ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

短いお話

2015-12-14 23:27:01 | 日記
「幸せのハーモニカ」に登場したミネさんは
本当にかわいい。

トイレ誘導のため深夜にミネさんの部屋を訪ねたときのこと。

「トイレに行くお時間ですよ~」と声を掛けると
背が低くてころころしている彼女は
「はぁい」と返事をして
起き上がりこぼしのようにコロンと身を起こし
立ち上がるためにベッドから足を下ろした。

しかし、すぐに立ち上がろうとしない。
「足が、足が…」と
床上10センチあたりでぶらぶらとさせている自分の足を見つめ
つぶやいている。
え、足? 足が痛いのだろうか。

するとその次に出た言葉は
「痛い」ではなく、「短い」であった。

足が短くて床に届かないのね。
笑わせてくれるわぁ、ミネさん。

居室においてある家族との連絡ノートに
このやりとりを書いて「笑えました」と締めくくっておいた。

後日ノートを見ると、娘さんから
「久しぶりに口角を上げて笑いました。ありがとう」
と、返事が。

こんな面白いネタばかり、家族に伝えられたらいいんだけど…ねえ。




ゆっくりつきあう

2015-12-11 19:43:00 | 日記
「私、行かなくちゃならないんです」
「これを届けに行かなくちゃならないんです」

深夜23時。
洋服や下着、新聞、手紙の束、健康診断票
湿布薬、宗教の本などをぎっしり詰めた紙袋を両手に
パジャマ姿のK子が廊下を歩いていた。

どこに行くのかと尋ねても「すぐそこ」としか答えず
もう夜だから―といっても納得せず
「私、行かなくちゃならないんです」と繰り返す。

まいったなあ。
夜勤は私一人だし、これから1時間は
オムツ交換やトイレ誘導のスケジュールが詰まっている。

しかしレビー小体型認知症による妄想が激しく
一度言い出したら聞かないK子を
放っておくわけにもいかない。

しょーがない! 今宵はカノジョに付き合うか!

仕事のキリがつくまで少し待っていてくださいと言ってなだめ
1時間の排泄介助ラリーを早めに終わらせると
私はK子の部屋まで戻った。

K子は痺れを切らし、キツネのように目を吊りあがらせている。

お待たせ、K子さん。
私が玄関までお送りしますから、行きましょう。

エレベーターに乗り、長い廊下を歩き、ようやく玄関まできたところで
私は彼女に確認した。

本当にお一人で行かれるんですか?
真っ暗だし、寒いし、アナタはパジャマのままだけれど
本当に行かれるんですか?
私はアナタが行きたいという場所を知らないから
一緒に行くことはできません。ここまでです。
それでもアナタは、本当に行かれるんですか?

「私は行きます。一人でも大丈夫です」
キッと私を睨みながらそう言うと、K子は暗がりの中を歩き出した。

行ってらっしゃい、気をつけて!
元気よく声を掛けたそのすぐあと、私はK子の2メートル後ろを尾行。
この距離なら、転びそうになっても助けられる。
しかも、彼女が歩いているのはウチの駐車場だ、
車にはねられたりする危険はまったくない。

駐車場の端までたどり着いて、K子の足がぴたりと止まった。
明らかに途方に暮れている。
この先、どうしたらいいのかわからないのだろう。
そもそも、自分でもどこに行くのかわかっていないのだから。

タイム・アップとするか。

とんとんと後ろから肩をたたき、声を掛けた。
K子さん、そろそろ帰らない?

驚いて振り返った彼女は、私を見てボロボロと涙を落とし始めた。
「迎えに来てくれたの?
私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったの。
もう、おうちへ帰りたい」

冷えた体を抱きかかえながらお部屋に連れて帰ると
彼女は「疲れちゃった」と言ってすぐにベッドに入ったのだった。

介護職に就いて2年が過ぎた。
それくらいで偉そうな口を叩くなと言われそうだが
最近ちょっとばかり、認知症の方との接し方がわかってきた。

技術だけじゃないね。知識だけでもないね。
高齢者や認知症を抱えている人とは
“ゆっくりつきあう”ことが本当に大切なんだね。

もっとも、この“ゆっくりつきあう”時間が足りないのが介護現場の実態。
それが問題なのである。




同級生と昭和を歌う

2015-12-07 00:41:18 | 日記
AKB48劇場が10周年を迎えたんだそうである。
“たかみな”とやらは現役のまま10年間頑張ってきたんだそうである。

ほぅ。もうそんなになるのか。
芸能界がわけのわからないことになってきたぞ
そう溜息をついたのが、ついこの間のことのように思えるのだけれど…。
カラオケでモー娘。が歌えれば時流に乗っている!
そんな愚かな思いも、もはやカビの生えた日記の1ページか…。

さて、きのうは学生時代の仲間たちとの同窓会をかねた忘年会。
思えば彼らとの出会いは、およそ40年前のこととなる。

「○○は△△が好きだったらしいよ」
「××は○○と映画に行ったことがあったって、知ってた?」

しこたま酒を飲んではいるが、会話の内容は中学生。
離婚、子育て、孫の誕生でなんだかまあるくなったS、
若き日のパンチパーマが仇となり額が広くなったM、
加齢による骨のゆがみで足裏に歩行困難な痛みを抱えたI。
もうすぐ還暦を迎える仲間たちが
まるで10代に戻ったかのような話に沸くのである。

そして二次会、カラオケへ。
盛り上がるのは矢沢栄吉と中島みゆき。
誰もいきがって“セカイノオワリ”や“いきものがかり”なんか
歌わない。いや、歌えない。

いいな、いいな、いいな。
この昭和感、たまらんなあ。

20代の息子や姪っ子、30代の仕事仲間なんかと話をするのも面白くはあるが
落ち着くのはやっぱり同じ時代を歩いてきた仲間たち。
(ウチのおっさんもその一人であるが)

このかけがえのない仲間たちと
記憶障害や身体障害により酒を酌み交わすことができなくなる日も
いずれ、やってくる。

年に一度は同窓会を開こう。
楽しい時間の余韻に浸りながらほろ酔い加減で帰る道すがら
そう心に誓った。