荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『斑女(はんにょ)』 中村登

2010-09-08 01:19:09 | 映画
 夫の吉田喜重とはおよそ正反対の意味で、岡田茉莉子を的確に使いこなした監督に、松竹の半巨匠、中村登(1913-1981)がいる。彼女主演、村松梢風原作の通俗的風刺作品『斑女(はんにょ)』(1961)を、神保町シアターで今回初めて見ることができた。まさにこのコンビによるティピカルな一本と言っていいだろう。軽快でありつつ、時に辛辣であって、サバけたように撮っているが、「粋」というほどではない。明朗なコメディに見えて、暗い倦怠がいつのまにか登場人物全員に迫り来る。傑作からはほど遠い作品であるが、以下、本作の長所と思われる点をざっくばらんに挙げておきたい。

 武満徹作曲、谷川俊太郎作詞、ペギー葉山の主題歌『恋のかくれんぼ』はなかなかの名曲。30余年の後、石川セリが武満徹ソング集に収録している。
 そして、小津映画でおなじみ、桜むつ子が、キャバレーの小遣い婆として登場し、新人ホステスの岡田茉莉子に、むかしの自分を述懐するシーンには、胸に迫るものがある。「アタシだって、若い頃はあんたみたいにキレイだったもんさ。浅草オペラから、銀座のカフェー。むかしは良かったねぇ…」 そう言ってから桜むつ子は照れ隠しに、スッペのオペレッタ『恋はやさし野辺の花よ』を口ずさんでみせる。いいシーンではないか。
 それから、男から男へ軽快に乗り換えて首尾よく稼いでいるつもりが、自称・工作機械会社社長(佐藤慶)に全財産をだまし取られ、ついに発狂するホステス(峯京子)。これは、峯京子にとって、生涯最高の演技ではないか。この人は宝塚出身だからか、声がすばらしい。引退して40年余。いまごろどこかで幸福に暮らしておられることであろう。


東京・神田神保町の神保町シアター〈映画と酒場と男と女〉特集内で上映
http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/


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2 コメント

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峰京子 (jennjenn)
2010-09-11 13:56:07
久々にコメントさせていただきます。
『班女』は岡田茉莉子主演作品の中で『河口』(中村登、1961)と共に最も好きな作品です。
ご指摘にありましたとおり、この映画の峰京子はじつに素晴らしいと思います。
彼女は『愛染かつら』(中村登、1962)でも、ヒロインに意地悪な小姑役で岡田茉莉子と共演しているのですが、この映画での前半の「ガメ女」から後半の「狂女」への鮮やかな変貌ぶり、そして何よりも、岡田茉莉子の共演女優として、最高の力量を発揮していると思います。
京都のホテルのロビーで、泣き崩れる峰京子を岡田茉莉子が抱き寄せる場面が印象的でしたが、このような、女同士の息の合った掛け合いを岡田茉莉子と演じられた、数少ない同世代の女優だったのではないでしょうか。
また、この映画では、岡田茉莉子、峰京子、芳村真理の「ホステス3人娘」の豪華衣装競演も見逃せません。
とりわけ、岡田茉莉子が杉浦直樹に別れを告げるときに来ている、ドレスの色彩、光沢、模様は、あまりにも複雑すぎて言葉で形容できません。
あれこそ、日本映画史上最強の「勝負服」だと、ぼくは勝手に思っています。
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岡田茉莉子のことなど (中洲居士)
2010-09-12 08:51:55
jennjennさん、お早うございます。

岡田茉莉子や峯京子、芳村真理をめぐり、豊かな感想で盛り上げていただき、本当に有難うございます。

あと、たしかにおっしゃるように、岡田茉莉子と杉浦直輝が別れる時の岡田茉莉子の衣裳は、色といいゴージャスさといい、なんとも良かったですね。

ちなみに、私の友人が、映画の冒頭とラストで登場する、東京タワーを見上げるあの斜面、あれは麻布我善坊町ではないかと、町歩きしながら発見・類推したメールを、拙記事があがった翌日にくれました。
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