10月11日付のブログ「巡り巡るミチコの世界」で紹介した
物取られ妄想の激しいミチコ。
彼女が今日も、血相を変えて事務所にやってきた。
ドアを開けたものの、一瞬誰だかわからない。
小さなお爺さん?
いや、よく見るとミチコだ。
そっか、いつものズラを被っていないんだ。
どうしました?
「大変なんです。私のカツラが盗まれたんです」
「さっき来たヘルパーが盗んだに違いありません」
今度はズラか、やれやれ、うんざりだぜ。
しかしそう突き放すわけにもいかず
一緒に探しましょうと部屋に戻る。
ほ〜らね、ありましたよ、大切なカツラ。
それはベッドの掛け布団の下から
いとも簡単に発見されたのだった。
なんでもかんでもヘルパーが盗んだと大騒ぎするミチコ。
現金ならまだわかるが
ズラだぜ、ズラ。
んなもん、誰が盗むかってえの!?
そしてもう一人。
この人が入浴援助を利用することになったら
いったい誰が引き受けるのか!?と
ウチの職員を怯えさせていた巨漢のタエコである。
まだかろうじて一人で入浴しているタエコだが
このところ認知症がひどくなり
銀行の通帳やカードを盗まれたと言っては
事務所を訪ねてくる。
今日は、通帳でもカードでもなかった。
「誰かが間違えて私のコートを着て行った。
部屋にあるのは私のコートじゃない」
と、汗だくになって事務所へ。
はいはい、じゃ、とりあえず確認しましょうと
一緒に彼女の部屋へ行く。
クローゼットのハンガーにかけられている白いコートを指差し
「ほら、これよ。これは私のものじゃないの」
「私のはもっと素材がいいし、高いヤツなの」
「だれかが間違って私のコートを着て行ったのよ」
と、興奮して訴え続けるタエコ。
私は言う。「困ったわねえ」
彼女も言う。「そうなの、困ったわ」
同じ「困った」でも、互いの意味は違うのだが…。
ミチコのズラと同様に、タエコにも言いたい。
巨漢のアナタにしか似合わないそんな大きなコート
誰が好んで盗むものか!?