の腕時計の電池交換など、じつにどうでもいい事柄の数々が、嘘のようななめらかさで連綿と接合されていく。しかもこのどうでもいい事柄が、あたかも人類の生存にとって重要な一擲であるかのような、過剰なるサスペンス性を帯びてくるのである。引ったくりに遭ったバッグが宙を舞うスローモーションがリフレインされる。わざわざ反復しなくても、とも思うのだが、何か厳格なる理由がありそうなので、笑ってはいけない…
 ストーカー行為まで発展していくあたりから、物語がようやく形を取り始めるが、このなつかしいような、見たこともないような感触は、いったい何なのだろうか。私が最初に見たレネ映画『去年マリエンバートで』(1961)に感じた最初の、あの奇妙に鋭い感覚を思い出した。
 皆様、見てのお楽しみであります。かなりたまげますぞ。


本作は、フランス映画祭2010関連企画《アラン・レネ全作上映》の枠内で上映予定(一般公開は未定)
東京日仏学院(市谷船河原町) http://www.institut.jp
ユーロスペース(渋谷円山町) http://www.eurospace.co.jp


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4 コメント

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Unknown (じょーたろ)
2010-03-02 22:43:28
イメージ・フォーラムで「去年マリエンバートで」を観ました。《奇妙に鋭い感覚》に戸惑いながらも、贅沢な体験をしたと感じました。



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アラン・レネ (中洲居士)
2010-03-02 23:56:24
じょーたろさん、こんばんは。

松林宗恵『社長道中記』とレネ『去年マリエンバートで』を同時に堪能されているその感覚、素晴らしいですね。じょーたろさんはまだ大学1年でしたよね。その若さでシネフィル道をたくましく歩んでおられますね。

わたくしが『去年マリエンバートで』と出会ったのは高校生の時でした。もう四半世紀前、有楽シネマでのことです。有楽シネマは数年前に閉館して、現在は有楽町イトシアになっています。『ヒロシマモナムール』もほぼ同時期にこの小屋で見ました。

その後、大学に入学して、授業の中で藪野健先生がアラン・レネの短編ドキュメンタリー『ゲルニカ』『夜と霧』を上映してくれたんです。これが決定的でしたね。
それからすぐに『世界のすべての記憶』も見ました。場所は映像カルチャーホールです。映像カルチャーホールというのは、旧そごう有楽町店の階上で読売新聞社が主催していた上映館で、そごうが倒産した後は、ビックカメラ上の「シネカノン有楽町一丁目」になりました(先ごろ閉館したとか)。ここではジャン・ルーシュをはじめ、さまざまな海外ドキュメンタリーを見た覚えがあります。


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Unknown (じょーたろ)
2010-03-03 00:18:15
またまたすいません。貴重なお返事ありがとうございます。

観ていたのは「夜と霧」だけだったので、あれには驚きでレネの特集に行きたくなりました(その前にロメールもありますが)。

最近は「イエローキッド」のワンカットにびびったり、今日は友人とアンゲロプロスに感激したりと調子(?)が良いです。あと、4月で大学3年になります(笑)



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『風にそよぐ草』の公開が決定 (中洲居士)
2011-01-07 00:51:47
朗報です!! 
すでにご存じの方も多いかもしれませんが、アラン・レネの『風にそよぐ草』の公開が決定したようです。岩波ホールの今年のラインナップに入っているのを、同館のホームページで確認できました。配給会社は未定のようです。
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