ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

温度計をください。

2019-03-06 23:30:40 | 日記
だいたいにして、男は気が小さい。
身体が弱るとことさらに、気が小さくなる。

ウチのおっさんなんかその典型で
以前、風邪で8度ちょっとの熱が出たときに
あんまりグッタリしているので
からかい半分で「一緒に病院に行ってあげようか?」
と声を掛けたら
なんと、「頼む!」と言ってきた。

まあ、気の小さいこと、小さいこと。

さてさて、我が高齢者住宅の住人、カンジ(87歳)。
優しくて穏やか、しかも頭もしっかりしているので
女性職員は競い合うように彼とのオシャベリを楽しんでいた。

そのカンジが近頃、少々弱ってきている。
いや、もともと高血圧で心臓に問題を抱えているのではあるが
歳を重ねるごとに
自分の病気や動悸、息切れといった症状を
くよくよ、くよくよと思い煩うようになってきたのだ。

そうなると男は手に負えない。

「動悸が激しいんで、ご飯、運んでもらえますか」
「熱っぽいんで、病院に連れて行ってもらえませんか」
「体調が優れないんで、娘を呼んでもらえませんか」
と、いちいちコール。

食事を持って部屋を訪ねると
「この分じゃ、もう長くはないと思うんです」と
蚊の鳴くような声で言う。

担当ケアマネージャーによれば
「身体よりメンタルが弱い人」なのだそうである。

今日もカンジからコールがきた。
何かと思えば、温度計を貸してほしいのだとか。
体温計の間違いかと思ったが、そうではなく
部屋の温度を計りたいのだと。

事務所に温度計なんぞない。
そう伝えると、カンジは切羽詰ったように言い始めた。
「困ったなあ、それは困ったなあ。
実は温度計が壊れてちゃって
部屋の温度がわからないんです。
事務所にないなら、誰か温度計を持っている人を知りませんか?」

なんだかかなり困っているようだ。
仕方ないから部屋まで様子を見に行った。

カンジさん、温度計がなくてどうしてそんなに困ってるの?

「だって、あれがないと部屋の温度がわからないでしょう?」
エアコンに表示されてますよ。
「あれは信用できないじゃないですか!」
そんなことないですよ、みなさんそうしてますし。
「え? みんな温度計なしで暮らしてるんですか?」
え、まあ。あとはご自分の感覚で…
「え、部屋が暑いとか寒いとか、みんな感覚でわかるんですか?
は、はあ。

とにかく家族に電話して温度計を買ってきてもらう
ということで、どうにか話はおさまった。

高齢になると、暑い寒いがわからないことが多く
訪室のたびに「この部屋、暑い?寒い?」と
聞いてくる利用者も確かにいる。
しかし、ここまで温度計に固執する人ははじめてだ。

勤務時間が終わったのでそのまま帰ってきたが
カンジは今ごろ
温度計がないことが心配で心配で
ますます動悸が激しくなって
眠れない夜を過ごしているかもしれない。

いやはや、男は本当に…